ナイちゃんの華麗《カレー》なる人生の記録 第13話
*
「俺たちは普通になりたかった。でも、なれなかった。だから俺たちの子供は『普通にしよう』と思った。俺たちはいじめられっ子だから、ナイの病気のことをどうにかできなかった現実を変えようと思ったんだ。病気だけど普通にならなければ、この厳しい社会を生きていくことができない。だから、おまえたち二人には普通になってほしかった。伊丹家は、いじめられっ子の家庭だったってことは有名だから……だから、伊丹家に対する世間の目は厳しかった」
「普通ってなに?」
「うん?」
「なんなのよ、普通って。普通の基準ってなに?」
「それは……」
「わかるような人間なら、こんな家庭になっていないわよね。崩壊するような家庭に」
「ああ、そうだな」
「そうだな、じゃないわよっ! いくら最先端医療都市『金沢』に住んでいるからって……金沢にナイを任せっきりにしてんじゃないわよっ!」
「確かに金沢に託しすぎたんだ、俺たちは」
「いくらナイの怪我が深刻なダメージを受けていたとしても、『あの病院』の絶対回復装置がなければ、こんなことにならなかったのに」
「ああ、そうだ。絶対回復装置は確かに『すべての傷をなくす機能』がある。だが、それは装置に入れられた生物の寿命を消費して無理やり回復させるものだった。俺たちは金沢に過信しすぎていたんだ」
「そうよ。絶対回復装置の最終手段機能のひとつである金沢最先端医療技術式蘇生法があれば、いじめ問題も無問題になる。そんなふうにあんたたち両親は思っていたのかもしれない。でも、ナイがニトログリセリンをカレールーにぶちこんだとき、絶対回復装置には、ある問題が浮き彫りになった。それはあんたの言った『生物の寿命を消費させる復活』だった。だからナイは今まで寿命を削り続けていたんだ。わたしたちは金沢を信じすぎていた」
「生物の寿命がわかる機能である生物寿命絶対判明機能を絶対回復装置に搭載することは禁忌であると、この国では恐れられていた。だが、ナイは爆発により重傷で使わざるを得なかったんだ」
「ええ、仕方なかったのかもしれない。だけど、わたしたちの罪は重い」
「ああ」「そうね」
父と母は同時に言った。だが、少し淡白すぎる。
「それだけか」
「は?」「え?」
「それで『わたしたち』への罪を償ったつもりか? ナイの痛みがなぜ復活したのか? その理由を知ってもか?」
『それは……』
「ナイの神経はニトログリセリンによる爆発のせいで反転するように痛みが復活した。そうでもしなければ、ナイの痛みは復活できなかった。本当にボロボロだったんだよ、ナイは。なんで最初からいじめを止めなかったんだ。なんで見て見ぬふりをしたっ! なんで普通に問題解決しようと思わなかったんだっ!」