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フルートカフェ第三回 「フルートとジェンダー」

フルートファンの皆様、こんにちは ♪ フルートの事、音楽の事を様々な角度から探求するシリーズ「フルートカフェ」へようこそ。生命の息吹を伝えるフルートの音色と共に、無意識の世界に広がる壮大な冒険へ一緒に参りましょう!

このシリーズはスタンドFMとYoutubeと両方でも配信しています。

▶️ スタンドFM

今回はフルートとジェンダーについてお話していきます。

いきなり質問ですが、皆様、フルートって言うと、女性らしい、とか、男性らしいとか、何かそのようなイメージがあったりしますか?

私は中学・高校で6年間、吹奏楽に情熱を燃やしてきました。もしかしたら、もう時代は変わっているかもしれませんが、当時は吹奏楽部は圧倒的に女の子が多かったです。音大も女性が多いのですが、所がプロの世界になると、いきなり男性が多く出現します。”あなた達、一体どこに隠れていたの!?”といつも思うのですが、趣味の世界だとバランスよく男女半々のような印象があります。ただ、女性は昔フルートやっていたけど、やめてしまって、また再開しよう、という方、男性は大人になってから趣味でスタートして、結構本気で頑張る人が多いかもしれません。

では、実際、フルートにジェンダーは関係あるのでしょうか?自分で設問をしておきながら、申し訳ないのですが、結論から言うとジェンダーはまったく関係ないです。楽器の大きさに反して、体力が必要な楽器ではありますが、トレーニングでどのようにでもなる範囲内ですし、「どういう事を表現したいのか」と言う事が最も大事で、表現の中身はアイディア次第で、どのような事でも、思いついた事は全て表現可能な楽器だと言えると思います

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数年前から社会的にジェンダーについての議論が活発になってきて、改めて自分の音楽活動を振り返ってみると、なんとなく楽器の種類や音楽の表現によってジェンダーと結びつくような場面が思い付きます。ここで一度整理するために、今回のトピックをチョイスしました。

伝統的に、金管楽器の空を切り裂くようなパワフルな音色は、突撃を促す軍楽隊などで効果的に使用されてきました。同じ軍隊の音楽でもフルートが目立てるのはマーチだけ。その時も、フルートは最後のトッピング・飾りのような位置付けで、自分の中に色とりどりのサウンドを抱えている場合は、物足りないと感じる事もあります。 実際、技術的には面白い所もありますが、私は物足りなかったです。

逆に伝統的に西洋のフルートが得意とするのは、室内の響きを最大限に生かす設定なのでは、天から降ってくる天使の声のような、豊かな倍音と音場を持つ表現。数年前、日本の笛に取り組むまでは、西洋のフルートをメインに演奏していましたが、天から降り注ぐ音は、考えもせずに出来ます。というのも、楽器の構造上、息を吹き込めば自然にそうなるようになっているから。楽器が持つ歴史的背景が一音の中に、ブワッと浮き立つ事、フルートの美しい音色に惹かれる私を含む多くのフルートファンは、この点納得いただけるかと思います。ただ、天の反対側、地底から湧き上がってくるような力づよいエネルギーも自分の中で感じていたのですが、それをどうやってフルートの音色としてアウトプットするかわからずにいました。

色々思考錯誤しているうちに、日本のお能の笛、能管に出会って、同じエアリードの楽器でも西洋のフルートとは、性質が全然違って、天地を切り裂くのようなヒシギ、マグマのような力強いフレーズを体験する事が出来ました。呂・中・干・干の中、と言って、笛が同じ旋律を繰り返す事で、笛が中心となって、アンサンブルのリズムを作っていく様式も、西洋のフルートでずっとやりたいと思っていた事で、それも、能管を通して、体感する事が出来ました。

一度、体感として経験する事ができれば、西洋のフルートに戻った時に、その体感を転写する事が出来ます。その後、電子音楽のアプローチも組み合わせる事で、音の東西、そして表現の過去と未来の全てがつながって、思いつく事は全て表現できる環境が整ったのですが、それはまた別の機会にお話します。

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今回のテーマに戻りまして、「音楽の中のジェンダー」についてですが、皆それぞれ、自分の中に男性性と女性性のバランスが状況によって揺らぎながら存在していますよね。

私は、西洋のフルートや日本の能管の表現を通して、自分の表現したい事の本質にアクセスできれば、それは必ずアウトプットできると言う事を学びました。一つの表現の中で、男性性と女性性のバランスを変化させる事ができる事も非常に面白い所だと感じています。

