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キャタピラスープ日記 - 喪失から再生への1000日

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30代で夫と死別した「零」の日記。「わたし」を構成していた価値観やアイデンティティといったものは、どろどろに溶けてしまった。自分に深く潜り込み、いつの日か、自分の「コクーン(繭)…
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自己紹介:「キャタピラスープの1000日」

「忘れないで。わたしを忘れないで、置いていかないで。」 その声は、たしかに聞こえたのだ。 はじめは、午前中の明るい日差しのなかで。 つぎは、その夜。温かなお風呂のお湯のなかで。 それは、「あの頃のわたし」の声だった。 悲嘆の日々を記すこと 2018年の夏。最愛の夫が、あちらの世界に旅立った。 出会いからずっと一緒だった10年の「私たち」の日々は突然終わりを迎えて、真っ暗闇の、いわゆる「悲嘆の日々」が始まった。 「死」は遠かった。なのに突然目の前に降ってきて、そこら中

2018/09/30 処し方の違い

12:00 大型の台風が来ている。高速で動くワイパーすら少し心もとない。打ち付ける雨で視界は悪く、周囲の車に合わせ、速度を落として運転する。明朝には都内で大事な打ち合わせがあるというのに、外房線は明日始発から運休がすでに発表されていた。義父母宅に急遽泊まることになり、暴風域に入る前にとお昼過ぎには車で出発した。 今朝は、一〇時からコーチングがあった。 コーチとの対話を通して、奏くんへの想いを知ることができた。愛している。尊敬している。感謝している。大切なことをたくさん教

2018/09/29 世界は変わってしまった。だけど、世界は変わっていない。

8:39 午前四時に目が覚める。 夢の中ですら、奏くんはすでにこの世にいないことになっていた。 なんて悲しいんだろう。 せめて夢で、 せめて、夢で、 この現実と異なる世界が、そこにあっても良いのに。 12:50 そうだった。このパン屋さんの店内は流行歌がかかるんだった。 「そばにいて」 この日もやはり、切ない恋を歌い上げる声に音楽。喉が胸が締め付けられて、身体が強張る。トレイとトングをごめんなさいと返し、逃げるように自動ドアから立ち去った。自分の後ろ姿が、

2018/09/28 My coping process

9:30 布団を、洗って、干した。遺体となって病院から戻ってきた奏くんが横になっていた布団。iPhoneが鳴る。沙子だ。 「おはよー!今日はやっとスッキリ晴れたね♪」 「おはよー!洗濯&布団干しざんまいだね。あのお布団を、やっと干せたよ。ひとつずつだけど、ちゃんと前に進んでいるよ」 「そっか!うんうん。まだいろいろと踏み切れない部分もあるだろうけど、身の回りの物は変わっていっても、零さんさえ居れば奏さんは見失わないから大丈夫!」 奏くん。 太陽のように明るくて、カ

2018/09/27「生も死も日常。生きている人が元気でいることが大事。」

10:10 奏くんの部屋に置かれた後飾り祭壇には、遺影に遺骨、そして白木の位牌(仮位牌)が飾られている。戒名ではなく「小西奏」がそのままに記された仮位牌。 「仮」と名のつく白木の位牌は、四十九日法要の際に故人の魂を抜くという「閉眼供養」を経てお焚き上げされる。抜かれた魂は「開眼供養」を経て、黒塗りの立派な「本位牌」となって仏壇などで祀られる。 本位牌を作るのには二週間ほどかかるらしく、葬儀社から「そろそろですが、どうしますか」とリマインドが入る。本位牌を作るのか。そして

2018/09/26 「幸せ」

8:14 良く眠った。この感じ、一体いつぶりだろう。鍼、いや、先生すごい。 10:15 「幸せ」ってなんだろう。 阪急京都線で淡路駅を通過する。二〇一五年に行った淡路島へのキャンプを思い出す。 シルバーウィーク中に誕生日を迎えるようになってから、時期をずらしてお祝いをするようになった。「混雑するならやめとこう」レベルに混雑耐性が低い。その年も、十月に入ってから誕生日旅行に出かけた。淡路島は洲本にあるビーチ沿いのキャンプ場、First class Backpacker

2018/09/25 「ガラス越しに消えた夏」/京都へ

6:51 真夜中に目が覚めた。 奏くんが良く歌っていた曲が流れている。 寝ぼけた頭では、事態が掴めない。 暗い部屋。見上げている天井。一体どこから流れているのか。体を起こして、辺りを見回す。 隣のベッドでは義母が眠っていて、そのベッドサイドにはラジオが置かれている。あぁ、と理解して、ベッドに体を横たえた。天井を再び見つめる。 長いこと奏くんの部屋だったここで今、鈴木雅之の「ガラス越しに消えた夏」が流れている。体が強張って固まっている。意識はすっかり覚めてしまった。

