2018/08/03 You're My Home.

07:00

朝6時に起きる。

ビッケの散歩に行かないと。
窓の外はぼんやりとして、まだそんなに暑くはなさそうだ。

散歩の途中でご近所犬仲間のKさんに会う。
「何かのときにはビッケに水やフードを」。頭の中で何度かシミュレーションを試みたけれど、少し距離があったから、やめておく。
大きな声で伝えられる気がしなかった。

朝の散歩は良かった。散歩中のご近所さんたちに、すれ違いざまに挨拶を交わす。
なんてことのない、平和な「いつもの朝」を、存分に感じられる。

夜は辛い。ひたすらに辛くて、自分が眠ってしまうまでただ耐えるしかない。昨夜は、家族や親友と電話やLineで喋ることで支えられて、やっとのことで1日を終えることができた。

朝型の生活にしたい。

睡眠導入剤がほしい。体力がなくなるのは本当に困る。寝れない、食べれない。
辛い。

08:23

亮くんの近くにいれれば、それだけで落ち着くから。

11時15分の面会時間に向けて、出発の準備をする。
慣れないお留守番がいきなり続くビッケの不安そうなその姿に、心が痛む。

でも、何かあった時のためにも、少しでも近くに、少しでも長くいたい。

こんなに泣いたの、亮くんとまだ付き合っている頃に別れ話が出た時以来だって思い出した。あの時も、こうしてただひたすらに気づくと涙が出て、1日泣いていたよ。

10:43

病院のほうが、気分が落ち着く。

パブリックな場で周りの目があることで自分が崩れずに済むし、なにかあった時にすぐ側にたほうが、というのも、もちろんある。

でも、何よりも、亮くんの近くにいられるからだろう。

「HOME」は、「家」ではないことを知る。
亮くんが、私のHOMEなんだ。

だから、亮くんの近くにいたほうが落ち着く。たとえそれが、病院の待合室でも。

看護師さんが来て、亮くんはまだ眠っていると教えてくれた。

目が痛い。いやー泣きすぎた。泣きすぎると目が痛くなるんだな。

11:15 の面会

ご両親と一緒にICUへ面会に向かう。他のご家族が次々と中に入って行くのを横目に、30分まで待った。15分頃に、執刀医の先生がICUに入って言ったのを見た。きっと処置をしていたのだろう。

30分過ぎに、ようやく呼ばれてICUに入る。

亮くんはまだ眠っていた。

「暴れた」とのことで、拘束具でベッドにしっかりと固定されていた。

両腕の付け根にはタスキのような拘束具。腰からお腹にかけてはがっしりとしたベルト(後に義母がこれを「チャンピオンベルト」と言い、少し笑った)。

「他の看護師は小柄な人が多いから大変だった」と、身長のある看護師長さんが少し笑いながら話してくれた。「この姿を見るのが辛いだろうから申し訳ない」。家族の気持ちに寄り添ってくれる言葉が、心から有り難かった。

身体の苦痛と薬の影響で悪い夢を見やすく、鎮静剤が少し薄くなってきて暴れたらしい。今は、鎮静剤を増やしたこともあり静かに眠っているが、脈拍は72くらいまで下がっていた。

しかし、この報告にひとり、人知れず喜んでいた。「暴れた」ということは、手足が動くのだ…!手足の麻痺の可能性だって十分にあり得た。良かった!

一喜一憂だ。

高熱が続いており、この時点でも40.7度あった。下熱剤も入れているがあまり効いていないとのこと。「首元はチンチンに熱いですよ」。看護師さんに言われて首元に手を入れる。あまりの熱さに驚いた。

お義母さんが、人工呼吸器(の管)がずいぶん細くなった、と気がついた。口元も何かが変わった。

「少しずつでも快方に向かっている」。
その兆しを、見つけたかった。

夕方の面会

亮くんの上体が少し起こされている。
ガラッと変わった雰囲気にびっくりした。

なんだか、大きな大きな赤ちゃんが眠っているみたいだ(180cm、100kg)。

拘束は相変わらず。高熱も変わらず。
むしろ、少し上がって、40.9度。

そこが今、本当に心配でたまらない。

額に触れる。そんなに熱くはないけれど、汗をかいている。お義父さんに言われて頭を触ってみると、そこは熱い。そしてやっぱり汗をかいている。腕や末端は熱くない。「あれだけの切ったり貼ったりをしてそれはそうだわ」と、義母が言い、「これだけ熱が出るのは戦えている証拠」と、看護師さんがそれに応えるように言う。患者さんによっては熱を出せない人もいるのだと。

「胸に入れていた管が数本抜けましたよ」と、嬉しい報告を受ける。出血の様子をみるためのものと(もうあまり出血していない)、他の何かが数本。繋がっている管が減って行くのが、本当に嬉しい。

「なぜこの状況になっているかという記憶が本人にはもう無い」と、看護師さんから聞き、衝撃を受ける。つまりは、あの「地獄」の辛さに耐えていたあの日の記憶は、もう無いはずだと。「一般病棟に移るときにはICUの記憶ももう無いはず」と、続けた。

一体どんな仕組みなんだそれは。

この日々のことが、亮くんの記憶にはもう存在しなくなるだなんて。

「亮にとって、辛い記憶を持たなくて良いことだから幸せなこと。良かった」。義母は何度もそう言った。確かにな、と思う。

そう言えば、ハナ(妹)も、手術を受けたときに流れていた曲はそのことを思い出させて辛くなる(から聴かない)、と言っていた。

きっと、忘れてしまう方が良いのだろう。一方で、どこか戸惑っている自分がいる。でも、その戸惑いはエゴだ。亮くんにとって何が幸せか、それだけで良いはずだ。

看護師さんが、目を開けることがあった、と言う。視線は定まらなかったけれど、と。

視線が定まらなくてもいい。
早く目を開けて、その目で私を捉えてほしいよ。

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