失った夢が美しく見えたってそれがどうだっていうの
薄暗いバーのすみに置かれた誕生日辞典を彼が手に取った。
7月15日のページを横目で覗きこむと「相性のいい人」という場所に私の誕生日があった。
こんな単純なことで胸が高鳴るなんてどうかしてるなと思いながら口元をゆるめて「これ私の誕生日だよ」と言えば帽子を脱いで私の頭にかぶせて「知ってる」と笑った。
今朝、マンションの前で落とした鍵を拾い上げるときにね。一年前君のことが好きだったことをあまりにくっきりと思い出してしまってあの頃の私に会いたくなった。あまりに夏生まれがにあう君を好きだった私をまだきれいに失えていない。恋にはたしかに輪郭があった。夜や梅雨や日差しの角度もすべてビールで溶かしてずっと漂っていたかった。
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