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セーラの叔父さま 23話

叔父さまのプレゼント

その日曜日はいつもよりほんの少し仕事が早く終わったのでセーラは足取りも軽く屋根裏部屋に戻った。
叔父さまはもう自分の部屋に戻っているようだったので軽くノックをして叔父さまの部屋に顔を出す。

「やあ、セーラ。今日は仕事が終わるのが早かったんだねえ。君とベッキーにプレゼントを買ってきたよ。ベッキーを呼んで来てくれないかな。早く渡してあげたいからね」

叔父さまはセーラとベッキーに約束通り手荒れのクリームを買ってきてくれていた。それから美味しそうなお菓子の詰め合わせと可愛いハンカチーフ。

「もっといっぱい買ってあげたかったんだけど、今回はミンチン先生やアメリア先生、料理番たちにも買ったから、あなたたちだけ目立つようなものを買うと逆に虐められたら大変だと思ったの。また今度こっそりとあなたたちだけに良い物を買ってあげるわね」

セーラは叔父さまの優しさが嬉しかったが、それ以上にベッキーは涙を流して感激していた。

「フランソワーズさん。おら、こんなすてきなものもらったのうまれてはじめてだ。ほ・・・ほんとうにおらのようなものがこげないいもんもらっていいんだべか?」
「良いに決まってるじゃありませんか。あなたは毎日お仕事に頑張っています。そしてセーラお嬢様にとっても優しくしてくれています。本来ならもっと良い物をあなたにあげたいぐらいです」

叔父さまの言葉を聞いてうれしさのあまりますます泣いてしまったベッキー。
そういうベッキーの姿を優しく見つめる叔父さま(フランソワーズ)。
そういう光景を目にしてセーラの中の人である私はこんなことを思っていた。
(叔父さまって本当に邪心もなくて心から優しいのね。どうしてこんなに優しいのかしら?ずっと観察していても下心もありそうにないし・・・それとも私が叔父さまに騙されているだけかしら?)

そんなセーラの耳元で叔父さまがフランス語でそっと囁く。
「セーラ、心配しなくても僕はロリコンではないし、スケベな下心なんて持ち合わせていないからね」

私の心を見透かされたような言葉に一瞬慌ててしまったが、叔父さまは私にウインクをしてきた。
「そのハンカチーフ、気に入ってくださったかしら?」


次の日、叔父さまはミンチン先生他学校関係者にプレゼントを配った。
大半は喜んでくれたがミンチン先生は険しい顔をしてこう言った。
「フランソワーズさん、そういうことをされると困ります。あなたがこういう前例を作ってしまうと今後、この学院関係者は何かがあるとおみやげが必要だと考える者も出てくるかもしれません。
今回だけはこのレースのハンカチーフと香水、いただきますが、これからはこういうことは一切しないでくださいね」

本心は嬉しいのだが素直に喜びを表現出来ない人間っていつの時代にもどの世界にもいるが何だか損な性格だと私(セーラ)は思う。
人間って嬉しいときは嬉しい。悲しいときは悲しい。と言える方が生き易いと思うのだが、そういう生き方は案外難しいのも事実。とにかく人生いろいろあるから偏屈になるのも仕方がない。
それにしても、文句は言いながらもちゃっかりと自分へのお土産は返さずに自分の物にしてしまうミンチン先生の性格が笑える。素直になればいいのに・・・。

ミンチンはフランソワーズ(叔父さま)からのお土産は嬉しかった。今まで学校関係者からお土産を渡されたことなんて一度もない。よく考えると生まれてから一度もプレゼントなんていう物は貰ったためしがない。誕生日にもクリスマスにも・・・。
ミンチン威信はそういうものだと思っていた。それが今日初めて貰えたのだ。嬉しくないわけがない。・・・とはいえ、喜びを周りに知られてはいけない。私の威厳が損なわれる。そんなことも考えていた。それでフランソワーズに苦言を呈したのだ。
お礼も言わずに苦言を呈するだけの自分を嫌な性格だとは思っていない。思いたくない。それがミンチンだった。


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