古事記百景 その六
大八島国
於是二柱神議云。
今吾所生之子不良。
猶宜白天神之御所。
即共参上。
請天神之命。
爾天神之命以。
布斗麻邇爾ト相而詔之。…自布以下五字以音…
因女先言而不良。
亦還降改言。
故爾反降。
更往廻其天之御柱如先。
於是伊邪那岐命。
先言阿那邇夜志愛袁登売袁。
後妹伊邪那美命。
言阿那邇夜志愛袁登古袁。
如此言竟而。
御合。
生子淡道之穂之狭別嶋。…訓別云和氣下效此…
次生伊予之二名嶋。
此嶋者身一而有面四。
毎面有名。
故伊予国謂愛比売。…此三字以音下效此也…
讃岐国謂飯依比古。
粟国謂大宜都比売。…此四字以音…
土左国謂建依別。
次生隠岐之三子嶋。
亦名天之忍許呂別。…許呂二字以音…
次生筑紫嶋。
此嶋亦身一而有面四。
毎面有名。
故筑紫国謂白日別。
豊国謂豊日別。
肥国謂建日向日豊久士比泥別。…自久至泥以音…
熊曽国謂建日別。…曽字以音…
次生伊岐嶋。
亦名謂天比登都柱。…自比至都以音訓天如天…
次生津嶋。
亦名謂天之狭手依比売。
次生佐度嶋。
次生大倭豊秋津嶋。
亦名謂天御虚空豊秋津根別。
故因此八嶋先所生。
謂大八嶋国。
然後還坐之時。
生吉備児嶋。
亦名謂建日方別。
次生小豆嶋。
亦名謂大野手比売。
次生大嶋。
亦名謂大多麻流別。…自多至流以音…
次生女嶋。
亦名謂天一根。…訓天如天…
次生知訶嶋。
亦名謂天之忍男。
次生両児嶋。
亦名謂天両屋。 (自吉備児嶋至天両屋嶋并六嶋)
二柱の神は高天原に戻り、布斗麻迩で占ったところ、女性が先に声を掛けたのが良くないということが分かりました。
二柱の神は元の場所へお戻りになり、天之御柱を巡り、行き逢った場所で今度は伊耶那岐神が先に、
『あなたは何と素晴らしい乙女なんだ』
と仰り、続いて伊耶那美神が、
『あなたは何と素晴らしい男なんでしょう』
と仰り、再びまぐわられました。
そしてお生まれになったのが淡道之穂之狭別島です。
次に伊予之二名島がお生まれになりました。
この島は、身はお一つですが、お顔が四つあります。
それぞれのお顔にお名前があり、伊予国を愛比売といい、讃岐国を飯依比古といい、粟国を大宜都比売といい、土左国を建依別と言います。
次にお生まれになったのが隠伎之三子島、またの名を天之忍許呂別と言います。
次にお生まれになったのが筑紫島です。
この島も、身はお一つですが、お顔が四つあります。
それぞれにお名前があり、筑紫国は白日別といい、豊国は豊日別といい、肥国は建日向日豊久士比泥別といい、熊曽国は建日別と言います。
次お生まれになったが伊岐島、またの名を天比登都柱と言います。
次お生まれになったのが津島、またの名を天之狭手依比売と言います。
次お生まれになったのは佐度島と言います。
次にお生まれになったのが大倭豊秋津島、またの名を天御虚空豊秋津根別と言います。
そして、先にお生まれになった淡道之穂之狭別島から大倭豊秋津島まで八島を指して、この国を|大八島国《おおやしまのくに)と言います。
二柱の神がお帰りになる時、吉備児島が生まれます、またの名を建日方別と言います。
次にお生まれになったのが小豆島、またの名を大野手比売と言います。
次にお生まれになったのは大島、またの名を大多麻流別と言います。
次にお生まれになったのは女島、またの名を天一根と言います。
次にお生まれになったのは知訶島、またの名を天之忍男と言います。
最後にお生まれになったのが両児島、またの名を天両屋と言います。
さらに六つの島をお生みになり、国土が完成しました。
※布斗麻迩とは太占とも書かれ、鹿の骨を用いた古代の占いです。
※淡道之穂之狭別島は淡路島のことです。
※伊予之二名島は四国のことです。
※伊予国は愛媛県、讃岐国は香川県、粟国は徳島県、土左国は高知県です。※隠伎之三子島は、島根・隠岐諸島です。
※筑紫島は九州のことです。
※筑紫国は概ね福岡県、豊国は概ね大分県、肥国は概ね熊本・佐賀・長崎
県、熊曽国は概ね宮崎・鹿児島県を指します。
※伊岐島は長崎・壱岐のことです。
※津島は長崎・対馬のことです。
※佐度島は新潟・佐渡島のことです。
※大倭豊秋津島は畿内を中心とする地域とされています。
※吉備児島は岡山・児島半島のことです。