2018/09/24 お別れ会

24:06 ファミマの角を曲がって、ゆるやかな坂をのぼっていく。左耳にざわめきが入ってきて、ひとつ息をはいた。左手の階段に足をかける。よし行ってこい。次の段、また次の、と、脚をあげるたびに身体が小さくかわっていく。最後の段に、顔を上げる。知っている面々の横顔が向こうに見える。 中目黒は、奏くんが話す物語の舞台のひとつだった。 二〇〇〇年代のはじめ、中目黒銀座商店街の特殊な建物の二階に、彼の事務所はあった。お風呂なしアパート、家賃は破格の二万円。期限付き。取り壊しが決まっ

2018/09/23 やっと会えたね

4:17 やっと会えたね。 奏くんが夢に出てきた。ひとり寝ようとして、気づいたら隣で奏くんが優しく微笑んでいた。ふわっとしたその身体に、そっと抱きつく。彼はすぐに起き上がり「別の私が眠るところ」を探しに行く。着いたのはカプセルのようなところだった。奏くんは側にいてくれたし、触れている感覚もあったけれど、それが奏くんかどうかはもうわからなかった。 「やっと会えたね」。目が覚めて、声にならない声が出た。目を閉じる。少しでもいい。その微笑みを、その姿を、もう一度味わわせて。「

2018/09/22 人は突然いなくなる。すべてをそのままに遺して。

8:41 目が覚めて、現実。 誕生日の余韻のなかにいる。あんなにも悲しくて、あんなにも涙に溢れた、誕生日の余韻。 お腹がちょっと痛い。 9:53 ひとりになる。 奏くんがマイクロドローンを飛ばし遊んでいたウッドデッキ。二人で作った家庭菜園のレイズドベッド。フリーランサー二人の生活に合わせた、この家。 ひとりでなにができるだろう。 11:00 スナフィーの散歩に出る。整体師の友人に言われたように、力がちゃんと地球に伝わるよう、意識を向けて歩く。 空腹を感じて

2018/09/21 あなたの目に映っていたもの

7:41 奏くん。私、三十七歳になったよ、誕生日だよ。奏くん。 一緒にいる日々をもっと大切に過ごせなかったことを、やはり後悔してしまう。 昨日は紀亜と次の作品について話していた。ゼロから考えてつくることを想像する。真っ暗なこの先に、白い光が見えた。ずっと暗いところにいるんだな、と、改めて認識する。 9:54 カウチを整えて、好きな香りをスプレーして、キャンドルをつける。そして、音楽をかけてみようとアプリを開く。慎重に、慎重に。感情の波に小さな揺らぎすら与えない、でき

2018/09/19 魂が追いつくのを待っている

6:35 いやな夢を見た。ものすごい高いところから落ちそうになっている。一緒にいた茉奈は落ちた。目が覚める。またこんな時間か。昨日も五時間睡眠、今日だって同じくらいだ。 ワークショップが終わったあと、泉川さんとお茶をした。紅茶にレアチーズケーキを食べながら彼と話すのはまさに癒し。「一〇月くらいにはもう少し回復している予定」で、「思考は少しずつ整理され前を向いて来ているけれど、気持ちがまだ付いて来てはいない。それを待っている」と話した。九月いっぱいは仕事は必要最低限。新しい

2018/09/18 静かに、少しずつでも受け入れていく(しかない)

9:10 スナフィーとの関係を再構築する。奏くんと私とスナフィー。二人と一匹で構成されていた「群れ」のダイナミクスは変わってしまった。スナフィーはやはり「犬」。人間とは違う。新しい「群れ」の中でスナフィーの様子が変わってきている。青に言わせると、この新しい「群れ」をリードしていこうとしている。思い当たる節がたしかにある。スナフィーとの新しい関係を、新しい「群れ」を、再構築していこう。 奏くん。こんなにも突然ひとがいなくなってしまうこと、知らなかった。それが自然なことで、抗

2018/09/17 「死への解釈は意味がない」

23:32 以下青の言葉メモ。 ・いろんな人がいろいろと解釈をするけど、それは受け流す。ポジティブなものだとしても。解釈、特に死への解釈は意味がない。死は、自然のことだから。 ・グリーフケア受けるのも良いかも(一般社団法人リブオン) ・タトゥーの件。シンボルについては、自分の「ストーリー」から来るものでない方が良い、自分のカルマから抜けられないから。自分の「魂」から来るものの方が良い。いつか、そのうち出会うはず(とても納得した)。そして、このパターンからは出た方が良い。