キミが存在しないラブコメ 第17話

『神憑くん、少し疲れているんじゃない? どこかへ行って休息したほうがいいと思う』

『じゃあ、どこへ行こうか?』

『うーん、スキー場は、どうかな? 体を思いっきり動かすの』

『いや、ちょっと体を思いっきり休ませたいかな!』

『じゃあ、温泉にしよっか! ちょっと待っててね!』

温泉ってことは……一緒に混浴とかしたりするのかな?

綿里さんと、ふたりで温泉……悶々もんもんとしてきた!

僕は、ひたすらに妄想を止めなかった。

「綿里さんと温泉! 綿里さんと温泉!」

――と、唱えていた。

僕の妄想は止まらない。

ちょっとだけ、うずうずしてきた。

――スマホが着信音を流す。

相手は知らない番号の人だ。

電話に出る。

「……はい、もしもし」

『神憑さん、おめでとうございます! あなたは、この番組の当選者になりました! 温泉旅行をプレゼントしたいと思います!』

番組?

温泉旅行?

いったい、どういう意味だ?

「あなたは、いったい、なにを言っているんですか?」

『なにをって……言葉通りの意味ですけど、なにか問題が?』

監視、されているのか?

僕は急いで電話を切った。

なにが起きているんだよ、いったい……。

電話が鳴ったことに対して思った。

綿里さんは大丈夫なんだろうか?

僕は急いでメッセージを送る。

『綿里さんの周りで……本当に、なにも起きてない? 僕は心配なんだ! 綿里さんのことが……だから返事をください。本当に今、なにが起きてるのか僕でもつかめないんだ。僕は綿里さんを守ります。なにがあっても、絶対に』

送信する。

送信した瞬間、世界が割れる感覚がした。

この世界に、なにが起ころうとしているのか?

僕は、まだ知らない。

「それで、この病院へ来たんだ」

「そう。椎菜さんには理解できないかもしれないけど、僕をターゲットにした作戦が、この日本で実行されたというわけ」

「私には理解できないな」

「僕だって理解できない」

まあ、なにが言いたいのかというと――。

「綿里さんはテレビ局の車のなかにいる。僕が入院している間にも取材を受けているはずなんだ。文通を続けているのは、僕が隠した暗号を綿里さんに解読してもらうため……このやり取りは、とても重要なことなんだ」

「ちょっといい?」

「うん、なにかな?」

「神憑くんの病名って、なんだったっけ?」

「病名? それになんの意味がある? 僕は目の前に起こったことしか信じないぞ」

「話をそらさないで。この病院に入ったってことは、なにかしらの病名がつくはずだよ。それを答えて」

「そんなこと、知っているだろ」

「いいえ、改めて言って。そして、脳髄へたたき込んで」

「僕は……《妄想具現症》だ」

すべては、そこへ帰結する。

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