ルールは変えられる。個がメディアになる時代の「パブリックアフェアーズ」〜PR3.0 Conference を当日レポート
「パブリックアフェアーズって何だろう?」
皆さん沖縄より、こんばんは。昨日に引き続き、PR3.0 Conferenceをオンラインで視聴しまして、トークタイトルの意味もわからず、登壇者の面々に惹かれて興味を持ち…。大正解でした!
数々の専門用語や横文字が飛び交う中、タイムリーな文春砲や検察庁法にも触れたり、登壇者それぞれの専門分野から見た動きや思想など、この短時間で深い見識のお話を聴けて感動してます。素晴らしい…。
その分、香ばしいくらいに濃厚な話が炸裂して、現在レポートが難航してます。あしからず…。
PR3.0 Conference 2日目のテーマは「TECHNOLOGY」
2020年5月21日、22日の2日間に渡り、PR3.0 Conferenceがオンラインで開催されました。登壇者同士をZoomで繋ぎ、YouTubeライブで動画を配信。
1日目に書いたレポート がこちらです。
2日目は、Session.1 をじっくりと視聴しました。
まずは、登壇者の自己紹介からスタート
モデレーターを務めた尾上 玲円奈(おのうえ れおな)さんは、今トークのテーマでもあるパブリックアフェアーズ、ロビイングなどの実務にも携わっている。パブリックを広く捉えた時、いろんなステークホルダーがある中で何を重視するかは、活動によって変わってくる。今日は、政府関係や公共団体にアクセスしたり、一緒にルールを作っていく話などをしたい、と語られていた。
パブリックアフェアーズとは、ロビイングやガバメントリレーションズと呼ばれる分野。各ステークホルダーとの関係が重要であったり、新たなルールづくりや規制緩和に対して重要な役割を担っているそうだ。
南 知果さんは、法律事務所ZeLoの弁護士さん。現在は、スタートアップの支援を中心に仕事をしている。その理由は、新しいチャレンジをしている人を応援したいからだそう。
スタートアップが新しいテクノロジーを社会に実装してたり、新しいビジネスモデルを生み出す時は、常に問題になるのが、既存の法律やルールとの関係性だと感じていて、しかし、「ルールは変えられる」というマインドを多くの人たちに持って欲しいと思っている、と語られていた。
山口 琢也さんも素晴らしい経歴の持ち主。新卒でソニー株式会社に入社。内閣官房情報通信技術(IT)担当室にてIT国家戦略立案に携わり、2005年より日本マイクロソフト、シスコシステムズ、Google、Facebookの各社にて公共政策・政府渉外部長を歴任。
2018年9月からTikTokを運営するByteDance株式会社に入社して、公共政策を担当している。
石山アンジュさんは、AirbnbやUberを始めとする、シェアリングエコノミーの企業が約300社加盟する一般団体法人シェアリングエコノミー協会の事務局長、一般社団法人Public Meets Innovationの代表を務める。
そして・・・石山アンジュさん、かわいい。
キャリアは、大企業 → ベンチャーの広報/経営企画 → 業界団体を経て、現在はシンクタンクを起業(兼業)。カバー領域は、シェアエコ/テックイノベーション/地方創生/スマートシティ。
ベンチャーの領域にいる中で、新しいイノベーションが生まれているにも関わらず、規制や制度が古いことでイノベーションが進まないことに課題を感じて、この領域に足を広げていった。
Topick.1 / 新型コロナ危機によって「ルール作り」はアップデートされるのか?
