苦しみや悩みにこそ意味がある~日本講演新聞
感動と学びを世界中に~全国の講演会の内容を発信する日本講演新聞がお届けします。
編集長・水谷もりひとが毎週書く社説は、「感動した!」「泣ける!」と話題になり、日本テレビのお昼の情報番組でも取り上げられました。
特に反響の大きい社説を取り上げた書籍『日本一、心を揺るがす新聞の社説』や『仕事に“磨き"をかける教科書! 』は、シリーズ累計11万部を突破しました。
全国にファンがいる水谷もりひとの社説をお楽しみください。
苦しみや悩みにこそ意味がある
電池で動くおもちゃのロボットがあるとする。
誰かが電池を入れてスイッチをONにする。
ロボットはガーガー音を出しながら動き出す。
今どきそんなおもちゃで遊ぶ子どもがいるのか分からないが、もしそのロボットに意思があったらどうだろう。
「俺はぬいぐるみと違って動き回ることができる」と得意になるかもしれない。
本当は自分で動いているわけではないのに。
自分を超えた別の存在がいて、その存在が電池を入れて動かしているのに。
そのことに気付く日が「彼」に来るだろうか。
『ぼくの命は言葉とともにある』(致知出版社)の著者・福島智(さとし)さん(57)は、ある極限状態の苦悩の中で「自分はなぜ生きているのか」と問い続けた。
そして長い思索の旅の途中で「自分は自分の力で生きているのではない」ことに気が付いた。
「明日までの命です」と告げられもせずに突然の事故や災害で亡くなる人もいる中、自分は今生きているという事実。
「何者かが自分を生かしているに違いない」と思えてきたという。
この本は今月、兵庫県尼崎市にある小林書店から送られてきた。
「本の頒布(はんぷ)会」といって、年会費を払うと店主・小林由美子さんの選書が毎月1冊届く。
読みたい本は自分で選ぶのもいいが、人が勧めてくれる本の中に、案外人生が揺り動かされるような出会いがあったりするものである。
その福島さんの本には「極限状態」という言葉がよく出てきた。
彼は、原因不明の病気で3歳の時に右目、9歳の時に左目の視力を失った。
それで小学生の頃は、音楽や落語を聴くことに楽しみを見出していた。
中学生になると今度は右耳が聞こえなくなった。
高校は盲学校に進んだ。
2年生の冬休みに左耳が徐々に聞こえなくなり、3か月後、最後の聴力が途絶えた。
見えない、聞こえない―そんな障がいをもった人を「盲ろう者」という。
今日本には約2万人の盲ろう者がいるそうだ。
その状態を福島さんはこう説明する。
「単に見えない、聞こえないというのではなく、自分の存在が自分で認識できない。自分がこの世界から消えてしまった感覚です」と。
「こんな状態で生きていく意味があるのか」―18歳の福島さんに苦悩の日々が始まった。
後にSF作家・小松左京の小説にハマった彼は、自分の極限状態をユーモラスにこう考えるようにもなった。
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