超常異能の改変作家 第5話
*
だからこそ、この状況を切り抜けなければいけないんだ――。
「――あーっ!」と、部屋の窓を指さす。
「――!」「――!」「――!」
――今だっ!
僕はドアへ向かってダッシュする。
――部屋を出て、この家の玄関に設置されている表札を見ればいいっ! そうすればうやむやになってごまかすことができるはずっ! やったぜ、僕の人生大勝利っ!
……と、思った瞬間だった。
「……はい?」
ドアの目の前には、いつの間にか……姉のアサネと妹のイクモがいた――瞬間的な速さで……実際に瞬間移動したかのように。
「……なんで?」
「なんでって、逃げるタイくんを逃がさないために決まっているじゃない……ねえ、イクモ?」
「そうだね、アサネ姉ちゃん。タイコー兄ちゃんを想う家族愛を揺るがす大事態が起きようとしているんだものっ! これくらい家族の愛情があれば朝飯前なんだよっ!」
「家族愛のレベルを超えてるよね? 愛があればなんでもできるわけじゃないよね?」
『いいえっ!』
血のつながった姉妹は心をシンクロさせるように言う。
『愛があればなんでもできるっ!』
――……そうかー……できてしまうかー……家族愛って怖いわー……。
僕は心の中の「ボケ」を考えないようにする。
今の状況を打破できないか考える。
そのときだった。
「うっ、うっ、うっ……」
幼馴染ことワカナ・ハツメが泣き出した。
「ハツメちゃん?」「ハツメ姉ちゃん?」
姉妹は幼馴染に視線を合わせる。もちろん僕もだ。
ハツメは僕を見据える。
「どうして……どうしてしまったの? タイコー……」
「どうしてって……どうして?」
「今日は、わたしたちの新しい生活が始まる大事な日よ。忘れたの?」
「…………」
「そう……忘れてしまったのね」
彼女は真剣な顔をして話す。
「今日は、わたしたちの新たな学園生活が始まる大事な日。でも、タイコーは起きてこない……だから起こしに来たの。まるで死んだような顔をしていたから、様子を確認するために近づいた……無事に起きたと思ったら……わたしの胸を何回も触るし……びんびんだし」
「びんびんは、なるだろ」
「ならないわよっ!」
否定的な言葉を放った彼女は、彼の過去を語る。
「タイコーは、まじめだった。あらゆる面で、まじめだった。潔癖症なのっ! だから、びんびんなんてありえないのっ! 反応しないのが普通のタイコーなのっ! 血のつながっているアサネさんとイクモのような家族でさえスキンシップを取ろうとしない人なの、タイコーは。今日は本当に異常よ。流されるように受け入れてる。アサネさんとおでこをくっつけることだってしない。今までだったら瞬間的に離れるよ。くっつこうとも触れようともしない。『触れたら死んでしまう』と思ってるんじゃないかってくらいに」
スキンシップは一般的な家族の中でするかどうかは微妙だとは思うのだが……まあ、置いといて……ラエン・タイコーの異常さに僕は驚いている。そんな人間、存在するわけがない。
「だから、ほんのちょっとだけ興味があった。タイコーと正面から逃がさないようにすれば、どんな反応をするのかってね」
だから彼女は僕の正面にいたのか……。
「そうね。私はいつでもスキンシップOKだけど、おでここつんの時点でいつものタイくんじゃないって気づくべきだったかも」
「タイコー兄ちゃんは大の潔癖症だからね」
もう、どこからツッコんでいいのやら(特にアサネ姉ちゃんのセリフ)。
「わたしの知るタイコーは、どこへ行ったの……」
彼女の頬に水滴が伝う。
――いや、また泣くの? 乗り移ってしまった僕の立場は……。
「…………」「…………」「…………」「…………」
ああ、(僕を含む)四人とも黙っちゃうのね。気まずいなあ……。
……と、思った最中であった。
再び僕は彼女が泣いているのを見る。
すると、瞬間的に知ることになる。
彼――ラエン・タイコーの情報が頭の中にくっきりと現れてくる。
彼女の涙を見ることが「箱の封印を解く鍵」の役割を担うかのように、僕は知ることとなる。
どうして彼が潔癖症だったのか、を。
――そうか、彼は――。
そして、彼の見た……この家の表札の情報が――。
『羅円 麻音
大公
生萌
若菜 初芽』
――僕は、彼の名前と、彼の想いを――。
「――大公《タイコー》」
「――!」「――!」「――!」
「おおきい大に、おおやけの公。『羅円大公《ラエン・タイコー》』。それが僕の名前」
「思い……出した。いえ、『覚えていた』のね。さすが私のタイくんっ!」
「タイコー兄ちゃんっ!」
姉妹は僕に向かってジャンプする。
僕は姉妹を「珍しく」受け止める。
「どうして? いつもならアサネさんとイクモのハグをヒョイヒョイ避けて受け止めることなんてしなかったのに……やっぱり偽物なの?」
「いいや、僕は正直に生きようと思っただけなのさ」
「正直に? それはどういう意味なの? 説明して」
「お姉ちゃんにも聞かせてくれないかな?」
「妹のあたしにもっ!」
僕は羅円大公《ラエン・タイコー》の過去の記憶をたどる。
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