政界・財界・官界と、第四の権力と呼ばれていたマスメディアの相関関係が、コロナによって注目が集まっている。
政界・財界・官界の関係性にマスメディアを通じて、またはマスメディアを通さなくても影響を行使する場面が増えてきて、ルールづくりが変わってきている。
尾上さん「法律家として立法府や行政府と関わる部分を担っていて、コロナショックにおける法律家の動きに変化は出ていますか」
南さん「ルール自体を変える事例は出てきている。オンライン診療とか、手続きを電子化したり、デジタル化にスポットライトが当たっている。もともとそれを緩和したかった人たちにはチャンスがあると思っている。
個人目線だと、政治に関心が向いていてムーブメントを起こしやすい。検察庁法の件では、国会での改正が見送られ、政府や国会も動くんだ…!といった感覚を国民が持てたことは、意義が大きかったように思う」
尾上さん「まさに今日発売の文春砲によって発覚した件も、個人発信のムーブメントが生まれた結果、マスメディアや週刊誌がそこに注目して取り上げた。法律の形成にも大きく影響し始めている」
南さん「国会でTwitterという言葉が使われる機会が増えている」
尾上さん「アンジュさんは、いかがでしょう?」
石山さん「ミレニアム世代のシンクタンク『Public Meets Innovation』の中で、コロナを危機に終わらせず、社会のアップデートの機会と捉えている。皆さんからの要望を含めた制度やルールのアイデアを集めて、自治体や企業と連携して実装を進めていくプロジェクトを、4月13日から始めている。
現在、350ほどのアイデアが集まっていて、給付金のオンライン申請しかり、暮らしに身近な法律課題に触れる機会が増えて、結果的に政治、制度やルールに関心を持つ感度が上がってきた。
もうひとつは検察庁法の件ではないけれど、皆の意見を集めれば、制度やルールを変えられるんじゃないか?といった追い風が、コロナの状況下で起こっていると思う。シェアリングエコノミーのサービスをロビイングする中で、国会議員700名のうち、いわゆるIT議員として、ITを押す議員が少ない。リモートワークやオンラインのサービスが注目されて、テクノロジーを社会に実装すべきとの追い風が来てると感じる」
尾上さん「山口さんのご経験から、いかがでしょうか」
山口さん「コロナによって、見えない壁やリダンダントのプロセスとか、前例踏襲にこだわって進まなかった手続きなどが、浮き彫りになったと思う。人々の要求や声が可視化されて、迅速にルールづくりに対応する必要性が出てきた。ロビイングが必要な本丸レベルのルールはそう簡単には迅速に動かない。しかし、お役所とかを縛っていたルールがほぐれてきたと感じる事例がいくつかあった。
例えば、東京都の小池知事が毎日18時45分からTikTokでライブ配信を行っていて、新型コロナウィルスの最新情報などを発信していた。大阪の吉村知事もTikTok上で情報提供をされていて、中央省庁でも厚生労働省さんが手洗いうがいの啓発動画を流したり、気象庁さんとの災害の連携であったり、新しいメディアやツールを使って行うには、見えないルールが無数にあって、それがコロナの状況下でアップデートされつつあると感じた」
尾上さん「従来は堅い職業といわれる公共部門の人たちが、TikTokのような若者が作り上げる文化圏のアプリを使って情報発信し始めている。必要に駆られて発信してる面もあると思うが、明るく乗り切る方向にシフトするのは、いいことだと思う。今までは進まなかった話が、一気になし崩し的に進むこともあるかもしれない」
尾上さん「明るい側面で今の変化を紹介するとしたら?」
南さん「スタートアップは、迅速に自分たちのビジネスを変えていける部分がある。飲食店を助けたくて宅配サービスとか、今まで対応してなかった新しいビジネスを始めたり、リーンに小さく始められるのが、スタートアップのいいところ。身近にいる方々は、社会を良くするために課題解決できるビジネスをしたいというモチベーションを持って活動されてる人が多い」
石山さん「制度やルールに対して世の中の関心が高まっている。制度を変えていく上で、『PTC』といって私が運営する団体『PMI』で使っているフレームワークがある」
石山さん「何かを変えていく時は、全てを一緒に考えていかないと上手くルールづくりができない。例えば、国会議員さんが法案を通したいと思っても文化規範常識、人々の民意が反映されないと不可能。またはテクノロジーやイノベーションが、どれだけ素晴らしくても民意がついてこなかったり、制度が追いつかなければ、社会に実装できない。
だからこそルールづくりは、それぞれのステークホルダーが一緒になって考えないと変えることが難しくなる。そういった意味では、ポジティブな影響とは、ステークホルダーが一緒に公共を考えていける素地が確率しつつあることだと考えている」
尾上さん「今回の『PR3.0』のテーマでもある、今のテクノロジーで何ができるのか。誰かがわかりやすく説明しないといけなくて、テクノロジーの橋渡しとか。伝道師として活動されてるアンジュさん、いかがですか?」
石山さん「私がやってるパブリックアフェアーズの泥臭い仕事を一部紹介すると、国会議員会館に通って一人ひとりに挨拶回りをして、シェアリングエコノミーってこんなに素晴らしいんですよ!とチラシ配りをする仕事から、自民党内でITの議連といって同じテーマに賛同、ないし推進したい議員の人たちが部会を作って政策を検討している。そこでシェアリングエコノミーの良さや課題を提言する講師の仕事もしている」
山口さん「政界・財界・官界にアクセスして、パブリックアフェアーズを繋いでいき、きちんと整理してコミュニケーションを取っていくのが重要だってことは、GoogleやFacebookの失敗事例を見て、業界の中で学んできているはず。今はまだグレーエリアだから突進する!といったスタイルは、今後のスタートアップで受け入れられないと思う。
Topick.2 / 個がメディアになる時代。パブリックアフェアへの影響は?
