セーラの叔父さま 27話
ラム・ダス登場!
仕事が終わりセーラが屋根裏部屋に帰ってきてテーブルに上って夕日を見ているとすぐ近くで何か音がした。なにかキーキーと騒いでいる変な音だった。
(あ、お隣の猿だわ。ようやくラム・ダスに会えるエピソードが始まるのね)
「小公女」の話を知っているセーラは今から何が始まるかちゃんとわかっていた。
隣の屋根裏部屋の窓から姿を現したのは絵に描いたような生粋のインド人で、顔の色は黒く、目はキラキラ光り、頭には白いターバンを巻いていた。
セーラの思っていたとおり、ラム・ダスだった。
セーラはにっこり微笑み、ラム・ダスはセーラの方にちょっと頭を下げた。
その時、ラム・ダスに抱かれていた猿がさっと屋根に飛び上がり鳴き声をたてながら走ってきてセーラの屋根裏部屋に降りてしまった。
(ここでラム・ダスにインドの言葉で話しかけるのね)
「あのさる、わたしにつかまるでしょうか」
ラム・ダスは、思いがけないセーラのインドの言葉を聞いてびっくりしてしまったが、たちまちその顔は喜びに輝いた。
そしてお約束のエピソード通り、ラム・ダスはセーラの屋根裏部屋にやってきて猿を捕まえる。その時ラム・ダスはセーラの部屋の惨めな状態に気がつくが何にも気づかぬ様子で丁重にセーラにお礼を述べて元の屋根裏部屋に戻っていくのだった。
セーラは思う。
この時、ラム・ダスはセーラがインドの言葉をしゃべるのを聞いたはずなのにどうしてカリスフォード氏にそれを伝えなかったのだろう?セーラのことを事細かく話しているのにインドの言葉を話す、ということだけは伝えていないのよね。
どうして?そのことを伝えていたら、すぐにセーラが探している女の子だとわかったのに。
まあ、ここですぐに私が探している女の子だとわかってしまうとお話が終わってしまうからね・・・。
今から最終話までの怒濤の展開が始まるのだから今終わるわけにはいかない。
その日の夜セーラは叔父さまの部屋にいた。
「叔父さま、とうとうラム・ダスさんにお会いすることが出来たわ。
今日の夕方、ラム・ダスさんの連れていた猿が私の部屋に入ってきたの」
「そうか、それは良かったね。ミンチン院長の虐めも後もう少しの辛抱だね」
にこにこしながら私の話を聞いてくれる叔父さま。今日もマカロンとコーヒーを美味しそうにいただいている。もちろん、私もそれにお相伴させていただいている。
叔父さまの食べているマカロンはフランスにいる叔父さまの執事さんから送られてきたもので叔父さまの大好物なのだ。
「それでね、叔父さま。ラム・ダスさんって私の想像以上にいい男だったの。
『小公女』の翻訳本は何種類か読んだことがあるのだけど、翻訳する人によって年配の男性だったり、若い男性だったり違うのよ。だからこの世界のラム・ダスさんはどんな人なのか楽しみにしてたんです」
ものすごくご機嫌で目をキラキラさせながら話すセーラに叔父さまはちょっぴり驚いたようだった。
「セーラ、君がそんなこと言うなんて少しびっくりしたよ」
「え?どうして?」
「君が男の人についてそういう風に語るなんて意外だよ」
「そうですか?がっかりしました?」
「いやいや、ますます君に興味が出てきたよ。君の意外な面が見えて楽しいよ。
だけど、ラム・ダスがそんなにいい男だなんて同じ男の僕としては嫉妬しちゃうな」
少し茶目っ気のある顔で拗ねた振りをする叔父さまがおかしくてセーラは思わず笑ってしまった。
「大丈夫です。叔父さまの方が何倍もいい男ですから」
「そう?それは良かった。お世辞でもそう言ってくれて嬉しいよ」
「お世辞なんかじゃありません!ホントです!」
セーラの必死な様子がおかしかったのか、叔父さまは笑っている。
「僕も早くこの目でラム・ダスとやらを見てみたいな。僕以上にいい男かどうか見極めなくちゃいけないからね」