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セーラの叔父さま 34話

右側の屋根裏部屋の少女へ

心地よく幸せな魔法は毎日続いていた。
そしてそれはセーラをいっそう強くした。どんなに辛いことがあっても屋根裏部屋に戻ると素敵なことが待ち受けていたのだから、幸せな気持ちで耐えることが出来たのだ。

そんなある日のこと、男の人が学校を訪ねてきて、いくつもの小包を置いていった。
どの小包にも、大きな文字で「右側の屋根裏部屋の少女へ」と宛名書きがされていた。

ああ、もうすぐだわ。この小包には美しい高価な服がいっぱい入っているんだわ。
私(セーラ)の知っている通りに話が進むのは不思議だと思いつつも嬉しかった。

「セーラ!何をぼんやりしているんです!早く小包を届けなさい」
きつい声でセーラを叱るミンチン先生。
「これは私宛に届いたのです」
「何ですって!?」
ミンチン先生は驚いて小包の宛名を見る。確かに右側の屋根裏部屋の少女と書いてある。
「何が入っているのです!?」
「わかりません」
もちろん私にはわかっているのだが、ここはお話の台詞通りに答える。
「開けてみなさい!」

箱の中には上等で高級そうな衣類、靴、ストッキング、手袋、コート、帽子、傘・・・などが入っていた。しかも「普段着に。必要ならば着替えを送ります」というメモ付きで・・・。

ミンチン先生の表情がさっと変わる。
もしかして私は間違いを犯したのだろうか?これまで知られていなかった親戚とか?叔父と名乗る親戚は専属メイドをつけてよこしたけど、この送り主はまた別の親戚なのだろうか?叔父を名乗る親戚はこちらに面倒なことを言ってこなかったから油断していたのかもしれない。
この送り主は金持ちで独身の年老いた伯父で手元に小さな子を置くのは嫌だが親戚の子を遠くから見守る方を好むっていうタイプなのかもしれない。そんな親戚が今のみすぼらしいセーラを見たら面倒なことになるかもしれない。

ミンチン先生は実はセーラ以上に<空想ごっこ>が得意なのかもしれない。自分の妄想におびえるミンチン先生。自分のしていることが良いことでは無いと十分に自覚しているのだ。

ミンチン先生が今、何を考えているのかを知っている私(セーラ)は可笑しくてたまらない。

ミンチン先生はセーラが父親を亡くして以来、出したことのなかった声で言った。
「どなたか、ずいぶん親切な方がいらっしゃるようですね。これからすぐ着替えてちゃんとした格好をなさい。教室で授業を受けてもよろしい。今日はお使いは免除します」

その様子を少し離れたところで見ていたフランソワーズ(叔父さま)は思った。
(僕という親戚がいてもミンチン女史は平気でセーラをこき使っていたのに・・・なんであんな洋服ぐらいでコロッと態度が変わるんだよ!あれぐらいの贈り物僕だって送ろうと思えばいくらでも送れるのに!なんかちょっと悔しいなあ!いや、ちょっとじゃないぞ、かなり悔しい!)

セーラが着替えるために小包を抱えて屋根裏部屋に上がって行くのを確認した後、フランソワーズは偶然を装ってミンチン先生に話しかけた。
「ミンチン院長、今、セーラお嬢様が何か大きな包みを抱えて上に上がって行きましたけど、何なんでしょうね、あの包み?」
突然現れたフランソワーズに一瞬ギョッと驚いたミンチン先生。
「あ、フ・・・フランソワーズさん・・・」
「どうしたんです?先生、顔色が悪いようですが・・・?」
「い・・・いえ、そんなことはございません。セーラさんに高価なお洋服が届けられたのです」
「高価なお洋服?一体どなたから?」
「わかりません。あなた、セーラさんに他にご親戚がいらっしゃるなんてこと聞いてませんか?」
「さあ、存じ上げませんが。私のご主人様に尋ねてみましょうか?・・・あ、そう言えば、以前、かなり面倒な気難しいご年配のご親族がおられるようなことをおっしゃってたことがあったような、なかったような・・・」
「え?め・・・面倒な!」(やっぱり、私の思ったとおりだわ。どうしよう?どうすれば怒らせないようにできるのだろう?)

(ふふふ・・・焦ってる、焦ってる・・・)
フランソワーズ(叔父さま)はミンチン先生が顔を赤くしたり青くしたりして焦っている様子が面白くてたまらない。

「私の旦那様からセーラお嬢様の事を聞いて、あの方がセーラお嬢様にお洋服を送ってこられたのかもしれませんね。もし、あの方だとすれば・・・セーラお嬢様のみすぼらしい格好とか食事も満足にいただけていないこととかを知ったら・・・大変なことになるかもしれませんねえ・・・」
「しょ・・・食事はきちんと与えています!食事抜きの罰はしつけのためです。あの子の教育のためなんです。ふ・・・服だって外に居る浮浪児達よりはずっとマシな格好ですわ」
「浮浪児と比べてですか・・・?それはちょっと比べる対象が酷すぎません?」

ミンチン先生は顔を赤くして黙り込んでしまった。


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