尾上さん「皆さん。この写真はどこだと思いますか?ここはアメリカのワシントンDCにあるウィラードホテルなんです」
尾上さん「ウィラードホテルのロビーで行われる活動のことを『ロビイング』といい、場所的にホワイトハウスと米国議会の間にあり、各国の主要人物が宿泊したり、会合が開催されたり、利益団体や会社の代表であるアメリカのロビイストたちが集まってくる。
しかも、アメリカのロビイストたちは政府に登録する必要がある。ここで大企業や大規模な利益団体のロビイリストが活躍してきたのが『ロビイング』の歴史。日本は少し違う発展形態を取っていて、コロナの状況下において一気に個人の活動に紐付いてきた」
尾上さん「会社員以外の立場、有権者や新聞の読者とか、ある分野に影響力を持つ人の言説が、重い一票を持つようになってきたと思う」
石山さん「これは以前、私が取材を受けた時にロビイング2.0を提唱した記事。これまでのロビイングは、自分たちや業界の利益を獲得するためだけに、政治と行政に陳情型的に働きかける構図があった。むしろPR3.0にも大きく関わる部分。これから世の中は変わっていくし、公共のために意義があるかが問われてくる。
どう社会を変えていくのか。一つ上の理念(公益)を掲げ、PR、全てのステークホルダーを巻き込んで社会全体に働きかける、ファンづくりのようなやり方が、これからのあるべき姿ではないかと思っている」
石山さん「政治家に働きかけるケースもあれば、メディアと一緒に調査したり、物づくりをしてカルチャーを喚起するやり方もあり、ベンチャーの起業家やイノベーターと対話をしながらあるべき姿の提言を作っていく活動もある。
シェアリングエコノミーでいうと、官民(官庁と民間企業)で安心安全のモデルやガイドラインを考えて、それを民間が適用していく協働規制というやり方もある。いろいろなステークホルダーを巻き込みながら社会を変えてアップデートしていくのが、ロビイング2.0のあり方なんじゃないかと思っている」
南さん「その文脈でいうと、スタートアップ側の、例えば、FinTech(フィンテック)企業のロビイングをして感じたのは、法律は既存の社会に合わせて作られるものなので、社会が進歩するにつれて法律が時代遅れになってしまう。そこをアップデートしたい気持ちは官僚の方も持っていて、世の中を良くするには、どうルールを変えていけばいいのか。スタートアップや民間企業と一緒に考えていける課題だと感じている」
尾上さん「個がメディアになるというと『TikTok』はその根源のようなサービスだと思うが、パブリックアフェアーズが与える影響としては、どんなことが考えられるのか?」
山口さん「ロビイングって官と企業の間がメインだったものが、シビリソサエティの声が大事になっていて、NPOとのインプットが日本では草の根活動になってしまうので、そこをしっかりやっていく問題意識を持つこと。
インフルエンサーやクリエイターへの関心が高まってきたと感じている。アリゲートされたメディアの情報に頼らず、自分で情報を得られる時代になっているので、集合知的なメディアの機能に加えて、テレビや新聞に出てくる著名人ほど雲の上の人ではなく、その中間にいるインフルエンサーやクリエイターがメディアの重心に現れ始めた」
行政のPRとかで、インフルエンサーやクリエイターを活用した例が、非常に多く成功を収めている。例えば、横浜市の医療局と取り組んだ新しい治療方法では、37万人のフォロワーを持つTikTokerのサラ・コールディさんと協力して、厚生労働省の啓発動画では22万人のフォロワーを持つTikTokerのアニメーターあおぱんださんとコラボした。
昨日始まった神戸市との連携では「#こうべ癒し学び隊」キャンペーンが始まり、神戸のご当地クリエイター含む9名とコラボしている。行政のような堅苦しい情報を一般人に届けるのは難しいので、わかりやすく繋いで親和性の高いメディアとして、インフルエンサーやクリエイターと手を組むのが、行政が説明する部分において重要になっている」
