はじめてのキスとエトセトラ(短編小説・前編)
*
彼女と甘いキスがしたい。
だけど、僕は、まだ彼女とキスしたことがない。
僕が告白して、彼女が受け入れてくれて、晴れて恋人になれたのに、彼女はまだ僕にキスをしてくれない。
もしかして、彼女は僕とのキスが嫌なのだろうか?
だから、僕とはキスをしたくないのだろうか?
僕のことが嫌いなのだろうか?
彼女に嫌われているなら、諦めようと思っていた。
だけど、僕はどうしても彼女のことが諦められない。
だから、僕は勇気を出して、彼女からキスをしてくれるようにお願いすることにした。
「ねえ、美雪」
「なあに?」
「ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
「うん、いいよ」
「あのね……実は……」
僕は、緊張しながら、彼女に話を切り出す。
「どうしたの? そんな真剣な顔をして……」
「あの、僕、美雪とキスをしたいんだ」
「えっ!?」
「その、駄目かな?」
「だ、駄目じゃないけど、急にどうしたの?」
「いや、その、付き合っているのに、僕たちはまだ一度もキスをしたことないから、そろそろいいんじゃないかなって思ってさ」
「そ、そうだね。でも、やっぱり恥ずかしいよ……」
「僕も初めてだから、凄く緊張するけど、それでも、僕は美雪とキスをしたい」
「私も和真君とキスをしたいけど、やっぱり、恥ずかしくてできないよ……」
「それなら、僕が先にキスをするから、その後に美雪が僕にキスをしてくれないかな?」
「う、うん、わかった。それならできると思う」
「じゃあ、今から始めるね」
「う、うん」
僕は、そっと目を閉じて、顔をゆっくりと彼女の顔に近づける。
そして、そのまま彼女の唇に僕の唇を重ねた。
柔らかい感触が唇から伝わってくる。
心臓がバクバクと激しく鼓動している。
初めてのキスは、甘くて、とても幸せな味がした。
「ど、どうだったかな?」
「えっと、その、凄くドキドキしたよ」
「僕も同じだよ。凄く幸せだった」
「わ、私も、凄く幸せだったよ」
「じゃあ、もう一回してもいいかな?」
「う、うん、いいよ」
今度は、さっきよりも長い時間、彼女と唇を重ねていた。
「もう終わりにしよう」
「そうだね」
僕と彼女は、名残惜しそうに唇を離す。
「次は、美雪の方からキスをしてほしいな」
「わ、わかったよ」
今度は、彼女が顔を近づけてきて、僕にキスをする。
柔らかくて温かい感触が唇を通して伝わってきた。
彼女の唇はとても心地よかった。
このままずっとキスしていたかったけど、いつまでもそうしているわけにはいかないので、僕は、ゆっくりと唇を離す。
「ありがとう。凄く嬉しかったよ」
「どういたしまして」
これで、ようやく僕たちは恋人同士になれたのだ。
もう絶対に彼女を離さない。
たとえどんなことがあっても、必ず守ってみせる。
僕は、心の中でそう誓う。
「ねえ、和真君」
「何?」
「私、和真君のことが大好き!」
そう言って、彼女は僕に抱きついてきた。
「僕も美雪のことが大好きです」
僕も彼女に優しく抱き返す。
「えへへっ」
彼女は嬉しそうに笑う。
そんな彼女を見ていると、僕も嬉しくなってくる。
こうして、僕と彼女は本当の意味で恋人同士になったのだった。
それから、しばらくの間、お互いに抱き合っていた。
しばらくして、僕は彼女に声をかける。
「あのさ、美雪」
「なあに?」
「もう一度、キスしてもいいかな?」
「うん、いいよ」
僕は、再び彼女にキスをする。
「んっ……」
今度は、先程よりも長く、濃厚な口づけをする。
「んんっ……はぁ……んちゅ……」
お互いの舌が絡み合い、唾液を交換する。
そして、長いキスを終えた後、僕たちは見つめ合う。
「好きだよ、和真君」
「僕も大好きだよ、美雪」
そして、また抱きしめ合ったまま、お互いの顔を見つめ合っていた。
その時、部屋の外から足音が聞こえてきた。
誰かが廊下を歩いているようだ。
その音を聞いた瞬間、僕と彼女は慌てて離れる。
どうやら、誰かがこの部屋に入ってこようとしているらしい。
このままだとまずいと思い、急いでベッドの中に潜り込む。
すると、ドアが開いて誰かが入ってきた。
それは、妹の葵だった。
「あれ? お兄ちゃんたち、こんな所で何をしているの?」
「べ、別に何もしていないぞ」
「ふーん、そうなんだ」
妹は何かを察したらしくニヤニヤと笑う。
「まあ、いいけどね。私はこれから出かけるから、戸締りをしっかりしてお留守番していてね」
「ああ、わかった」
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
妹が部屋を出て行った後、僕はホッと胸を撫で下ろす。
「危なかったね」
「そうだね」
もし、あのままドアを開けられていたら、確実にアウトだっただろう。
いや、むしろ今のこの状況の方がよっぽど危ないかもしれない。なぜなら、今、僕たちがいる場所はベッドの上だからだ。そんな状態で見つかったりしたら大変なことになっていただろう。
「ねえ、和真君」
「何?」
「続きをしようか……」
「えっ!?」
彼女は頬を赤く染めながら、恥ずかしそうに言う。
まさか、彼女の方から誘ってくるとは思わなかった。
でも、せっかくだから僕も彼女としたいと思っていたので、断る理由なんてない。
「うん、いいよ」
そして、僕は彼女にキスをする。
今度はさっきよりも激しく舌を絡ませる。
彼女の口から甘い吐息が漏れる。
それがとても艶めかしくて興奮してしまう。
僕たちはそのまま何度も唇を重ねた。
その後も何度も何度もキスを続けた。
もう何回キスをしたのか覚えていないくらいたくさんキスをしたと思う。
きっと今まで生きてきた中で一番の幸せな時間だと思う。
これからもずっと彼女と一緒にいたいと思った。
だけど、今はとりあえず、彼女とのキスを楽しもう。
「ねえ、美雪」
「なあに?」
「愛してるよ」
「私も愛しているよ」
そうして、僕と彼女は飽きることなく長い間、お互いに求め続けていたのだった。