【私小説】閉鎖の真冬 第1話

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 二〇二〇年十二月二一日から二〇二一年三月十八日まで、僕は、とある病院に入院していた。

 それは第三次TK革命と、少なくとも、そう僕は名付けていた。

 その事情は、過去も未来も書き換えるものであり、誰にも認識できない領域の話になる。

 きっと、これは誰からも認識されない、僕だけの物語なのだ。

 ここから先は、ある未来で形成された人生そのものである。

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 ――二〇二〇年十二月十一日。

 僕は有期の契約社員として五年間、ある会社で働いていたのである。

 総務関係の事務の仕事をしていた。ほぼ変わらない給料で。

 もう二十九歳なのに、まだ彼女ができないDTである僕は、街ぐるみの合コン的なイベントに、そこそこ参加をしているにも関わらず彼女ができない現状を埋めることができなかったのである。

 だから、四・五年目の冬の時期におこなわれていた正社員登用試験に合格し、かわいい彼女をゲットしようと心がけていたのだが――。

「――正社員登用を見送らせていただきました!!!!」

 ……と、むっちゃ笑顔で叫ぶ部長の顔をぶん殴ろうかと思ったけど、小心者の僕のことだから、結局なにもできなかったのである。

 で、新型コロナウイルスが発生している世の中だから「一週間、在宅勤務をやっていこうと思います!!!!」と課長に言って在宅勤務用PCを借りてサボろうと考えたのだが、どうして、あんなことになったのか……?

 すべては僕が仕組んだ(とは大げさだなあ……)ある計画が実行されてしまったのだ。

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 ――二〇二〇年十二月十一日(金)から二〇二〇年十二月十四日(月)までの間に眠れた時間は六時間だった。それしか眠れなかったのである。

 僕は発達障害に加え、二次障害として統合失調症、さらに適応障害が加わってしまい、気持ち悪いくらいにツイッターで会社の愚痴を書き込んでいたのだ。

 最終的には、大学時代の友人とつながることができたので、ツイッターで「バイバイ」宣言して、もう二度と戻らない覚悟でツイッターを「さようなら」した。「三浦るぴん@さようなら」というハンドルネームにして。

 そして、二〇二〇年十二月十二日あたりにスマホの画面が故障するものだから、なんてタイミングが悪い……会社の社員との連絡は在宅勤務用PCだけになってしまった。

 携帯ショップに行くも、店員さんが「データが初期化されます」と言うものだから、僕は「直すのをやめます」と言ってショップを出た。

 もう、やるしかなかった。

 その計画は、たまたま、うまくいっていたんだ……たぶん、おそらく、きっと。

 僕は、あの会社に対する相談を、ある方に相談していた。

 そのときの、ある方が、こんなアドバイスをくれた。

『もっと会社の方たちとコミュニケーションを取ればいいんじゃない?』

 僕は、それを素直に実行しただけだったんだ。

 ――二〇二〇年十二月十四日……午前九時。

 在宅勤務用のPCを使って、会社の方たちとコミュニケーション(文字通り)をおこなおうとした。会社のメールを使って、ちゃんとコミュニケーション(本当に文字通り)しようとした。

『総務部各位、本当にお疲れ様でした!!!! おはようございます。カミツキです。今の事情を詳しく、このメールに記載させていただこうと思います。現在、僕の体は親指と人差し指が殴ったダメージで黒色に変色しており、うまくキーボード操作をすることができません。もっと言うと右脚も蹴ったダメージで痛いです。さらに詳しく書くと金曜日から月曜日の間に寝た時間は六時間です。この状態で一日、仕事をさせていただきますので、よろしくお願いします』

 すると、直属の課長が『病院へ行ったほうがいいと思われますが、大丈夫ですか?』を含む長文のメールをしてくれるものだから、僕は『いいえ。このまま仕事をしていきたいと思いますので、よろしくお願いします』と返信して、ひたすら鳴り続ける画面の壊れたスマホの電源を切り、ベッドへ放り込んでやったのだ。

 そして三時間後の正午に在宅勤務用PCが使えなくなったので、すぐ父にメールで連絡した。

『六時間しか眠れてない!!!! 早くしろ!!!! 死ぬぞ!!!!』

『わかりました。今すぐアパートへ向かいます』

 父は直属の課長に連絡する。

「……ええ。なにやら会社の方たちに謝りたいと言っているのですが……」

 そのあと、僕は両親のマンションへ行き、十四日の二十三時まで寝た。

 ツイッターを見る。

 荒れていた。

 まるで僕が、やったことがインターネット上に伝播したような……気が、したんだ。

 これが、僕の……第三次TK革命の始まりだったんだ。

 このツイッターでの出来事から、僕の日常は変わっていったんだ……。

 はあ、やれやれ……なぜ、こんなことになってしまったのだろう……それは、誰にも理解できないだろうな(汗)。

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 私小説『神の音』を書き始めたのは、二回目の入院――第二次TK革命がおこなわれたとき――のころだった。