尾上さん「政府系の関係者とやり取りして、TikTokを使ってもらう上で心がけていることはあるか」
山口さん「ソーシャルメディアが力をつけてきて、個がメディアになっていると感じている。テレビ番組では使用した画像がフェイクだと暴かれて番組が謝罪する事態も起きていて、個がメディアであり監視をする役割も担ってきた気がする」
尾上さん「そういう意味では大手のマスメディアも従来以上に緊張感を持って、この報道や写真が何を意味するのかを気にかけていく必要があって、社会発展のために重要な役割を担う存在になっている」
石山さん「今まで公共といわれるものは、マスメディアでしか放送できないような縦のベクトルだった。本来の公共は、人々の社会であって上下関係はないと思う。利害なく肩書を超えて、公共的なことを一緒に考えることが必要だと感じている。
イノベーションやテクノロジーにおけるルールの変え方は、ロビイング2.0のように、今までの手法にとらわれないルールづくりや変え方があっていいと思う。私が運営している『PMI』はそのひとつ。ルールは法律だけじゃなく、常識や社会規範、倫理など、皆で議論していく場がこれからは重要になっていくと考えられる」
南さん「ルールは法律だけじゃないのは、まさにその通りだと思う。カスタマーサポートとか、企業の態度自体がひとつのルールみたいになってる部分が多い。
個がメディアになる時代という意味では、ルールを変えるのは大変なことだと思われる方が多いかもしれないが、個人が日々気づく小さな違和感について声を挙げることが、ルールメイキングの文脈においては、最初の一歩として大事なこと。SNSは、ムーブメントづくりとの相性がいいメディアだし、個人がルールメイキングに携わりやすい時代になっている」
尾上さん「コロナの状況下において、SNSやマスメディアと関わる時間が増えている中で政治に注目が集まって、自分ごと化してきた」
最後に、登壇者から一言ずつ
南さん「小さな違和感をそのままにせず、今までの常識を見つめ直す期間だと思って、一人ひとりが発信していくと変わっていくし、明るいニュースが出てくるのではないかと思っている」
山口さん「自粛の中、どのように行政が情報を提供していくのか。いろんなチャレンジをされてる自治体を間近で見てるので、ライブ配信機能などを使いながら、頑張っている行政を支援していきたい」
石山さん「歴史から見ても、こういった危機が新しく社会を変えるフェーズだと思うので、これを機会にトライセクターの人たちが一緒に社会を作っていく、そんな環境を築けたらと思っている」
石山さんから「広報やベンチャー企業の方へ」
「ベンチャーやイノベーションは、今後どんどん社会から求められていくし、その一方で制度やルールづくりの壁にぶち当たる時もあると思います。その時にパブリックアフェアーズというスキルや知識が、恐らくその壁を突破するひとつの解決手段になると思うので、今日のセッションを機に関心を持っていいだけたら嬉しいです」
深くて熱い1時間のトークが終わり、「パブリックアフェアーズ」に興味を抱いたのはもちろんのこと、政界・財界・官界とマスメディアの関係性に、この社会や私たちの暮らしがどう関わっていくのか、身近な課題としてもっと知識をつけて、より関心を深めていきたいところ。
わかりやすく噛み砕くだけで、堅苦しい話が伝わりやすくなり、コンテンツの作り方も多様化していく時代。PRのあり方も、いろんなチャネルにビハインドストーリーを載せて、模索したいと思います。
(長かったけど、終わり)
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