"手紙の上で眠る文字”
最後に手紙を書いたのは一昨年の夏の終わりだ。
静寂を求められる喫茶店でお気に入りの鳥の形のカードにブルーのインクのペンで書いた。
私たちは恋人でも友達でもなかったからその時は手紙を書くなんて半分大それている気がしてプレゼントの包みの見つかりにくいようなところにそれを隠した。
”私はあなたの目で世界を見てみたいと思うよ”とそこには書かれていてそんなことをきちんと実体のある人間に思ったのは初めてだった。
あの夏はずいぶん涼しくて初めてあの人の部屋に遊びに行った日、夕立が降るとうたたねをしていたあなたが腕を握ってその体温がとても高かったことをよく覚えている。
もうこの世のどこにもないあの手紙のことを愛しく思ったあともうどこにもないことを私は安心したままで生きていく。
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