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二人の弁財天

弁財天という名を知らない人はあまりいないだろう。
では弁財天には2種類のパターンがあるのをご存知だろうか?

 元々は、インド・ヒンドゥー教の女神『サラスヴァティー』が始まりである。サラスヴァティーは水と芸術、学問を司る神であり絶世の美女といわれている。
 日本に伝わってから宗像三女神の一人『市杵島姫命』や『吉祥天』を習合し、二本腕で琵琶を抱える一つのグループとなった。
 因みに市杵島姫命や吉祥天はどちらも美人で名高い。

 サラスヴァティーと市杵島姫命は水関連でもあり、早くから習合が進んだのだが、吉祥天は日本の神々との習合が上手くいかず、弁才天に吸収される形となったところが多い。

 もちろんそれぞれが単独で祀られている神社もあるから、完全に一致したわけでもない。

 お気づきの方もいらっしゃるかもしれないが、この頃は弁才天と表記されている。つまり財運の要素はほとんどなく、才能が重視されていたということに他ならない。ではいつ頃から弁財天と表記が変わるようになったのか?

 続きをご覧いただこう。

 次に登場するのが『宇賀神』を中心に、八本腕にそれぞれ武器を持ち戦闘神としてもあるのがもう一つのグループ。区別するために『宇賀弁財天』ともいわれている。

 まずは『宇賀神』の説明からしよう。
 宇賀は、宇迦之御魂神ウカノミタマノカミに由来すると考えられている。母は神大市比売カムオオイチヒメ
 だが問題はその容姿にある。
 中世日本において作為された、弁才天の一形態であるという考えもあるが、少し不気味である、人頭蛇身じんとうじゃしん蜷局とぐろを巻いていて、その人頭も老翁や女性であったりする。
 この宇賀神を頭に載せた弁財天がもう一つのグループといえる。
 さらに腕が八本もあり、それぞれに武器を持っている戦闘神でもある。

 一般的に銭洗い弁財天は宇賀弁財天が多いとされている。
 持ち金をザルに入れて洗うと数倍になって帰ってくるといわれているが、信憑性の高いお話しかどうかは甚だ疑わしい。
 ただ、手水舎と同じで、罪や穢れを祓うのが目的とされるため、キレイになったお金は、よりスムーズに流通に乗りやすいという効能はあるのかもしれない。流れるようにお金が出ていくという見方もあるかもしれないが…………。

 こちらのグループは財運の要素が強く、引き摺られるように先の二本腕に琵琶のグループも財運の要素を増していき、現在では両グループとも財運の神として成立している。
 また、習合と分離を繰り返した結果、宇賀神を頭に戴きながら二本腕で琵琶を持つ弁財天や、財運色の非常に強い二本腕の弁財天など多様化しているのは否めない。
 すべてが神の御業ではなく人間の都合なのだから悲しい現実である。

 弁財天にも二通りあるということはご理解いただけただろうか。
 では日本人が大好きな三大弁財天の話しよう。


 日本三大弁財天はどこにあるかご存知だろうか?

 一般的に言われているのは神奈川県の江ノ島、滋賀県の竹生島、広島県の宮島なのだが、そこに奇妙な事実がある。 (*神々やその他の表記は各神社に合わせています。)

 まずは江ノ島の江島神社えのしまじんじゃ
 七福神信仰は京都が発祥で全国に広がったのだが、弁財天信仰は関東、特に江ノ島を中心に繁栄したといわれている。
 江島神社には宗像三姉妹がそれぞれの宮で祀られている。
 辺津宮へつみやには田寸津比賣命タギツヒメノミコトがいる。
 中津宮なかつみやには市寸島比賣命イチキシマヒメノミコトがいる。
 奥津宮おくつみやには多紀理比賣命タギリヒメノミコトがいる。

 そして問題の弁財天は辺津宮境内の奉安殿ほうあんでんに、日本三大弁財天として有名な八臂弁財天はっぴべんざいてん裸弁財天はだかべんざいてん妙音弁財天ミョウオンベンザイテンがいる。

八臂弁財天/江島神社HPより
妙音弁財天/江島神社HPより

 八臂とは八本腕のことであり、妙音弁財天は二本腕で琵琶を持っている。だからそれぞれのグループが自己主張していることになる。有名なのは八臂弁財天だそうだ。


 次は琵琶湖の竹生島ちくぶしま
 元々は一つだったのが神仏分離の影響を受け宝厳寺ほうごんじ都久夫須麻神社つくぶすまじんじゃ (竹生島神社ちくぶしまじんじゃ) に別れた。

 都久夫須麻神社の御祭神は市杵島比売命イチキシマヒメノミコト (別名:竹生島大神チクブシマノオオカミ) と、宇賀福神ウガフクジン浅井比売命アサイヒメノミコト (産土神の一柱) 、八大龍王の一尊である黒龍大神コクリュウオオカミ黒龍姫大神コクリュウヒメオオカミの二柱が祀られている。
 ちなみに市杵島比売命は宗像三姉妹の一神であるが、その名はそのまま弁才天と同一と見做されている。

 宝厳寺の本尊は八本腕の大弁才天。
 観音霊場としても知られており、観音堂には千手観世音菩薩がいる。

 この島は弁才天信仰の聖地ともいわれている。
 また島内の都久夫須麻神社では毎年六月に相模さがみの江島神社、安芸あきの厳島神社より分霊と神官を竹生島に招き、三社合同の弁才天祭りが華々しく行われているらしい。


 最後は宮島。
 元々は厳島神社にすべてあったが、神仏分離で宗像三姉妹は厳島神社に残り、八臂弁才天像ハッピベンザイテンゾウ (八本腕の弁財天) は同じ島内の大願寺だいがんじに移された。

八臂弁才天は秘仏/大願寺HPより


 ここでも弁才天は市杵島比売命がそのまま弁財天とされている。

代表的な三大弁財天であっても方向性は一つではない。
ご自宅の近くにもきっと弁財天が祀られた神社や寺院があるのではないだろうか。
どちらに属する弁財天が祀られているのか、それは願いと合致する弁財天なのか、覗いてみるのも一興かもしれない。


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