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炙りサーモン

「1番めんどくさい客は?」
と聞かれたら
私は"同業者の方"と即答する
居酒屋のキッチンで働いていた時の出来事
わりと忙し日

『すいません〜!あ、お疲れ様ですっ』

え、お疲れ様です?客?え、誰だろ

『座敷席の炙りサーモンまだですか?』

ん、座敷席、あぁ、やっぱ客か

私は『すみません、確認します』
と言おうとした
すると被せるように

『全然!いっすよ、いっすよ
自分、同業者なんで、ハハハ』

同業者・・

〜コンマ1秒思考停止する私〜

確認するとちょうど炙りサーモンと
飲み物が何個か出る所だった


『あ、今持って行くのでお席でお待ち下さい』

同業者
『あ!全然大丈夫っす。自分が持って行くんで』


『いえいえ、大丈夫ですよ!私持っていきますから』

同業者
『大丈夫っす!自分同業者なんで、分かりますよ!ここのホール回ってないっすよね!
厨房の方が運ぶのおかしいっすよ、
ウチのメンツ(多分同業者さんのお店)
だったらこれくらいのピーク乗り切れるっすよ。今度ウチの居酒屋きます?隣の隣のビルなんすよウンチャラカンチャラ』

・・・ウチのメンツ?


『じゃあ、お願いします』

同業者
『了解です〜トレンチ借りまーす!』

ペースは完全に同業者

〜ドンガラガッシャーン!!〜

あ、こぼした、炙りサーモンと
飲み物、こぼした
同業者が全部こぼした
ビシャビシャ

ひっくり返った炙りサーモンは
トレンチが殺人現場のビニールみたいに
被さっている

『うひゃぁー』

同業者が悲鳴をあげる

『すいません!マジやっちゃいました
うわ、大チョンボ』

・・・大チョンボ


『いえ、こちらこそ、お客様
運ばせようとしてしまってすみません』

同業者
『いえ、自分がやるっていったんで、
本当ごめんなさい!』


『モップ持ってきますね』

うずくまって炙りサーモンを拾う
同業者は何か

炙りやすそうな背中だった

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