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キャタピラスープの1000日 - 喪失から再生への旅路

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30代で夫と死別した「零」の日記。「わたし」を構成していた価値観やアイデンティティといったものは、どろどろに溶けてしまった。自分に深く潜り込み、いつの日か、自分の「コクーン(繭)…
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自己紹介:「キャタピラスープの1000日」

「忘れないで。わたしを忘れないで、置いていかないで。」 その声は、たしかに聞こえたのだ。 はじめは、午前中の明るい日差しのなかで。 つぎは、その夜。温かなお風呂のお湯のなかで。 それは、「あの頃のわたし」の声だった。 悲嘆の日々を記すこと 2018年の夏。最愛の夫が、あちらの世界に旅立った。 出会いからずっと一緒だった10年の「私たち」の日々は突然終わりを迎えて、真っ暗闇の、いわゆる「悲嘆の日々」が始まった。 「死」は遠かった。なのに突然目の前に降ってきて、そこら中

2018/09/05 面会の時間

七月のこと 出張や外出が続いていた。いつものように、この日も奏くんが駅まで送ってくれていた。 「九十九里でスケーターが作ってるっていうピーナツバターだけどさ、」 駅へ向かう道を運転しながら話し始めた。そうだ、この前も「気になってる」と話してたな。そのストーリーやこだわり、熱いプレゼンは続く。私が前回の出張に行っている間に、ずいぶんと詳しくなっている。 「へー、そうなんだー」。話を聞きながら、手元のiPhoneでたびたび時間を確認する。一時間に一本の特急。遅れられない。