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老いることは素朴になること ー山本容子 #読めば自然と力が抜ける話

山本さんは現在70歳を超える芸術家。

ですが60代も半ばになった頃、芸術活動が思い通りにできないことが増えてきました。

病院の壁や天井をキャンバスに、大きなアートを描き上げる「アートインホスピタル」は、人生で大切にしてきたライフワークでした。

ですが、足場に乗って描いてまた降りて・・・と作業がとても大変です。足元がグラグラすることが増え、だんだんと怖い気持ちが強くなってきました。

もう若くはないし、転んで骨折でもしたら大変なことになってしまう。

当たり前だけど、やっぱり老いと共に身体能力は落ちてきている。
自分の母や、周りの先輩たちが少しずつ力を無くしていく姿をみてきて、あぁ、自分もこうやって老いていくのかな。
と少し寂しい気持ちになってしまいました。


そんな頃にコロナが流行し始めました。

山本さんはコロナをきっかけに、体力的に辛くなってきた製作現場からは退き、別荘を持っていた那須へ拠点を移すことに決めました。

東京を離れるのに寂しい気持ちが無かったわけがありません。そして、これから先の自分にどんな活動ができるのかと、不安な気持ちが押し寄せてきました。

そんな山本さんの不安を知ってか、那須の土地はあたたかく山本さんを迎えてくれました。

家は森の中にあり自然が近く、馬や愛犬など動物たちと触れ合う時間が増えていきました。

「こんなに長い時間、自然と向き合うのは私、初めてだったかもしれません。
じーっとぼーっと、仕事もしないでベランダに座って、本を読んだり音楽を聞いたりしながら森を見ていたら、いろいろなことに気がつくわけです。
毎日、日は昇り日は沈み、しょっちゅう風が吹いて、日々が過ぎていく。季節とともに緑の葉が色を変え、葉が落ちて枯れ枝ばかりになり、そこに雪が降る。やがて芽生えて新緑となり、こんもりと葉が繁る。

あたりまえなんですけどね。そういうことに気がついた私は、以前の私とは確実に何かが違うの

山本さんの心を癒やしたのは自然の力でした。塞いでいた気持ちが少しずつ晴れ始めました。

「老いるということは素朴になっていくということかもしれない」

森の中で季節の移り変わりに身を委ねる中で、山本さんは老いも人生における変化の一つなのだかもしれないと思うようになっていきました。

そのときの気持ちはとても心地が良く、これから新しい自分と出会うような感覚ですらありました。

そんな心の変化は芸術活動にも現れはじめました。

「なんだか最近、妙に子ども時代のこととか、昔の自分を思い出すことがあるんです。」

「色をすごく使いだしているんです、強い色を。」

ワクワクした表情でそう話す山本さんは、作品を作るときにクレパスを使うようになったと話します。

子どもの頃に使っていたクレパスです。

クレパスはまるで、老いを受け入れた山本さんに、新たなインスピレーションとして降ってきた様でした。

「子どもの頃の感性を取り入れることで何かまた別のものが生まれるのかもしれない。そういう自分に期待しているわよね。これはもう、勘ですけどね。

そう言って、変化の時期を創意工夫で楽しむ山本さんなのでした。


参照:【山本容子さん・インタビュー前編】 「カントリーライフ」から生まれる視点  WEB eclat「70歳、ゴルフ場で暮らし始めた山本容子さん」OurAge


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