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シュペーア回想録〈上〉-ハインリヒ・テッセノウ-
-ハインリヒ・テッセノウ-
シュペーアの大学の恩師であり、
彼はテッセノウの助手(助教授)だった。
「人に理解されない、本当に「偉大な英雄」などというものは、そこいらにいくらでもいるだろう。そういう人間は、なんでも思い通りにできるようになると、どんな残酷なことでも座興ぐらいにしか思わないものだ。
手工芸や地方都市が再び栄えるためには、その前に硫黄のようなものが雨あられと降って焼きつくさなければだめだろう。そしてそういう試練をくぐり抜けた国民にはじめて民芸の花が訪れるのではないか」
「いつかは、ものをまったく単純に考える人間があらわれるにちがいない。今日の思考はあまりにも複雑化している。無教養な人間、たとえば農民などだったら、どんなことでももっとずっと単純に解釈しているだろう。なぜなら彼らがまだ退廃していないからだ。
そして農民だったらその単純な考えを実行に移す力をもっているだろう」この控えめな言い方が、ヒトラーに役立つのだと我々は思えたのだった。
1930年代、既に専門家により国民の思考性は失われていた。ここから現在に至るまで、硫黄を蒔かれ焼かれることなく、一切の知的発言は、一般人には認められないものとなった。専門家が国民の思考をもぎ取ったのだ。
シュペーアなどの専門家であってもしかり。
自身の専門分野以外を考えてはならないのだ。
この暗黙の法は不気味以外にない。