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セーラの叔父さま 30話

アーメンガード、あなたに知られたくなかったの

その日は遅くまで仕事をさせられた上にいつもの食事抜きの虐めをされてお腹がペコペコにすいていた。
「叔父さまの部屋に行けば何か食べるものがあるはず、頑張ってこの階段を上がっていこう・・・」
などと呟きながら自分の部屋の前にたどり着くと戸の隙間から明るい光が漏れていた。
「アーメンガードが来ているんだわ」
アーメンガードはいつもぼんやりしてて気が利かない。
でも、性格は優しくて憎めない。
セーラが一日中こき使われて疲れていても全く気がついていない。
ほとんど食事を貰えずにお腹をすかせていても気がつかない。
悪気は無い。・・・無いのだけど・・・少しは察して欲しいとセーラは思う。
しかし、プライドの高いセーラは自分がこき使われて疲れているとか食事も満足に貰えずにお腹がすいているとかは絶対に自分の口からは言いたくないのだ。
いや、言いたくないどころかそういうことがばれるのは嫌なのだ。
自分が惨めな状態なのを気づかれたくないのだ。

ある意味、セーラの性格はかなり面倒くさいとも言える。

今回はアーメンガードは父親から送られてきた本を持ってきていた。
自分は読めないからセーラに読んで貰って内容を教えて貰おうというつもりのようだ。
セーラは本が好きだから素直に読んだ後教えてあげると言えばいいだけなのに、父親に正直に自分自身が読んだのではないと言う必要があると主張する。
ああ、なんて面倒くさい性格なんだ。セーラの言うことは正論だけど、世の中正論ばかり言うのが必ずしも良いわけではないのだよ。
まあ、セーラはまだまだ子供だからそんなことに気がつくわけはない。

「嘘はね、悪いだけじゃ無くて卑しい行為なの」

そこでセーラは本心をつい言ってしまう。
「時々、私、自分でも悪いことをしそうな気持ちになることはあるわ。ミンチン先生に虐められているときに、カッとなってミンチン先生を殺しちゃう、とか。でも、私、卑しいことは出来ないわ」
小説版のセーラは結構性格がきつい。
その後セーラは
「あなたがおバカさんなのは、あなたが悪いんじゃないわ」
とアーメンガードに言いそうになって危ういところで口をつぐむのだ。
そして、
「のみ込みが悪いのは、あなたが悪いんじゃないわ」と言い直すのだ。

「たぶん、ものごとののみこみが早いかどうかがすべてではないと思うの。優しいことだって、周りの人にとってはすごく大切だと思うわ」
なんて良さそうに話しているけれど、結局セーラはアーメンガードのことを馬鹿だと思ってて自分は賢いと思っているのだ。
セーラ本人は気がついていないのかもしれないけれど、やっぱり自分は上の人間だって思っているのよね。
小説版のセーラは自分の思ったことははっきりと口に出す。ただ・・・アーメンガードに馬鹿だとは言わなかった。
それは自分自身やっぱり酷い言葉だと自覚しているらしい。
まあね、自分がどんな境遇になっても変わらずにいてくれる友人に馬鹿だと言うのはダメでしょう。でも馬鹿だと思っているのは否定できない事実。
そういう風な性格のセーラは人間らしくて嫌いでは無い。

アーメンガードは今で言う学習障害なのかもしれない。
読むとか書くとかいったことが苦手なのだ。
だからといって勉強が全然出来ないわけではない。わかりやすい言葉で説明してもらえたならばちゃんと理解出来るのだ。こういう子供の場合、その子に適した学習方法というものがあるはずだ。セーラがアーメンガードに本を読んでわかりやすく説明してあげるってことがそれだ。
アーメンガードの家は家庭教師を雇う程度のお金はあるはずだから、学校ではなく学習方法をきちんと理解した家庭教師に習えば友人たちに笑われたりして恥ずかしい思いをせずに勉強に打ち込めることが出来るかもしれない。それどころか得意分野を見つけることが出来ればものすごい才能が開花するかもしれない。
セーラに心の中で馬鹿だと思われているけど、アーメンガードくじけずに頑張れ!・・・と思わず応援したくなってしまう。ただ、アーメンガード自身はセーラにそういう風に思われているってことに気がついてないんだろうなあ。そこがアーメンガードの良いところでもあるが。
そうこうしているうちにベッキーがミンチン先生に叱られている声がかすかに聞こえてくる。
「ベッキーはどんなにお腹がすいていてもミンチン先生の夜食を盗ったりしないわ。あれは料理人が自分で盗んでベッキーのせいにしたんだわ」

セーラが肩をふるわせて小さな声で泣きじゃくった。
そこで初めてアーメンガードが気づくのだ。
「もしかして・・・失礼なことを言うつもりはないのだけど・・・もしかして、あなた、お腹すいているんじゃない?」
セーラは答える。
「あなたに知られたくなかったの」

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