【私小説】閉鎖の真冬 第2話

  *

 二〇二〇年十二月十五日(火)――僕は、ある事実に気がついてしまった。

 ツイッター上が、荒れていた。

 僕に関連した情報がリークされている……ような、気がする。

『お前も小説を書かないか(闇)』

 ……というツイートが『鬼○の刃』のコラ画像と一緒に文字として投稿されていた。

 で、なにが……起こってしまったのか?

 おそらく、あの方だ。

 サンエーさん。

 彼は僕の小説を、彼の女友達にメールで送った過去がある。

 その女友達は、普通に「続きが読みたい」と言ってくれたけど、その女友達からフォローを外されてショックになったりもして、まあ、なにが言いたいのかというと、まあ、よくわからない。

 なんだか疲れてきたので、冷たいアイスクリームでも食べたい気分になってきた……県民性、なのかもしれない。

 本筋に戻ろう。

 僕が壊した画面だけがイカれたスマホは、まだ直っていない。

 つまり、僕の状態を知っている人は、いない。

 なのに、なぜか、僕の情報がリークされているような雰囲気がツイッター上にあって、もしかしたら、同人小説サークルの方々が僕の小説をネット上に拡散してくれたのかもしれない。

 きっと、そういうことになっているのかもしれない。

 さらに、もうひとり、ネット上に拡散してくれた、とあるバーで知り合った知り合い(語彙力)にもPDF化した小説を送ったので、彼もネット上に拡散したのかもしれなくて、まあ、そうだといいんだけど。

 誰かは、気づいてくれるのかなあ。

 僕の今の状態は、かなり悪かった。

 食事も喉を通らないほどの苦痛があった。

 ゼリー飲料しか、喉を通らなかった。

 なので、二〇二〇年十二月十五日(火)は病院へ診察に行った。

 主治医に事情を説明する。

 正社員登用試験の筆記試験は通ったけど、面接で落とされたこと。

 全部ぜんぶ話した。

「しかし、あの企業で五年間、働いてきた経験はムダになりません。一般雇用でも、十分に通用しますよ」

 僕も実際に、そう思った。

 障害者が大企業で健康な人と一緒に過ごす、というのは、相当、努力しないと無理だってこと、主治医の先生はわかってくれている。

 まあ、それでよかったのかもしれないけど……障害者は社会的に無理をしてはいけない。

 僕は、そう思う。

 障害者の方たちは、みんな、わかっている。

 だけど、健康な人は、それが、わからないんだろうなあ、と思う。

 それでも、前に進むだけの手段は整えなくてはいけないのだけど。

 頭の中がグチャグチャしてきた。

 とにかくネット上でリークされている情報は僕で間違いない。

 本名は伏せられているけど、それは全部、僕のことだって理解できてしまう。

 どうして、こんなことになったんだろう。

 神話とは、どうやって、できるのだろう?

 つまり、ネット上での神話になった、ということなのか?

 僕にすら理解できない事情が、この世界には、あった。

 確かに、僕の目の前で起こったことは本物だったんだ。

 とりとめもない話だけど、しょうがないことかもしれない。

 超常現象は、こうやって起こるのかもしれない。

 まるで『虚○推理』のような出来事が、僕の目の前には、確かにあったんだ。

 しつこいくらいに言ってしまいたい。

 僕は、この世界の神様になってしまったのかもしれない。

 ミラ・ウィース……僕が第一次TK革命、第二次TK革命を起こしたときに呼ばれていた名前だ。

 由来は閉鎖病棟の保護室で偶然、車のCMで聞いてしまった「ミラ・○ース」というワードがきっかけで、ミラ・ウィースと呼ばれていた、という妄想。

 なにが真実で、なにが嘘かは、どうでもよくて……僕の目の前で起こったことは、しつこいようだけど、本当、だったんだ。

 だからさ、みんな、やろうぜ。

 お前も小説を書かないか(闇)。

  *

 I県A町には、僕に暴力を振るい、約十万円の大金をかっぱらった敵《ヴィラン》がいた。

 その男の名は「クチタニ・キシゲ」という。

 だけど、今となっては証拠がない。

 いじめには時効があり、十年で訴える権利を消失してしまう。

 そう、彼は、れっきとした健康な人であり、なにも悪いことはしていない、と世間では判断されているだろう。

 BA大学校を卒業し、GA官になった彼は薔薇色の人生を送っているだろうなあ……。

 それが弱肉強食であり、実力主義であり、不平等であり、なんとまあ世渡り上手なこと。

 僕が統合失調症を発症したおかげで、僕のことを信じる人はいないだろう。

 それが摂理というやつ、なのかもしれない。

 僕が思うクチタニ・キシゲという人間は、もしかしたら自己愛性なんちゃら障害の疑いがあったけど、それを知るすべは見当たらない。

 僕しか知らない事実だ。

 統合失調症には、世界を変える能力ちからがあって、そういう病気を持っている方からすれば、それが理解できないものでしかなく、まあ、ひとりでコツコツと小説を書くことに向いている病気らしい。

