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宮本浩次 ソロ5周年記念ツアー 横浜ぴあアリーナMM 11月20日
まだツアー中で、神戸の公演が残っているので曲のネタバレは無しでの感想を書いてみたい。
今回は『何を見せられているのだろう…』との疑問が湧いて、『あぁ、宮本浩次を見せられているんだな…』と答えが出たようなコンサートだった。
序盤から『何かいつもと違う…?』と薄っすらとした違和感があって2曲、3曲目と進むにつれて、高音が出なかったり、歌詞が飛んだり、歌い直しがあったり、いつになく苦しそうに歌う姿も多く、体調が悪いように思えた。それでも、後半に向かうほどに声が伸び圧倒的なパフォーマンに不穏な気配は消えていったのだけれど、小林武史さんのMCを聞くまでは何処かモヤモヤとした気持ちがあった。
小林さんが、有名な詩人の方…と名前は出さなかったけれど、二ュースでの谷川俊太郎さんの訃報にふれて話し始めた。「人はすぐに良いとか悪いとか何でも2つに分けたがる。それは人間の脳の欠点だと思う。」と詩人の方が話されていて、そのニュース番組に出演していた作家のコメンテーターの方は「その通りだけれど面白い作品をつくるには良い人、悪い人の対立構造が必要で、それを繰り返し、繰り返し重ねるようにして物語を作っていく。しかも、今の時代は本当だと思っていたことが嘘だったり、その逆もあったり、正しいことを言う人のほうがうさん臭く思えたり、善悪の判断が難しくなっている。」と話していて、とても複雑な社会になり何が本当か嘘かも分からない。そのような中で宮本君は一瞬に対して誠実で、嘘がない。それが皆に届いている。というような話をしてくれた。
そして、小林さんの「一瞬に誠実」という言葉を聞いて、それまでのモヤモヤがスーッと引いていった。
前にインタビューでカバー曲の「恋に落ちて」について「いけないことかもしれないけれど、好きになっちゃったんだから仕方がない。」と話していた。ことの良し悪しは別にして、好きという気持ちに迷いが無く、気持ちに対しての誠実さが歌に生気を吹き込み、臨場感を生むのかもしれない。そもそも、理屈をうたった歌なんて誰も心動かされないし…。口にすることも憚られるような切実な思いや、身動きがとれないほどのためらい、たしなめられそうな情動、そういった思いが歌になる。そして、歌に晒された気持ちをそのままに、今の自分自身を一瞬、一瞬に込めて使い切きるように歌う彼の声や姿は、作り込まれた美しさとは対極にあるような美しさがある。
また、以前NHKのテレビ番組で挟土秀平さんとの対談のなかで宮本浩次が「歌って、生々しいものだから。」と言っていたのを思い出した。良いも悪いもなく、歌ってその人のあり様が出てしまう。そして、彼にはそれを承知する潔さがある。
今回も、万全ではない状態の中で何か必死で踏みとどまり、律しながら懸命に歌を届けようとしているような、目を瞑りジッと直立で歌う姿や、自身の両肩を両腕でギュッと抱き抱えながら発せられる歌声に生身の人間が持つ生々しさを感じた。
一瞬に誠実で、一瞬に全振りする作為のない美しさ。コレが宮本浩次だよなぁ…なんて思うコンサートだった。