超常異能の改変作家 第6話
*
「僕は潔癖症じゃない。照れ屋なんだ。それに、かなりひねくれていた」
「――?」「――?」「――?」
「家族の愛情を感じやすかった。家族の愛情を受け止められる器じゃなかった」
三人の家族の「謎」を解くように言う。
「三人に純粋なままでいてほしかった。三人が結婚するまで守りたかったんだ。単純な話さ。気持ち悪い話かもしれない。いや、気持ち悪い話だよ。三人とも完全な『純潔』のままでいてほしかった。これでわかるかな」
「…………」「…………」「イクモわかんない」
「イクモは、まだわからなくていいさ。純粋なままでいてほしい」
「わかったっ!」
「ちょっと待ってっ! 今までわたしたちのことをそんなふうに想ってたの? 血のつながったアサネさんとイクモのことも? 異常よっ! 人が考える領域の話じゃないわ。それは、まるでロボットよっ!」
「私もハツメちゃんと同じ意見だわ。こんなに愛のあるスキンシップをしたいと思っているお姉ちゃんをあしらっていたのがそういう理由だったなんて」
「ああ、だから羅円大公《ラエン・タイコー》という人間は変態級のイカレヤローだったわけ」
『なんで他人事?』と、三人。
「そう思いたくなるのさ。振り返ると……ね」
僕は三人に嘘をついている。
「羅円大公《ラエン・タイコー》が僕である」と全神経の感覚を馴染ませるように、心から正直になろう。
――この瞬間だけでも本物だと思ってくれ。いずれ本当のことを話すときが来るかもしれないから。
「麻音《アサネ》姉ちゃんと生萌《イクモ》は大事な家族だ。今まで『潔癖症』だと偽ってごめん。これからはちゃんとスキンシップするよ」
血のつながった二人は僕にハグをしながら、うん、うん、と、うなずいている。
「そして初芽《ハツメ》。キミと会ったときのことを今でも思い出すよ。つらかったよね。これからもつらいと思う。僕は過去を知っているだけだから『あのとき』から想っていたことを言うよ」
僕は彼女の瞳を見て言う。
「若菜初芽《ワカナ・ハツメ》さん、ずっと前から好きでした。結婚してください」
*
……あれ?
この状況は、いったい……。
なんで僕は初めて出会った女の子に、いきなりプロポーズをしているのだろう?
よくわからない。
ただ、自分の……と、いうか僕の中にある「彼」の感情をそのまま伝えただけだ。
なのに、どうして、こんな状況になっているのだろう?
というか、自分は、まだ……「この世」について理解できていない。
「この世」だけど、僕にとっては「あの世」……そう考えてもいいかもしれない。
だが、「彼」の気持ちは本物だ。
僕は、その気持ちを代弁したに過ぎない。
しかし、発言する場を間違えてしまったのだ。
僕は「彼」の寝室で彼女に告白した。
――若菜初芽《ワカナ・ハツメ》という「彼」の幼馴染に――。
「――け、けっ、けけけっ、結婚ですってえええええぇぇぇぇぇぇっ!?」
若菜初芽《ワカナ・ハツメ》という少女は驚いた、という次元を超えるような反応をする。
そりゃそうだな。
寝室で目覚めた「彼」の様子がおかしいと「家族」と議論して、いきなり結婚話にまで発展するなんて……普通は、ありえない。
まあ、僕からしたら、この状況が一番ありえないのだけど。
一回死んだ身だから、そう思うのだ。
「な、ななな、なんでぇすってえええええぇぇぇぇぇぇ!? なぜ、ここで? なぜ、ここでなの、タイくうううううぅぅぅぅぅぅっっっっっっっんっ!?」
「麻音《アサネ》姉ちゃん、とりあえず……落ち着いてよ。こういう場合なんだっけ? お赤飯を炊くんだっけ? それとも結婚式場の予約? 今年で十六歳になる男女って結婚できる? いったい、なにから始めればいいのかな? 生萌《イクモ》わかんないっ!」
「ちょっと生萌《イクモ》っ!? なんで、もう……わたしが大公《タイコー》と結婚する前提で話しているのっ!? わたし、まだ、なにも……だいたい家族なのよ、わたしたちは……」
「家族が家族になるだけだよ……? それに初芽《ハツメ》姉ちゃんの想いは大公《タイコー》兄ちゃん以外、知ってるよ」
「……ねえ、ちょっと……冗談は、やめてってば……わたしには、まだ心の準備ってものが……――」
「――……そうよね。確かに生萌《イクモ》ちゃんの言うとおりだと思うわ。まずは私たちの家族に紹介して……って『転移』が済んでいるのだから、それはできないわ。そして、なにより今は……学校へ行かなければならないでしょうがあああああぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!」
「――?」「――!」「――!」
――……学校、だと?
「こんなイベントを起こしている時間なんて一ミリもないわっ! タイくんっ! 初芽《ハツメ》ちゃんっ! 生萌《イクモ》ちゃんっ! 行くわよ、学校っ! 遅刻しちゃうううううぅぅぅぅぅぅっっっっっっっ!! パン焼いてたから咥えて走ろうっ! だけど、誰にもぶつかっちゃダメだからねっ! これ以上の青春を起こしてたまるもんですかあああああぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!」
こうして僕が転生して、いや……転生前から今までなかった初めての青春が始まろうとしていた。
そして僕が告白した彼女を見たとき、とても……頬が夕焼け空のような赤に染まっていたのだった――。
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