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セーラの叔父さま 16話

先生は親切じゃありません

それから数日後、私と叔父さまはミンチン女子学院にいた。

ミンチン先生の部屋のドアをノックする。
「お入りセーラ。
逃げずにちゃんと戻ってきたんだね。もっともお前の叔父さまとやらがお前の借金の肩代わりをしてくれなかったからここに戻るしか選択の余地は無かったと言うことだろうね。
叔父さまとやらはお金も出さないし、お前を引き取ってもくれないんだね。余程貧乏なのか、冷たいのか。いずれにせよ、当てにならない親戚だね」

ミンチン先生は憎々しげな表情でセーラに向かって語りかける。

「ミンチン先生、借金の支払期日後に手紙が届いたのでどうしようも無かったのです。
叔父さまは決して冷たい方ではありません」
「ふん・・・まあ、それはどうでもいい。それよりセーラの後ろに突っ立っている大女は一体何者なんだね。どうしてここに居るんだね?」

ミンチン先生に大女と言われた叔父さま・・・女装した叔父さまは神妙な顔で答える。

「初めまして、院長先生。私はセーラお嬢様の専属メイドでございます」
「専属メイドだって!?セーラは一文無しなんだよ。一文無しの今から台所メイドになる子に専属メイドだって!冗談はおよしなさい」

顔を真っ赤にして目をつり上げ怒鳴り散らすミンチン先生。
すました顔でにっこり笑って答える叔父さま・・・いや、専属メイド。

「院長先生。私はセーラお嬢様の叔父さま・・・私の旦那様から給料を頂いてここにこうしております」
「何だって!そんな話は聞いたことがありません。あなたはさっさとフランスに帰りなさい!」
「旦那様から言いつかっているのですが、セーラお嬢様の専属メイドをしながら余った時間に女子学院の仕事、例えばフランス語の講義なども必要ならするようにと・・・」
「フランス語?」
「はい、私は英語もフランス語も、ついでにドイツ語、イタリア語、スペイン語などヨーロッパ圏の言語はほとんど使えます。もちろん、院長先生からのお給料はいただきません。いかがでしょう?」

ミンチン先生は自分の損得にはすぐに反応する性格なので、この女が無給でフランス語の講義をするならば今のフランス語の教師を首にすればかなり支出が減ることを理解した。

「しかし、あなたはどこに寝泊まりするつもりなんですか?ここにはセーラのメイド用の部屋以外に部屋なんて物置ぐらいしかありませんよ」
「物置で結構です」
「でも、タダで寝泊まりさせるわけにはいきませんよ。部屋代はきちんといただきます。食事もここでとるなら食費もいただきます。それで構わないのなら特別に許可しましょう」

ただ働きに、部屋代、食費収入。この女、見栄えが良いから子供たちを教会に連れて行くとき一緒に歩かせば目立つに違いない。そうすればフランス語の美人教師のいる学校って噂が広まってこのミンチン女子学院に入学希望する生徒が増えるかもしれない・・・。

「おねえさま・・・」
遠慮がちにミンチン先生に囁きかけるアメリア先生。
「なんですか、アメリア!」
「あの・・・おねえさま・・・心の声がダダ漏れです・・・」

ミンチン先生は一瞬顔に火が付いたかと思ったがすぐに冷静そうな顔つきに戻る。

「おほん。とにかくセーラは台所メイド。お前はフランス語教師として今から働いて貰います。私の気に入らないと追い出されますよ。良く覚えておおき。さあ、行きなさい」

セーラと叔父さまは部屋を出ようとして後ろを向いた。

「お待ち、私にお礼も言わないつもりなのかい」

二人は立ち止まった。

「何のお礼でしょうか?」
「私の親切にですよ。この家においてあげる、私の親切にですよ」

おお!原作の通りの台詞を言ってる!
セーラの中の人である私は思わず嬉しくなってしまった。
ここはこの場面の重要な台詞を言わねばなりませんね。

「先生は親切じゃありません、親切ではありません。それにここは家ではありません」

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