キミが存在しないラブコメ 第17話
*
『神憑くん、少し疲れているんじゃない? どこかへ行って休息したほうがいいと思う』
『じゃあ、どこへ行こうか?』
『うーん、スキー場は、どうかな? 体を思いっきり動かすの』
『いや、ちょっと体を思いっきり休ませたいかな!』
『じゃあ、温泉にしよっか! ちょっと待っててね!』
温泉ってことは……一緒に混浴とかしたりするのかな?
綿里さんと、ふたりで温泉……悶々としてきた!
僕は、ひたすらに妄想を止めなかった。
「綿里さんと温泉! 綿里さんと温泉!」
――と、唱えていた。
僕の妄想は止まらない。
ちょっとだけ、うずうずしてきた。
――スマホが着信音を流す。
相手は知らない番号の人だ。
電話に出る。
「……はい、もしもし」
『神憑さん、おめでとうございます! あなたは、この番組の当選者になりました! 温泉旅行をプレゼントしたいと思います!』
番組?
温泉旅行?
いったい、どういう意味だ?
「あなたは、いったい、なにを言っているんですか?」
『なにをって……言葉通りの意味ですけど、なにか問題が?』
監視、されているのか?
僕は急いで電話を切った。
なにが起きているんだよ、いったい……。
電話が鳴ったことに対して思った。
綿里さんは大丈夫なんだろうか?
僕は急いでメッセージを送る。
『綿里さんの周りで……本当に、なにも起きてない? 僕は心配なんだ! 綿里さんのことが……だから返事をください。本当に今、なにが起きてるのか僕でもつかめないんだ。僕は綿里さんを守ります。なにがあっても、絶対に』
送信する。
送信した瞬間、世界が割れる感覚がした。
この世界に、なにが起ころうとしているのか?
僕は、まだ知らない。
*
「それで、この病院へ来たんだ」
「そう。椎菜さんには理解できないかもしれないけど、僕をターゲットにした作戦が、この日本で実行されたというわけ」
「私には理解できないな」
「僕だって理解できない」
まあ、なにが言いたいのかというと――。
「綿里さんはテレビ局の車のなかにいる。僕が入院している間にも取材を受けているはずなんだ。文通を続けているのは、僕が隠した暗号を綿里さんに解読してもらうため……このやり取りは、とても重要なことなんだ」
「ちょっといい?」
「うん、なにかな?」
「神憑くんの病名って、なんだったっけ?」
「病名? それになんの意味がある? 僕は目の前に起こったことしか信じないぞ」
「話をそらさないで。この病院に入ったってことは、なにかしらの病名がつくはずだよ。それを答えて」
「そんなこと、知っているだろ」
「いいえ、改めて言って。そして、脳髄へたたき込んで」
「僕は……《妄想具現症》だ」
すべては、そこへ帰結する。