父親になったあと娘にプロポーズされた(短編小説)

プロポーズとは祈りであると父親になった俺は思う。

祈ることで相手と添い遂げる儀式みたいなものだ。

だけど、それが親子の間で成立することはあるのか?

答えは否だ。

そう、たとえ血のつながっていない親子だったとしても……だ。

娘は十八歳になった。

まだ感覚的には早いと言えるかもしれないが、大人であると言える年齢であろう。

だから彼氏のひとりくらい、つくっていたっておかしくないはずなのだが、そんな話を聞いたことがない。

むしろ、娘は俺の身の回りの世話ばかりする。

きっと気を遣っているのだろう。

なにせ娘は物心つく前から本当の両親を事故で亡くしている。

彼女の親族は誰も彼も彼女を引き取ろうとしなかった。

だから、彼女の両親の葬儀に出ていた俺が引き取ったのだ。

通っていた大学を中退して、なんとか仕事を見つけて、みっちりと働き出した。

もちろん恋愛なんてしている暇なんてない。

とにかく仕事をして、せめて娘が高校まで通学できるようなお金を稼がなくてはいけない。

そうやって十年の時が流れたのだ。

まあ、十年も働いたら娘を大学へ通学させることができるくらいのお金ができているものだ。

きっと娘は大学へ行きたいというはずである。

そう思って「大事な話があります」と言った娘に対して、なにかしらのイベントを期待していたのだが。

「…………私と結婚してください」

「…………はい?」

「私も、これから働きます。だから、本当の意味で家族になりたいです」

「なにを言ってるんだ? 俺たちは家族だろ?」

「私が今まで、あなたのことを父親だと言ったことがありますか?」

…………ない。

断じて、ない。

そういえば、どうして俺のことを「父さん」と言わなかったのが不思議だった。

もしかして十年間、ずっと、俺に対する想いを秘めていた、ということなのか?

「もう、あなたが無理して父親にならなくてもいいのです。だから、家族になりましょう」

そうは言っても、なあ……確かに俺は生まれてから恋愛経験がないのだが、娘は違う気がする。

血がつながっていなくても、それはありえない。

「俺は、父親として……」

「誰とも色恋沙汰がない男性が父親になれますか?」

「うっ」

「でも、確かに父親的存在ではありましたよ。私の前ではね。だから――」

娘は決意の瞳で。

「改めて、家族になりましょう……あなた」

あなた、という、その台詞が、娘とは、なにか違うものを感じてしまう俺だった。

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