Vol.31 動き出した歯車!「HPVワクチン定期接種の再開検討」~HPVワクチンを知ろう~
HPVワクチンがついに復活か???
日本では、2013年よりHPVワクチンの積極的接種が中断されています。
仕事がら子宮がん検診に深く関わる身であるため、その動向に注目しているのだが、昨年度から新型コロナウイルス感染と同期するかたちで、HPVワクチンを取り巻く環境が活発化していました。
そして、2021年10月1日(金)付けのニュースで以下のような情報が出されました。
積極的勧奨「妨げる要素ない」 HPVワクチン、再開検討へ 厚労省部会
厚生労働省の専門部会は1日、子宮頸(けい)がんの主因となるヒトパピローマウイルス(HPV)感染症を予防するワクチンについて、「(接種を個別に呼び掛ける)積極的勧奨を妨げる要素はない」との認識で一致した。
副反応と疑われる報告が相次いだため、同省が2013年に積極的勧奨を中止していた。今後は再開に向けた審議が進められる。
専門部会では、HPVワクチン接種後の症状について、「接種との関連性は明らかになっていない」と指摘。国内外で同ワクチンの有効性が確認されており、対象者に個別に情報提供を始めた自治体が6割を超えたことなども踏まえ、再開に向けた課題を議論していく方向で一致した。
今後は再開時期や症状を訴えた人への支援体制拡充、中止により接種機会を逃した人への措置などの検討を続ける。
2021/10/1 時事通信社
国が再びHPVワクチン定期接種に向け力を入れることを表明したのです!
2013年の副作用問題から足掛け8年・・・長かった(^_^;)
ここ数年、HPVワクチンの有効性に関する研究データが積み上がっています。有効性を検討するには、長期スパンでの追跡調査が必要だからです。
有効性を示す3つの論文を後述しますが、HPVワクチンは極めて有効であることが明らかとなっているのである!
しかし、新型コロナウイルスでも明らかとなったが、あらゆるワクチンには副作用という問題がつきまといます。だが、副作用のみが強調され、その有効性に蓋がされてしまうのはナンセンスなのではないだろうか?
有効性、副作用という両天秤、行政主導で国民へ正しく周知し、同じ轍を踏むことがないよう、ワクチン定着へ向け慎重に進めてほしいものである。
今回は、HPVワクチンをピックアップし、ここ最近の世界および日本におけるHPVワクチンの話題について語っていこうと思います。
やや専門的ですが、どうぞヨロシク('ω')ノ
■HPVワクチン時系列
【時系列によるHPVワクチンに関するトピック】
2009年:2価HPVワクチン発売
2010年:子宮頸がん等ワクチン摂取緊急促進事業開始
(公費助成開始13~16歳)
2011年:4価HPVワクチン発売
2013年:4月HPVワクチン定期接種導入(12~16歳)。
ワクチン副作用報道。
2013年:6月積極的な摂取勧奨の一時中止の発表。
・・・
2020年7月:9価ワクチン「シルガード9」承認
2020年10月:厚労省がHPVワクチンの新しいリーフレットを作成
2020年12月:HPV4価ワクチン「ガーダシル」の男子への接種拡大
2021年2月:9価ワクチン「シルガード9」発売(MSD)
2021年10月:再開検討(厚労省部会)
上記の流れをみて分かるとおり、2013年度以降は何も動きがなかったのが、2020年度からHPVワクチンに関する話題が増加しました。
何か戦略的なものを個人的には感じます(-ω-)/
では世界の状況を確認していただき、それから各話題について順を追って解説していきます。
■HPVワクチン摂取の世界的な状況とは?
2021年時点で、約110の国と地域で定期予防接種スケジュールでHPVワクチンが接種されています。
日本は摂取期間が一時的であったためわずか1%と低迷しています。一方でHPVワクチンを推進しているカナダ、イギリス、フランスでは摂取率が80%近くもあり、高水準を維持しています。
見ての通り、世界とは明らかな差がついているのである。
■厚労省による新しいHPVワクチンリーフレット
【厚生労働省HP HPVワクチンリーフレット】
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/index.html
2020年10月9日に、厚生労働省から全国の自治体に対して、HPVワクチンの対象者への個別案内が依頼されました。
また、HPVワクチンに関するリーフレットが大幅に改変され、HPVワクチンを定期接種として接種できることが強調され、接種について検討する機会になることが期待される文面になりました。
気になる方は、厚生労働省HPのリンクを貼りましたのでご参照下さい。
■シルガード9(9価HPVワクチン)とは?
90%以上の子宮頸がんを予防すると言われており、日本でも2020年7月21日に厚生労働大臣から承認されました。日本では「シルガード9」という名前で使用されています。(2021年2月24日発売)
【対象となるHPV型】
HPV9価:6型、11型、16型、18型、31型、33型、45型、 52型、58型
【使用にあたっての留意点】
・現在の所、定期予防接種では使用できない。
・厚労省の指示により全例登録をおこなうワクチン。
・そのためのシステムである「ワクチンQダイアリー」への登録が必要であり、接種時は毎回「ワクチンQダイアリー」へ登録する。
・9歳以上の女性に、通常、2回目は初回接種の2ヵ月後、3回目は6ヵ月後に接種する。
・摂取は、約10万円の自己負担
高っ(;´Д`)
「ワクチンQダイアリー」ログイン画面
https://vaccine-q-diary.com/user/#/C0201_Login
シルガード9(9価HPVワクチン)は世界標準となりつつある!