※小豆島(あずきしま)は小豆島(しょうどしま)のことです。
※大島は山口・周防大島のことです。
※女島は大分・姫島と言われています
※知訶島は長崎・五島列島のことです。
※両児島は長崎・男女群島の男島・女島と言われています。
「太安万侶です。今回も那岐君と那美ちゃんに来てもらいました。お疲れ様でした。大変だったね」
「誰かに手伝ってもらうか、替わってもらうかしてほしかったよ」
「今回は大成功みたいだったけど、前回の反省点は何かな?」
「やっぱ那美が先に声掛けたことが誤りだったみたいだ。こういうことは何があろうと男から行かないとダメだよな」
「なるほど、男性から女性にアプローチするのはこの時から始まったんだね」
「俺たちが第一号さ」
「最近は女性から男性へというのもあるようだけど」
「時代が変わってるんだから、そういうのが変化してても不思議はないぜ」
「同性同士というのもあるようだよ」
「そういうのも時代の変化の内だろ。しかしそうなると生殖行為というよりは、個人の趣味嗜好の問題だと思うけどな。まあ、それでいいと世の中が思ってるんなら、それも有りだろ」
「人間の意識なんて、今までにもコロコロ変わってきてるんだから、殊更問題視する必要もないと思うよ。私は那岐だけで十分だけどね」
「俺も那美だけでいい」
「国造りは大成功のようだったけど、ちょっと島が多くない?」
「日本は島国っていうじゃん」
「えっ、実はそっち?」
「冗談にもならないけど、大変だったんだってば」
「畿内から中国、四国、九州が主だね」
「俺たちが生んだのはそれだけだから」
「那岐が生んだ訳ないじゃん。生んだのは私だよ」
「でもよう、共同作業じゃねえの」
「それはそうだよ。でもこんなにホイホイと生まれるとは思わなかったから、もう身体ボロボロだよ」
「そう言えば那美ちゃん、ずいぶん痩せたね」
「そうでしょ? 安万侶さん、何か美味しいもの食べさせてよ」
「何か食べたいものある?」
「やっぱ、肉かなあ。この後も続くから体力つけないとさ」
「分かった手配するよ」
「感謝する~」
「国土としては佐渡がポツンとある感じだけど?」
「とてもじゃないけど、広い土地を造る気力がなくてさ、飛び地みたいな感じでね」
「東海や関東、東北、北海道はどうしたんだろ」
「知らねえよ。俺たちのように他の誰かが造ったのか、まだ造ってる途中なのか、それとも元からあったのか、全然情報がないから分かんねえよ」
「向こうにも那岐君や那美ちゃんがいるかもしれないってこと?」
「そうじゃなきゃ無理だろ」
「とすれば、向こうは誰のものなんだろうね」
「分かんねえけど、いずれ俺たちのものにしてやるよ」
「そういう連絡は来ないのかな」
「確認はしてないけどなかったと思うぜ。なにせずっと、籠ってまぐわってばっかりだったから。終わった時は太陽が黄色く見えてさ」
「いやいやって感じなの?」
「正直、相手が那美じゃなかったら途中で止めてたかもな」
「それは私も一緒かな。那岐が頑張ってるんだから、私も弱音吐かずに頑張らないと、と思ってたよ。かなり辛かったんだけどね」
「この先の予定を教えてくれるかな」
「聞かされてるのは、国生みはもういいから、そこに暮らす神を産めって。なんか数がスゲエことになるっていってたから、もうクラクラしてんだよね」
「那岐、ホントにちょっと休ませてくんないと、私は無理だからね」
「他のヤツと進める訳にいかないからさ、ちょっとくらいは休ませてくれるんじゃねえの」
「頼むよ那岐、起きてるので精一杯だからね」
「俺からも上に頼んでみるから、安心して休めって」
「じゃあ、とりあえずお肉の用意だね」
「それ俺もいいかなあ」
「当然だよ。肉は何がいいの? 牛? 豚? 鶏? 希望があれば聞くよ」
「どれもいいなあ」
「食べ方はどうする? 生? 炒める? 焼く? 煮る? 炙る? 揚げる?」
「どれもいいなあ」
「ガツガツ行きたいから、とりあえずは焼肉か」
「元の体重に戻るまで、食って食って食いまくるぞ」
「ちょっと財布が心配だけどね」
「それはねえぞ安万侶」
「そうだよ安万侶」
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