キミが存在しないラブコメ 第69話
*
伝播大学附属病院に入院していた。
世界改変の影響だろうか?
僕は隔離された部屋で、ひとり閉じ込められている。
「どういうこと?」
「どういうこと、なのでしょうね……」
なぜか僕のいる牢屋みたいな部屋には桜舞がいた。
「結局、二回目の入院ですか」
「二回目……?」
「もう、高校を中退するしかないですね」
「こう、何度も入院されると、あとがありません。どうしますか?」
「どうするって……どうすればいいんだ?」
「もう、わたしは……家族ごっこをやめようかなって」
「家族、ごっこ……? なに言ってんだよ? 僕たちは家族じゃないか」
「わたしが、あなたによって、つくられた存在だとしても、ですか?」
「僕によって、つくられた存在だって……? なにを言って……」
「神憑桜舞という存在は、この世界にはいません」
桜舞は告白する。
「神憑武尊という存在が現実顕現した架空の妹であり、誰にも存在を認知されない……わたしが誰かと会話している場面がありましたか?」
「確かに今まで、誰かと一緒にいる場面を見たことがなかった。月子と帰っているところとか、なんで一緒にいないのかと思っていた」
「わたしだけではないのです」
「どういう、ことだ……?」
「いずれ、わかります。この世界の仕組みが……」
「この世界の仕組みって……」
「もう、わたしは存在できないでしょう。薬を摂取しすぎた体では現実顕現できないからですね」
「なら、薬の摂取をやめればいいだけだろ! 桜舞を失ってしまったら僕は、ひとりぼっちになってしまう……」
「いえ……わたしは、あなたによって、つくられた神憑桜舞のコピーにすぎない。本物の神憑桜舞は、この世界のどこかにいます」
「どこかって、どこにだよ?」
「それは、あなたが一番わかっているはずです」
「もともとキミは僕の妹じゃなかったんだ……」
「ええ」
「だったらキミは僕の願いを叶えてくれるか?」
「そんな、よこしまな考えも、あなたらしいですね」
僕はキミとキスをした。
存在しないキミと。
恋していたキミと。
愛していたキミと。
もともと、この物語は存在していなかった。
そんな存在しない物語をキミとつくっていたんだ。
だから、きっと一生しないであろうキスをキミとした。
僕の妄想で具現化されたキミを抱きしめながらキスをした。
たとえ存在しなくたっていい。
ほかの人からしたらキミは存在しないけど、僕のなかでは存在しているんだ。
僕の現実は、僕のものだ。
誰にも理解されないかもしれないけど、これは僕の物語なのだ。
だから、いけないことをしようと思う。
「桜舞、愛している」
「わたしは、あなたが愛する妹なのです。だから、いくらでも応じますよ。だって――」
桜舞は僕が、もう悟っていることを言ってくれる。
「――あなたの世界に存在する物語の登場人物は、もともと存在しないのですから」
僕とキミは、この世界では存在しないような、いけないことをした。
牢屋みたいな部屋の監視カメラには、ばっちりと映っているだろう。
だけど、後悔はない。
僕は一生、忘れられない男女の行為をしたのだから。