ユリすぎて百合になったわね⚜(短編小説)
それは造花の百合なのかもしれない。
「菖蒲《あやめ》乃花《のはな》さん、ワタクシはアナタとホンモノのユリになれる……そう思います。ですので、ワタクシ……フルール・ド・アイリスは菖蒲乃花さんとユリの関係になることを望みますわ」
「…………え?」
ちょっと、意味がわからない。よくある高校の屋上で……フランスからの留学生、フルール・ド・アイリスは、あたし、菖蒲乃花に百合宣言した。
「ユリって……『百合』のことですか? あの、女同士で、えっちなことをする、あの百合……ですか?」
「ハイ! ワタクシの国ではフルール・ド・リスという概念が存在しますわ! ⚜(←左の図が描いてある絵の紙を乃花に見せる)……これがフルール・ド・リスですわね! 直訳するとユリの花になりますわね! ワタクシ、思ったのですわ! ワタクシの名前、フルール・ド・アイリスとアナタの名前、菖蒲《あやめ》乃花《のはな》は『アヤメの花』という意味になりますので、だからこそユリの関係になるべきだと思いますわ!」
なに言ってんの、こいつ……?
「最初はアヤメなワタクシたちですが、いずれユリになるための運命的な名前だったのですよ、ワタクシたちは。だから今から誓いのキスをしましょう! アヤメから始まるユリもあるのですわ! これがワタクシたちのユリ革命ですわね!」
「え、あたしの許可いるでしょ? なんで強引に決めるの? それに、あたし女の子には興味がない……――」
――ズキュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
(な、なにぃぃぃぃぃ!!)
こいつ、なんの許可も得ずキスしやがった!!
はなせぇ、はなせぇ、はなせぇ!!
フルールは離さない。こんなご時世だというのに口と口の粘膜を交換してしまった。もう、イヤなのに……。
(…………ぷっはぁぁぁぁぁ!!)
ようやく離してくれた。
「どうして、いきなりキスをした!? なぜだ、なぜなんだぁぁぁぁぁ!!」
「乃花さん知らないんですか? フランスでは、キスは挨拶に過ぎないんですよ? そんなキスで顔真っ赤にするなんて、とんだユリですね」
「なんだって!?」
……そうだったのか、キスは挨拶……あたしたちは名前でしか共通点がないけど、キスが挨拶ならば仕方ないことなのかもしれない。
※のちに乃花はフランスの挨拶について検索するが、フランスの挨拶は「ビス(お互いの頬を軽く合わせて、相手の耳のちかくでチュッという音を鳴らすだけ)」と呼ばれるもので、これが挨拶のキスでないホンモノであることを知ってしまうのだった……そのときの乃花とフルールの関係は、すでに進んでしまっていたのだが。
「乃花さん、ホント無知です。世界的な常識を知らないなんて……無知すぎてユリになりそうですわね」
「いいや、あたしは百合にならない!! あたしは絶対にノーマルだ!! ノーマルの恋愛をして、ノーマルに生きていく!! そして老いて死ぬ!! それがノーマル人生!!」
「だったらワタクシの挑戦、受けてたちますわね!!」
「挑戦、だと……?」
「ええ、今からワタクシの家に来てください。そこでワタクシのユリ革命に耐えきれるか勝負してもらいますわ!! それができなければ、アナタはノーマルな人生を送れません!! ワタクシと一緒にユリ人生を送ってもらいますわ!!」
「この挑戦、受ける!! そして、ノーマルな人生を歩んでみせる!!」
「よろしい!! ならば、ワタクシのベッドにインしましょ!!」
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! ベッドインだ!! 絶対ノーマルに生きてみせる!!」
このあと、めっちゃABCまでユリユリした。
この時点でノーマルな人生はムリだったのだ。
そしてABCを共に過ごしたフルールは言った。
「ユリすぎて百合になったわね⚜」
フルールは百合という概念をユリという外国人程度の知識しか知らずに、あたしと百合百合したのだ。
彼女は日本の百合という概念をユリ程度しか理解していなかったのに。
それを「フルール・ド・リス」という言葉から、あたし……菖蒲《あやめ》乃花《のはな》を見つけてユリもどきからホンモノの百合をおこなってしまうなんて……なんてユリもどきなステップアップからの百合なのか……。
のちに「ビス」について知って、最初のころの関係に戻ろう、なんて……もう、思えなかった。
それは造花の百合なんかじゃない。
ホンモノは確かに、あたしたちにあった。
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