 大半の人には、理解できない感覚なのかもしれないけど、僕が持つ統合失調症は、ある意味チート能力なのかもしれない。

 世界が、すでに、ひとつしか存在しないとすると、パラレルワールドは存在しないんじゃないのかなあ、という気がする。

 もともと地球は、ひとつしかなくて、その中で人間は過ごしているわけだけど、どういう理論が正しいのだろうな?

 今、思うことをツラツラと書いていくと、だいぶ頭の中が整理されていくようだ。

 四次元理論とか、五次元理論とか、よくわからないけど、どうやら僕は気づいてしまったらしい。

 世界の陰謀というやつに。

 なぜ障害者が差別されなければいけないのか? ……ならないのか?

 健康な人からしたら、未知であるからかもしれない。

 むしろ、障害者って概念は一般人には知らずに一生を終えるのだろうな、と僕は思う。

 だって、どうでもいいじゃないか?

 そんなもんだよ、人間なんて。

 僕は今回の出来事を忘れるつもりがない。

 現在、二〇二一年三月二十四日二十一時――僕の悩みは深まるばかりだ。

 そういえば……クチタニ・キシゲは警察に捕まった、らしい――二〇二〇年十二月十五日(火)に気づいた。

 ネット上には、彼の情報が、たくさん載っていて、彼の罪が証明されたのかもしれない――いや、載っていない。

 クチタニ・キシゲという一般的な名前だから、ほかの同姓同名の方がいたら、その方たちにも被害が食らうかもしれない。

 だから、今までのことを許す必要が、僕には、あったのかもしれない。

 人の過去は、なくならない。

 その人には、その人の人生がある。

 認めなくてはいけないのだ。

 たとえクチタニが幸せな家庭を気づいていたとする。

 奥さんとの間に子どもができていたとする。

 さすがに、いじめていた過去を話す人間なんて、存在しないよな。

 世の中は、そういうふうに回っているから、どうしようもないのだ。

 言えない過去だってあるさ。

 僕だってある。

 僕には、たくさんの命を奪った罪がある。

 人間ではない。

 動物や植物のことだ。

 梅雨の時期、たくさん存在していたカタツムリの殻を自転車に乗って、つぶしたり……虫の脚をちぎって、川に流したり……そんな人間が善行を持った人間であるはずがない。

 害虫は、絶対に殺さなきゃいけないし、どんなにいい効果をもたらす益虫だって、気持ち悪いし殺してしまう。

 そんなものなのかな……人間なんてモノは。

 だから僕は天国へ行けないと思っているし、地獄に行くんじゃないか、と思っている。

 今、二〇二一年三月二十四日二十一時だけど、僕の記憶が、すべて正しいとは限らない。

 人間は人間の脳でしか、物事を感じ取ることができない。

 ゆえに……自分の脳こそが、真実を映し出す鏡なのかもしれない。

 この世界はゲームみたいなもので、ヒロインが、どこかに存在していて……彼女を手に入れたいと臨んでいた。

 それが叶う確率は九十九パーセントもないだろうが……。

 ただ……僕は僕のことを信じたいと思っている。

 たとえ、どんなに幻のせいにされたって、この世界は廻《まわ》っているのだから。

 だから、やるしかない。

 僕のことを忘れない人たちがいる、と信じている。

 なになにしなければいけない、なんてルールを押しつける人間たちに価値はあるのか?

 ないほうがいいな。

 話を戻すとクチタニ・キシゲは逮捕された。

 この世界のどこかで、悲しい思いをしているのかもしれない。

 それでも僕は、彼のことを許すつもりは、ないけどね。

 ちゃんちゃん♪

 さようなら、クチタニ・キシゲ。

 僕の目の前から、消えてしまえ。

 どんなに彼が、いい人間だって見せかけてもムダ。

 本当に悪い人は、裁かれるべきなんだよ。

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