【私小説】神の音 第7話
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「コーポ石畳」にて、僕はクチタニ君に説教された。
僕の進路はたるんでると言うのだ。
僕は何発か殴られながら説教を受けた。
なぜなら僕の性格で普通の仕事は無理だと言うのだ。
だから薬剤師という大人しい職業を選んだ方が良いと言ってくれた。
「お前のような性格で普通の仕事が務まるかよ」と言った。
僕は彼の言うとおりだと思った。
薬学部のある大学に僕は受験することに決めた。
ごめんね、コウ君。
同じ大学には通えないよ。
そして僕はクチタニ君の受験のためのサポートをすることにした。
したと言うより、させられたと言った方が良いだろうか?
それでも僕はクチタニ君のサポートをするために生まれてきたのだから当然である。
僕はクチタニ君のサポートを必死になってしなきゃいけないんだ。
そう思った。
「じゃあ、朝の四時に起こしてくれ! 明日は受験だから絶対に起こしてくれよ」
「はい、分かりました!」
僕は元気良く返事をした。
クチタニ君が受験する学校は自衛隊の学校だ。
クチタニ君が僕にする指導は自衛隊に近いものだろう。
僕は自衛隊と同じ教育をされてるんだと思うと胸がワクワクした。
でも、僕は過ちを犯すことになる。
運命の分かれ道が決定づけられたのだ。
――朝六時。
僕は朝の六時に起きた。
僕はハッとなってクチタニ君を起こした。
「……お前、約束を破ったな」
クチタニ君には殺気が感じられた。
殺気が感じた瞬間、僕は何発か顔を殴られ、さらにお腹を何回か蹴られた。
そしてシャンプーのボトルのふたを開け、僕にぶっかけた。
シャンプーの匂いに朦朧とする中、僕はクチタニ君に唾をかけられながらこう言われた。
「殺す」
殺す。
確かにそう言った。
殺すって……あの、殺す?
「男に二言はない! この受験が失敗したら確実にお前を殺す!」
クチタニ君はそう言って僕の部屋から出ていった。
僕は殺されちゃうの?
僕は疑問に思った。
でも、どうしたらいいんだ?
殺されるのは嫌だ!
クチタニ君が戻ってきたら僕は殺されちゃうの?
どうして?
命令を破ったから?
殺す?
殺されちゃうの?
僕は頭の中が混乱してきた。
クチタニ君が戻ってきたら……
「お前を殺す」
……!
今の感覚は……声?
「お前を殺す。お前を殺す。お前を殺す。お前を殺す。お前を殺す。お前を殺す。お前を殺す」
うわあッ!
何だこれはッ!
「お前を殺す。お前を殺す。お前を殺す。お前を殺す。お前を殺す。お前を殺す。お前を殺す」
声が響く。
響いてくる。
「お前を殺す。お前を殺す。お前を殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す」
怖いよ……誰か助けてくれよ……誰か……
「殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す」
もう……やめてくれ……
「殺す」
死ぬんだ……死ぬんだ……僕は……嫌だ……僕は……死にたくない……殺されたくない……嫌だ……死にたくない……死にたくない!