現代はジェンダーフリー、ジェンダーレスと言う言葉も浸透してきて、男性性、女性性、どちらでもない中間の領域にアクセスしやすい環境は、音楽家にとっても社会にとっても良い事だと感じています。

少し前の状況を見ると、たとえばジャズの世界でも、ジャズの歴史をを作ってきたジャズジャイアンツと呼ばれる人はほとんど男性です。ボーカルの場合は、多少状況が違って、さすがに人間の物理的な声になると、男性ばかりではバランスが悪い、と言う事は誰でも気がつくので、早い段階でそのバランスが保たれたのだと思います。職人的な技術を求められて、心の声をさらけ出すような言葉を使わない楽器の表現の場合、女性である事が第一線で活躍する妨げになった時代は確実に存在します。

敬愛する女性ジャズピアニストのメアリー・ルー・ウィリアムズの伝記には、女性であるがゆえに、バンドの中でも重要なポジションに就かせてもらえなかった事など、数々の苦労が語られています。当時の彼女の演奏に対する批評で「目を閉じて聞けば、巨大な男性がピアノを弾いているようだ」と、おそらく褒め言葉のつもりの記事があるのですが、それが褒め言葉になっていないと言う事に社会が気が付くまで半世紀も必要だった事に問題の深さを感じます。

メアリーが成し遂げた数々の偉業を考えると、もっと名前が浸透していても良いと思うのですが、現在の彼女の認知度を考えると時代的な男女のヒエラルキーを感じずにはいられないし、他にも数々の歴史に埋もれた超一流の女性音楽家が存在しているだろうと思います。

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私がプロとして活動を始めた2000年代はじめは、ちょうどヴァイオリンの寺井尚子さんが大活躍を始めたところで、表面的な男女の違いによる障害はほとんどなくなっていました。逆に同じ技量だったら、女性の方が歓迎される勢いでしたが、その後、フォトジェニックなボーカル&トランペットのTokuさんの出現によって、同じ技量なら男女問わず、見た目が良い方が良い、と言う流行りがあったのち、ルッキズムと言うほどの主張があったわけではないけれど、自然と見目麗しいだけでもつまらない、と言う流れになって、今はそれぞれの音楽的内容が反映された個性が輝ける時代になっていると思います。

見た目、外見に関する私の意見は清潔感があれば良いと思うのですが、日本はそもそも清潔な国なので、日本で活動している限り、誰でも個性を活かした活動ができると思います。

このように表面的には男女の違いで何か問題があった事はないのですが、実際に活動の内容をみると、ジャズクラブでライブを毎日のように行っていた頃は、「生きるか死ぬか!」みたいな勢いで常に何かと戦っていました。誰かに要求された訳ではないのですが、見た目は女性的であっても、演奏の内容は力強さや重さがあった方が認められる、という、まさにメアリーに対する批評のような、無言の圧力があったように感じます。

男性と同じく、力づよく現場にのぞんで、終わった後もたくさんお酒を飲んで、それでシーンの一員になれる、みたいな幻想があって、特にジャズ、日本に影響を与えたアメリカのジャズシーンは発展の途中段階で、人種差別、アルコールとドラックに汚染されていた時期があるので、通りやすい仕掛けになっていると言えなくもないですが、ジャズの一番強烈な本質は、困難な事を浄化して芸術として昇華する事で、もうすでに先人達がそこはクリアしてくださっているので、後に続く私たちは同じ事を繰り返すのではなく、もっともっと生産性高い事をするべきだと思います。

今も一音に命をかける事に変わりはないですが、昔の「生きるか死ぬか!」と勢いで演奏していた自分をみると、それは狭い視点での考えであって、そんな事で死んでいたら勿体無いよ!と当時の自分に声をかけたいです。

この何十年かの間のジェンダーの扱いを見てもわかるように、社会が変化する事によって、環境がガラッと変わる事があります。正義と悪は簡単に入れ替わる。だからこそ、何にも属さない、どこにも紐付けされていない自分が、本当に表現したいと思う事を見極める事の大切さを思います。そこは、男性性も女性性もなく、ただただ、生きる喜びに溢れる宇宙が広がります。

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ありがたい事に、日本には、まだ音楽においては自由な表現が可能な状況です。ただ、それをどうやって広めて、同志と繋がっていくか、コロナによって破壊された音楽シーンや、リアルとオンラインのバランスの取り方など、課題は多くあります。

こうして、私の番組をご覧くださる皆様がいらっしゃる事、本当にありがたいです。これからも続けていく糧になりますので、是非、フォロー、良いね、チャンネル登録をよろしくお願いします。

では、また次回のフルートカフェでお会いしましょう。

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