今日は私がお兄さんを独り占めするんだから、もっと早く来てくださいね?(短編小説・中編)※18禁のため閲覧注意

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「ここが私の家です」
 結愛ちゃんの家は、二階建ての一軒家で、それなりに立派な外観をしていた。
 中に入ると、綺麗に片付いていて、落ち着いた雰囲気の部屋が広がっている。
「……お邪魔します」
「どうぞ、遠慮せずにくつろいでくださいね?」
 どこか緊張している様子の俺を、結愛ちゃんは笑顔で迎え入れてくれた。
 それからしばらくの間、二人で他愛もない会話をしながら過ごしていたのだが、やがて、話題も尽きてしまい沈黙が訪れる。
(なんか気まずいな……何か話すか……)
 そう考えたところで、あることを思い出した。
 そういえば、さっき買ったアレを渡すのを忘れていたんだった……。
「あ、あのさ……」
「は、はい! 何ですか!?」
 声をかけると、なぜか慌てた様子で返事をされた。
 しかし、すぐに落ち着きを取り戻してこちらに向き直る。
「えっと、これを渡したくて……」
 言いながら、先程購入したものを手渡した。
「これは……?」
 不思議そうに小首を傾げる彼女に、俺は答える。
「開けてみていいよ」
 俺の言葉に従って、包みを開けた彼女は中身を見て驚きの表情を浮かべた。
「えっ!? こ、これって……!」
「うん、ネックレスだよ」
 俺がプレゼントしたのは、小さな花の飾りがついた可愛らしいネックレスだった。
 それを目にした瞬間、彼女の目が潤む。
「ゆ、結愛ちゃん? どうしたの?」
 突然のことに困惑していると、彼女は目尻に涙を浮かべながら口を開いた。
「す、すみません……! まさかこんな素敵なものを買ってもらえるなんて思っていなくて……」
 どうやら、嬉し泣きらしい。
「喜んでもらえたならよかったよ」
 安心しつつ言うと、彼女は大きく頷いた。
「もちろんです! 大切にしますね!」
 そう言って微笑む彼女の顔が、あまりにも綺麗で思わず見惚れてしまう。
 すると、彼女が不意に俺の胸に飛び込んできた。
「ど、どうしたの?」
 いきなりの行動に動揺していると、上目遣いでこちらを見つめてくる。
 そして、ゆっくりと顔を近づけてきた。
「……んっ」
 そのまま、唇を重ねられる。
 数秒後、顔を離すと、今度は首に腕を回してきて再び唇を奪われた。
 しかも、今回は舌を絡ませるような濃厚なキスだ。
 そのあまりの激しさに、頭がクラクラしてくる。
 やがて、どちらからともなく唇を離すと、銀色の糸を引いた。
 それを見た瞬間、顔が熱くなる。
 だが、それ以上に興奮していた。
 それは、彼女も同じようで、上気した顔でこちらを見つめている。
 そんな彼女の顔が可愛くて、思わず頭を撫でてしまった。
 すると、くすぐったそうに身をよじる。
 それがまた可愛くて、しばらく撫で続けていたら、不意に彼女が顔を上げた。
 そのまま唇を重ねられる。
「んっ……」
 舌と舌が絡み合う感触に、思わず声が出てしまう。
 彼女の舌は僕の口内をゆっくりと這い回り、そして唇が離れる。
 その瞬間、二人の間に唾液の橋がかかる。
 彼女はそれを舐め取ると妖艶に微笑んだ。
 その姿はひどく扇情的で、見ているだけで頭がクラクラしてくる。
 そんな俺の様子に満足したのか、彼女が耳元に顔を寄せてきて囁いた。
「今日は帰しませんからね……?」
 その言葉に返事をする間もなく、再び唇を塞がれる。
 今度は先ほどよりも激しいものだった。
 舌を絡ませ合う度に水音が響き渡り、その音が余計に興奮を高めていく。
 気づけば俺も夢中になって舌を絡めていた。
 お互いに貪るように求め合い、息をするのも忘れるほど激しく求め合う。
 そうして長い口付けが終わると、どちらからともなく唇を離した。
 銀色の糸が二人の間を繋ぎ、やがて途切れる。
 それを見た彼女の瞳は妖しく輝いていた。