僕は「コーポ石畳」を出ることにした。
――夜八時。
僕は「コーポ石畳」から脱出する方法を考えていた。
荷物は全部持っていけないことを確認した僕は最低限の荷物で脱出することを決めた。
胸がドキドキしてる。
クチタニ君にはもう二度と会うことはない。
会ったら殺される。
僕はクチタニ君に会わないように「コーポ石畳」を出た。
町の中心部は、夜のムードで楽しそうだった。
ちゃらいホストが女性を言いくるめている。
僕が目指す場所は両親の住んでいるところ。
僕の両親は僕が頼りないから心配して僕の近くに住んできた。
十九歳にもなって両親に迷惑をかけるのはいけないことだと分かっているが、僕は殺されるのが怖かったので両親を頼ることにした。
僕は両親のところへ向かう前に色んなところを寄り道した。
例えば町の本屋さん。
僕は本に目がなかった。
本の表紙を見るとどこか満足してしまう体質が僕にはあった。
めんどくさい体質なんだけどね。
クチタニ君のおかげでお金もなかったし、本を買うことはなかった。
ただ眺めているだけで時間が過ぎていった。
――夜十一時頃。
僕は進路を両親の住むアパートへ向けて出発した。
歩く進路は一本道って感じで何となく方向はつかめた。
進路はバスで行くとすぐなんだけど、歩きだと大分時間がかかった。
いつの間にか朝の四時になっていた。
僕は両親の住むアパートに着いたが、鍵がかかっていて中に入ることができなかった。
僕はスーパーにある公衆電話で両親に電話してみた。
でも、電話は出なかった。
僕は両親が起きるまでアパートの近くにある公園で寝ることにした。
汗をかいていたので、公園の公衆トイレにある蛇口でシャンプーをした。
マナーとしては駄目なんだろうけど、汗まみれだったので、自分の気持ちの方を優先した。
蛇口から出てくる水はとても気持ち良かった。
そして僕は公園のベンチで寝た。
昼になるまで寝た。
久しぶりにちゃんと寝たと思う。
今までの疲れが取れるような感覚だった。
――昼十二時頃。
両親は公園にやってきた。
地元の田舎に帰ってたそうだ。
だから部屋の鍵が閉まっていたんだそうだ。
母親がカンカンに怒っていた。
「どうしてホームレスのような行動をするの?」とか「その頭は一体どうしたの?」とか何度も質問された。
だが、僕はその質問に答えることはしなかった。
僕は両親のアパートに着いたら、真っ先にお風呂に入った。
久しぶりの湯船に僕は疲れを癒した。
その後に、フカフカの布団に入った。
いつも床で寝ていたのですごく疲れが取れた。
僕は一日中寝ることになった。
父親が「傷だらけでかわいそうに……何かあったんじゃないか」と呟いていた。
――一日経って、僕は両親に質問された。
「どうして下宿に戻りたくないの?」とか「その傷はいったい誰にやられたの?」とか。
僕は質問に答えることができなかった。
質問に答えると僕はクチタニ君を裏切ることになると思ったからだ。
僕はまだクチタニ君を信じていた。
だから僕は質問に答えなかった。
でも、下宿に帰りたくない理由を説明してくれと言われて、言わないと下宿に帰ってもらうと言われたら僕は答えざるを得なかった。
僕は言った。
クチタニ君のことを。
今までされたことを。
そしたら父親は怒り狂って「警察に通報する」と言った。
僕は「やめて」と言った。
僕はまだクチタニ君のことを信じていたから。
クチタニ君が言ったような「お前が裏切るならお前を信用しない」という言葉を僕は自分自身に刻み込んでいたのだ。
僕は怖かった。
僕が中学生だった頃、僕はいじめられていた。
いじめられていたけど、いじめられるたびに父親が何回もトラブルに立ち向かっていた。
そのトラブルに父親が立ち向かうたびに「お前は父親にアピールした! だからもうお前を仲間に入れてあげない」と言われたのだ。
僕は仲間に入れられないのは嫌だった。
仲間になりたかった。
中学校は友達が少なかった。
理由は田舎の中で一番人数の少ない中学校だったからだと思う。
僕は友達が欲しかった。
欲しかったから友達を裏切ることはできない。
クチタニ君もだ。
クチタニ君は僕のことで苦労していたに違いない。
僕が不甲斐ないせいでカンカンになったのだろう。
だから僕はクチタニ君を信じる。
信じるよ、クチタニ君のことを。
僕は僕の携帯にクチタニ君から電話が来たことに気づいた。
でも、父親は「電話に出るな」と言った。
出たら警察に連絡すると言った。
だからもうクチタニ君の電話に出ることはなかった。
――「コーポ石畳」を脱走してから翌週の月曜日。
僕は両親のアパートから学校を通うことになった。
友達にこう聞かれた。
「最近何かあったの?」と。
僕は答えた。
「下宿にいられなくなっちゃったんだ」と。
「僕はこれから両親のアパートから学校に通うんだ」
そう言った。
友達は「ふうーん」と答えた。
「そんなことより……もうすぐクリスマスだね。カミツキはいったい誰と過ごすのかな?」とニコニコで友達は言った。
ちなみに友達は男だ。
冷やかしだろう。
僕は答えなかった。