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セーラの叔父さま 20話

ミンチン先生とアメリア先生

叔父さまはセーラの専属メイド兼フランス語教師という立場なので比較的自由時間が多い。
セーラやベッキーが料理番たちにこき使われている間も案外のんびりと過ごしている。
時には自分の部屋である元物置部屋を片付けようとしては前以上に酷い有様にしたりもしている。

ミンチン先生の部屋で妹のアメリア先生と二人が何か話をしている。

「ねえ、お姉様、あのフランソワーズさんってどうしてこの学校にやって来たのかしら?」
机に向かって何か帳簿のようなものをつけていたミンチン先生は顔も上げずに面倒くさそうに答える。
「おそらくセーラの叔父とやらにセーラがどういう扱いを受けているか偵察するように言われて来たんだろうよ」
「でも、そんなに自分の姪が心配なら引き取って自分の手元に置けばいいのではないかしら」
「ふん、世の中には身近に子供を置いて世話をしたがらない、金持ちの独身のおじさんなんていう人がいるんだよ。遠くから親類の子供の幸福を見守っているのが好きなのさ」
「それじゃ、セーラに対してあまり酷いことは出来ないわね」
「何ですって!アメリア、私がいつあの子に酷いことをしたって言うの?」
「ご・・・ごめんなさい、お姉様。そんなことはないですね。一文無しの子を引き取って十分にご飯もたべさせていますものね」
アメリアは姉であるミンチンににらまれると何も言えなくなってしまうのだ。

ミンチンは本当はセーラをもっともっとこき使っていじめてやろうと思っていた。
金持ちで甘やかされて育ってそれでいて優しそうなセーラが気にくわない。お金を失って下働きをさせてこき使っても屈しないセーラが気にくわない。
だけど・・・叔父とかいう人物が彼女にはついている。
ミンチン上流女史寄宿学校でこき使って今までの鬱憤を晴らそうと思って、セーラの借金の肩代わりをしたのだ。だからこちらが損したお金を叔父から受け取らずにセーラ自身をこちらに引き戻したのだ。それなのに予想外の専属メイドというのが付いてきた。
追い返そうと思ってたのに無給でフランス語の授業をするっていう言葉でついついあの女をここに置いてしまった。
確かにあの女授業は上手いし生徒の評判もいい。先日やって来た市長の奥様にも好かれたようだ。彼女を怒らせると寄付金の額が減るかもしれない。そういうわけでますます追い返すことが出来なくなってしまった。
目先の欲に負けてしまった自分を恨めしく思うミンチンだった。

苦虫を噛みつぶしたような表情のミンチンに空気の読めないアメリアが言った。
「ねえ、お姉様、フランソワーズさんのお洋服ってどこでお買いになってるのかしら?いつも素敵なものを着ていらっしゃるでしょ。やっぱりあれはフランス製なのかしら?」

「そんなことどうでもいいです。私は忙しいんです。あなたもしなくちゃいけないことがいっぱいあるんじゃないの?こんな所で無駄口ばかりたたいてるんじゃありません!」
「は・・・はい、お姉様。」
あわてて部屋を出て行くアメリア。

廊下でばったりとフランソワーズに出会う。
「おお。マドモアゼル・アメリア。今日も素敵なお洋服ですわね。あら、その口紅は新色なのね。良くお似合いですわ」
フランソワーズに褒められたアメリアは顔を赤らめる。
アメリアは今までこういう風に褒められた事は無い。勿論姉にも一度も褒められたことなどない。だから、褒められるとどぎまぎしてしまう。
フランソワーズは毎日顔を合わせる度にさりげなく何かを褒める。アメリアだけが特別では無い。誰に対しても褒めているのは知っているが褒められるとやっぱり嬉しい。
姉がもっと人の気持ちがわかる優しい人だったら良かったのに。そうすれば自分もこんな風にいつもびくびくしているような性格にはならなかったかもしれないのに。
だが彼女は姉だけが悪いわけではない、自分自身が変わらなければいけないということも心の底では考えていた。・・・でも、何も出来ない弱い自分がいた。

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