 その瞳を見た瞬間、背筋にぞくりとした感覚が走る。
 それは恐怖によるものだったのか、それとも快感によるものなのかわからなかったが、一つだけ確かなことがあった。
 それは目の前の彼女から目を離すことができないということだ。
 もうすでに逃げることなどできないところまできてしまっているのだろう……俺はぼんやりとした頭でそんなことを考えていた。
 しかし、それでもいいと思ってしまう自分がいることにも気づいていた。
 どうせ逃げることはできないのならいっそこのまま堕ちてしまおうか……そんな風に考えてしまうくらいには今の快楽に溺れてしまっていたらしい。
 我ながら単純だとは思うが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
 とにかくこの昂りを抑えるためにも早く続きをしてほしかった。
 だが、それを伝える前に彼女が口を開く。
「そろそろ始めましょうか……」
 そう言うと、おもむろに服を脱ぎ始めた。
 下着だけの姿になった彼女は艶めかしく微笑んでみせる。
 その光景を見て思わず生唾を飲み込んだ。
 それほどまでに彼女の姿は魅力的だったのだ。
 その姿を見ているだけで体が熱くなってくるのがわかる。
 心臓の鼓動もどんどん速くなっていくのを感じた。
 今すぐにでも襲いかかりたい衝動に駆られたが、理性を総動員してなんとか堪える。
 すると、その様子を見ていた彼女が口を開いた。
「我慢しなくてもいいですよ? もう我慢できないんですよね? だったら思う存分楽しんでください……」
 耳元で囁かれた瞬間、頭の中が真っ白になるのを感じた。
 もはや何も考えることができない。
 ただ本能のままに動くだけだ。
 気がつくと俺は彼女を押し倒すようにして覆い被さっていた。
 彼女は抵抗するどころかむしろ積極的に受け入れてくれる。
 そんな彼女の姿にさらに興奮してしまい、とうとう我慢できなくなってしまった。
 俺は欲望に身を任せて彼女の体に手を伸ばすのだった……。
 それからの記憶はほとんど残っていなかった。
 気がついた時には既に朝になっていて、隣で眠っている結愛ちゃんの姿が目に入る。
 その瞬間、昨日のことが一気に蘇ってきて顔が熱くなった。
 それと同時に猛烈な罪悪感に襲われる。
(なんてことをしてしまったんだ……!)
 いくら欲求不満だったとはいえ、あんな形で手を出してしまうとは自分でも思っていなかった。
 できることなら時間を巻き戻してやり直したいところだが、今さら後悔してももう遅いだろう。
 それに何より、あの状況ではどうしようもなかったというのも事実なのだ。
 たとえあの時、冷静になっていたとしても結局は同じことになっていたに違いない。
 そう考えると結局は変わらないということになってしまうのだが……。
 まあ、過ぎたことは仕方ないので諦めるしかないだろう。
 それよりもこれからどうするかを考える方が先決だ。
 とりあえず彼女には謝っておくべきだろうな……そう考えながら身支度を整えていると、不意に背後から声をかけられた。
「おはようございます」
「うわっ!?」
 驚いて振り返ると、そこにはいつの間にか起きていたらしい彼女の姿があった。
 相変わらず裸のままで目のやり場に困るが、なるべく意識しないようにする。
 それから小さく咳払いしてから挨拶を返した。
「……おはよう」
 少し声が上ずってしまったが、気づかれていないだろうか……? そんなことを考えていると、結愛ちゃんが微笑みながら尋ねてくる。
「よく眠れましたか?」
「あ、ああ……」
 本当はあまり寝られなかったんだがな……そう思いながら曖昧に頷いた。
 すると、なぜか怪訝そうな顔をされる。
 何かおかしなことを言っただろうか……? 不思議に思っていると、彼女は躊躇いがちに口を開くのだった。

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