 まあ、あのころは、目と耳で感じていた幻を本当に、そうだと、信じていたから、誰かに知ってもらおうと、共感してくれる誰かを探していたんだ。

 病気が回復しないまま、ある賞に応募して一次選考を、ある基準――アクセス数――で突破したわけだけど、二次選考で落とされてしまった。

 そのときに書かれたレビューの中には、この話に共感してくれる人もいたけど、それでも、あらゆる方々に否定的な意見をもらったりした。

『この小説は統合失調症を煩《わずら》っている方々をバカにしています。これでは特性者の方々が健常者に誤解されてしまいますよ。本当に、その病気と闘っている人が誤解されるようなことはしないほうがいい。ですから、くれぐれも気をつけてください』

 そのときの僕は気づかなかったんだ。

 統合失調症を発症した者が、どれだけ統合失調症での出来事が真実であると訴えようが、それに、なんの意味もないということを。

 それが統合失調症を発症した者の運命《さだめ》。

 自己の脳の矛盾に気づくことができない僕は、今も孤独な人生を歩むしかないのだ。

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 最初に応募した賞のあったサイトが閉鎖されたので、別のサイトにも投稿することにした。

 そのときのタイトルは『僕は普通になりたい』だった。

 ある小説家の方々にレビューをいただいたけど、やっぱり否定的な意見が目立った。

『これが、あなたの本気ですか? 一から書き直したほうがいいと思いますけど?』

 端的に説明すると、そんな内容――括弧内のセリフ――になるのだが、まあ、病みに病んだ。

 これが、ある同人小説サークルに入ったときに歪《ひず》みになることは、このときの僕は気づかなかった。

 で、その同人小説サークルに入ったときの話だけど、それがもう、どの方も作家性のクセが強すぎて……それで、一から書き直した方がいい発言をしてしまったのだ。

 その同人小説サークルの方々の小説を書き直したほうがいいと言ってしまった!

 若気の至りである。

 まあ、同人小説サークルの方々には、ものすごく迷惑をかけてしまったわけだ。

 今でも、痛いくらいに後悔している。

 その方々と、どう付き合えばいいのかは、今の自分も、よくわからない。

 その後悔だけは、僕の中にある……だけ。

 だから過去は戻ってこないのだ。

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 また、ある小説投稿サイトが作成されたので、またタイトルを変えて投稿。

『僕は普通になれない ~ある病人の手記~』だ。

 脳の病のコンテストが開催されており、ちょっとアレンジして投稿した。

 だって、この小説は一応「フィクション」という形で投稿しているから……フィクションということにしないと「サベツダー」「ジンケンモンダイガー」ということを言い出す方々が現れてしまうから、名目上のフィクションである、ということにしなければいけない。

 なので、フィクションとして処理しなければいけないから、そう、ごまかさなければいけないのだ。

 どこからが嘘で、どこからが本当かは、作者である三浦るぴん――カミツキ・タケルだけが知っている。「信頼できない語り手」というやつだ。

 すべてが真実である、というわけでもないが、僕の目の前で起こったことは、間違いなく僕だけの真実であるのだ。

 誰も気づいていない……悲しい具合に。

 そして、原点回帰して、最も有名な小説投稿サイトで『きっと、この恋は実らない。~次元を超えた彼女たちとの出会い~』を投稿したのであった。

 めでたし、めでたし……でもなく、現状の話をすると、なにもないほうが幸せだったのかもね。

 首都で新型コロナウイルスが発生して、しばらくしたあと……僕は第三次TK革命をおこなってしまったんだ。

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 皆さんはサンエーさんを知っているだろうか?

 ある小説投稿サイトで名レビューを数々のネット小説に対してコメントを残し、とにかく褒《ほ》め殺《ごろ》す……そんな人物がいた。

 彼は、ある小説投稿サイトで、ある女性に恋し、告白して、成功した、いわゆるリア充であった。

 僕にも、ある女性を紹介してくれたのだけど、あまりにも相性が悪かったので自然消滅した(……?)のだ。

 その、サンエーさんという方には、僕のオリジナル――オマージュも多いけどね――小説をPDF化して送って音声でレビューしてもらったりした、のだ。

 でも、サンエーさんの知人である、シムゾーさんと僕の仲がこじれたのがきっかけで、今は疎遠になってしまったんだ。

 だから、今は縁がないけど、いつか、また仲良くなれたらいいなと思っていたんだ。

 たった、それだけのことだったんだ。

 なのに、この現実は、なにも変化しない。

 ただ、誰も知らない世界で生きている。

 それだけのことなんだよ……って、少なくとも今の僕は思っている。

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