セーラの叔父さま
1話 (どうやら「小公女」の主人公に転生したらしい)
私は日本全国どこにでもいるような平凡なおばさん。
・・・だと思っていたのに!
気がつくと何故か「小公女」の主人公セーラになっていた。
昨夜寝る前に近頃はやりの<転生もの>を読んでいたのが悪かったのか、
それとも単に夢を見ているだけなのか?
おそらく夢に違いないとは思うのだけどどうもこの夢は長い!長すぎる。
確かに私は結構長いストーリーの夢をよく見るのだけど
7歳の時にミンチン女学院にやってきて人形のエミリーを父親に買って貰うシーンから始まり毎日の生活もまるで普通に体験するかのように過ぎていく。
「小公女」の話は大好きなので何度も読んでいるからセーラがどうなるのかは知っている。
11歳になった時の誕生パーティーで父親の死を知らされどん底の生活をするはめになるのだけど・・・酷い飢えと寒さ!そんなの体験したくない!
でもね、この世界何故かほぼ小説の通りに進んでるようなのだ。
私が原作と違う行動をとってもいつの間にかほぼ原作のストーリー通りに話が進んでる。
そもそも英語なんて話せない私が英語しゃべってるしフランス語もしゃべれるし・・・
今この世界の私は10歳。
あと1年で悪夢のような生活になるのよね。
困った・・・なんとしてでもそれは回避したい。
これが私の見てる夢だとしても目が覚めない限り悲惨な生活が待ち受けているのだ。
ここから逃げ出して父親のいるインドに帰るなんていくら金持ちの娘だといっても10歳で出来るわけがない。
夢から覚めようと腕をつねってみたり色々してみたけれど元の世界に戻れないし・・・。
などと特別寄宿生であるセーラの豪華な部屋でひとり考えているとベッキーが暖炉の炭を交換しにやってきた。
「ベッキー、その仕事が終わればこの間のお話の続きを教えてあげるわね」
「お・・・お嬢様ありがとうごぜえます。こんなおらにいつも優しくしてくださってかんしゃしてもしきれないぐらいありがたいことでごぜえます」
いつものごとくセーラお嬢様はあくまでもお優しく下働きのベッキーはペコペコと這いつくばっている。
19世紀のイギリス。この時代は身分という物が明確に分かれていて金持ちの家に生まれた子供は下働きの苦労なんて全く考えずに育つ。
セーラはそういうことをちゃんと考えているように振る舞おうとしているがセーラ自身も気がつかない部分で貧乏人を自分よりも下に見ている。
子供の頃「小公女」を読んだ時にはそういうことは気がつかなかったのだが自分自身大人になるにつれてセーラは何にもわかっていないなあって思うようになった。
だいたいラストに自分が前以上にお金持ちのお嬢様になったときだってまるでお優しいお嬢様の顔をしてベッキーをミンチン女学院から救い出したけど、結局は自分付きの小間使いにしただけじゃありませんか。あの苦しい生活を支えてくれたベッキーに対して本当に恩を感じているのなら召使いではなくて<姉妹>的な待遇にしても良かったのではないかと思うのだ。
おっと・・・またくだらないことを考えてしまった。
今重要なのはセーラに転生?してしまった自分の運命を少しでも良くする方法を考え出さなくてはいけないのだ。
ベッキーが部屋から出て行った後また考える。
誰か私の助けになってくれる人は・・・いない。どう考えてもいない。
う~~~~ん。
いなければ創り出すっていうのはどうだろう?
身内はいないっていう設定だけど、実はいた・・・っていう設定に変更出来ないか?
身内、身内、身内・・・・・・父親の方にはいないが・・・亡くなった母親の方にいたっていうのはどうだろう?
母親には年の離れた弟がいたがインドで行われたクルー大尉と姉の結婚式にはまだ当時小さな子供だったからインドにまで行けなかった・・・だからクルー大尉自身もこの弟のことを忘れていて身内はいない、と思い込んでいたとか。
ああ、これなら不自然じゃないよね。母親の両親は母親(セーラの母)の死後しばらくしてフランスで亡くなっている。そのことはクルー大佐も知っていたが弟のことは忘れていた。十分ありうる話だよね。
問題は「小公女」という小説の中身がそういう変更を認めるか否かってことだけど・・・セーラ自身が日本人の中年のおばさんになってるんだから(笑)弟がいたっていうことぐらいの変更はいいよね。
うん。善は急げだ。セーラが10歳ということはまだクルー大尉は生きているから手紙を書いて弟の住所とやらを聞き出してみよう。
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