【シルガード9の承認国】
2014年12月に世界で初めて米国で承認されて以来、2020年3月時点で80カ国以上で承認。主な承認国は、米国、カナダ、オーストラリア、ドイツ、イタリアなど。
【シルガード9の海外での定期接種導入状況】
2020年3月時点で、米国、カナダ、オーストラリアなど35カ国以上が定期接種として導入。そのうち男性にも推奨している国は20カ国以上。
■HPV4価ワクチン「ガーダシル」の男子への接種拡大
2020年12月25日に、中咽頭がん、肛門がん、陰茎がん、尖圭コンジローマの予防を目的として、9歳以上の男性にも4価ワクチン(ガーダシル®)を接種できるようになりました。
現在、男性への接種は任意摂取です。
世界では77か国が男子接種を承認し、アメリカ、イギリス、オーストラリアなど24か国で公費接種も行われています。
摂取は、約5万円の自己負担でかなりの高額です(^_^;)
アメリカでは、HPV関連中咽頭がん(年間14,000人)は子宮頸がん(年間11,000人)よりも多く、非常に大きな問題になっています。
さらに、HPV関連中咽頭がんは男性が女性よりも圧倒的に多く(男性11,800人/女性2,200人)、男性でもHPV感染を予防することが中咽頭がんの予防になると考えられます。
HPV関連中咽頭がんの中の88%は16型のHPVが原因とされていて、これは2価・4価・9価全てのワクチンで予防が可能です。また、オーストラリアでは88%、アメリカでは64%の男性がHPVワクチンを接種しているとの報告があります。
■近年のワクチン有効性研究
①フィンランドの14~19歳を対象としたHPVワクチン接種者の追跡調査で、接種者と未接種者で明らかな有意差があると報告されました。(2018年)
【期間】:2007年6月~2015年12月
【対象】:HPVワクチン接種の65656人、未接種124245人の追跡調査
【結果】:HPVワクチン接種65656人中、浸潤がん 0人
HPVワクチン未接種124245人中、浸潤がん 8人(割合6.4%)
Luostarinen T et ai. Vaccination protects against invasive HPV-associated cancers.Int J Cancer. 2018 May 15;142(10):2186-2187.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29280138/
②スウェーデンで、17歳未満でのHPVワクチンで子宮頸がんを88%減少させた論文が発表されました。(2020年)
【結果】 HPVワクチン接種なしにおける子宮頸がんの発生を1とした場合
・摂取あり(10~30歳) 0.37(63%減少)
・摂取あり(10~16歳) 0.12(88%減少)
・摂取あり(17~30歳) 0.47(53%減少)
若年者(17歳になる前)に摂取した方が効果的であることが明らかとなった。
Lei J, et al. HPV Vaccination and the Risk of Invasive Cervical Cancer. N Engl J Med 2020; 383:1340-1348
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa1917338
③日本におけるヒトパピローマウイルスワクチンの全国的な症例対照調査報告(2021年、大阪大学)
【対象】
2013年4月から2017年3月間の、全国自治体子宮頸部検診を受診した20〜24歳の女性。HPVワクチン接種の2605人、未接種9691人の追跡調査。
【方法】
細胞診の正常者と異常者間で、HPVワクチン接種状況を比較。
【結果】
HPVワクチン接種 2605人中、浸潤がん 0人
HPVワクチン未接種 9691人中、浸潤がん 8人
ワクチン有効性:CIN1(57.9%)、CIN2(74.8%)、CIN3(80.9%)
症例全体に対する有効性は(58.5%)
HPVワクチン接種者では、異形成に対する著明なリスク低下を示していることが明らかとなった。
Ikeda S et al. Human papillomavirus vaccine to prevent cervical intraepithelial neoplasia in Japan: A nationwide case‐control study.Cancer Sci. 2021 Feb; 112(2): 839–846.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33040433/
【大阪大学研究グループの試算】
仮に接種率が70%なら、現在、16~21歳女性では、将来のがん患者数が約2万2000人減少、死亡者数が約5500人減少すると報告しています。
■まとめ
HPVワクチンについて理解できたであろうか?
私が従事している細胞検査士という職種は、子宮がん検診を主とする婦人科領域の検査を行うため、ガン化の要因となるHPVは憎き敵なのである。
そのため私はHPVワクチンを強く推奨しているのだ。
しかし、HPV感染がなくなれば、婦人科領域を主とする私の職種の必要性が無くなってしまうこともまた事実なのであるが、個人的にはむしろありがたい話だ。
「人の命」と「仕事が無くなってしまう」ことを天秤にかければ、どちらが重いかなんて考えるまでもなかろう!「ありがたい」なんて当然の話だ!!
「厚生労働省~!しっかりやれよ~!!」
最後に、HPVワクチンの副作用についても挙げておきます。
下記のリンクを参照して下さい。
ではまた次回(^^)/