驚きのドイツ語 (1) 自動車
コロナ禍で自転車通勤が増えていた頃、ベルギーの会社は、社員の通勤用の自転車を与える、とか1kmにつき0.27ユーロの自転車手当が付くとか、自動車による化石燃料の消費を減らすための制度があると聞いたが、ドイツではついぞそのような話を聞いたことがない。ドイツに住んでいると、あまり感じないが、他国の話と比べると、車社会であることを感じる。ドイツ語の中でも車の存在は、特別感がある。
ドイツ語を勉強し始めた頃、まずfahren(ファーレン)という「(乗り物で)行く」という動詞がgehen(ゲーエン)という普通の「行く」という動詞の他にあるのが新鮮だった。
そして、日本語の車と自動車に意味の差があるように、ドイツ語のWagen (ヴァーゲン)とAuto (アウト)にも同様の差がある。アウトは外来語で、英語のauto-と同様に「自動」を意味する。
「道に車が止まっている」という静止状態を表現するには、ドイツ語では 「Das Auto steht auf der Straße.」なのだが、直訳すると「車が道に立っている」になる。日本語ドイツ語バイリンガルの私の娘が小さい頃、日本語でまさにこの直訳を言ったので、車はどんな格好で道に止まっているのか想像してしまって、吹き出してしまったことがある。これはドイツ語における車の特別な存在感というより、むしろ動詞の問題だが、車は垂直方向より水平方向に広がっている物なのに「横たわっている」ではなくて、「立っている」を使うのだ。昔の馬車が見上げるように高かった名残なのだろうか。
ドイツ語の教科書や授業、フォーマルな表現では聞かなかったのに、生活していて驚いた車関連の表現もある。
ある日、私とドイツ人の夫が出かける際に、夫が「Wir stehen auf der Straße.(直訳 私たちは道に立っている)」と言ったのだ。このタイミングでなぜ、そんなことを言うのか理解できなかった、まだ道に出ていないのに。ポカンとしていると、言い直してくれた。「うちの車は道に止めてあるよ」と。私たちはまだ道に出ていないのに、あたかも車が私たちであるかの如くだ。じゃあ、車じゃないここにいる私たちは何なんだろう?と哲学的な自問をしてしまった。車以外の所有物についてはそういう言い方はしない。仕事の場などフォーマルな表現の時は使わない言い方だ。
今日、オランダ語の通訳もできる友人に、オランダ語でもそのような自分と車を同化させる言い方はあるのか聞いてみたところ、ドイツとの国境の近くの地方に住んでいる人で、よくドイツに来るような人達はオランダ語で似たような言い方をするが、それ以外の地方ではそういう言い方をしない、と教えてくれた。
スイスとオーストリアのドイツ語ではどうなのか、そのうち現地の人に聞いてみたい。
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