大晦日の大掃除@オチなし(短編小説)
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大晦日の大掃除。
それは、毎年恒例の行事である。
「お兄ちゃん、ちゃんとキレイにしてね」
「わかってるよ」
今年で小学四年生になる妹は、まだ幼いながらもしっかり者だ。
普段は生意気だが、こういった大掃除の時だけは、素直に言うことを聞いてくれる。
ちなみに、両親はというと、俺が子供の頃から続く伝統だからか、はたまた子供より自分の方が大事だからか、『自分たちは忙しい』と言って、毎年手伝いもせずにそそくさと出掛けてしまうのだ。……まあ、俺もその意見には賛成なんだけどな。
俺は両親と違って、可愛い妹をないがしろにするつもりはないし、むしろ積極的に手伝ってあげたいと思っている。なので、今年は去年よりも気合を入れて、隅々まで掃除しようと考えていた。
まずは窓拭きからだ。
この作業が一番大変だと思うが、だからこそやりがいがあるというものだろう。
早速、雑巾を片手にガラス戸の前に立つ。
すると、不意に後ろから声を掛けられた。
「お兄ちゃん、がんばってね!」
振り向くと、そこには妹の笑顔があった。
「ああ、任せろ」
「うんっ! 応援してるからね!」
妹がそう言うと、パタパタと足音を立ててどこかへ行ってしまった。きっと自分の部屋に戻ったのだろう。
「……よし、やるか」
俺は気合いを入れ直すと、目の前のガラス戸に集中することにした。
そして、いざガラスの汚れを落とそうと手を伸ばした時、またしても背後から声がかかった。
「あ、お兄ちゃん、まってー」
今度はなんだ? そう思って振り返ると、そこには小さな箱を持った妹の姿があった。
「どうした?」
「あのね、これあげる」
そう言って差し出された箱の中身を見て、思わず目が点になった。
なぜなら、そこにあったのは、綺麗にラッピングされたチョコレートだったからだ。
「これは……」
「えへへ、お兄ちゃん、いつもありがとう」
照れくさそうに笑う妹を前に、俺は言葉が出なかった。
まさか、こんなサプライズを用意してくれていたなんて……。
俺は感動のあまり、目頭が熱くなるのを感じた。
「お、お前ってやつは……!」
「え、ど、どうしたの!?」
感極まった俺は、思わず妹を抱きしめていた。
「ありがとな……! お兄ちゃん、嬉しいぞ……!」
「も、もう、お兄ちゃんったら、おおげさだよ~」
口ではそう言いつつも、まんざらでもない様子で俺に体を預けてくる妹。
そんな妹の頭を優しく撫でながら、俺は心の中で呟いた。
(来年もまた、こうして一緒に過ごせますように)
そう願いつつ、今年の大掃除は終わったのだった。