Ingressの ストーリーと 私たちとデスゲーム
バックストーリーには、ナラティブ マネージメントという言葉が出てくる。Ingressはただのゲームなのだ、と市民に対して偽装するNIAの企ての話だ。
最近ちょくちょく耳にするようになってきた「ナラティブ」。
と言ってもガンダムではない。
ふさわしい日本語訳がないために「物語」と訳されているが、ストーリーとナラティブは少し違うんだそうだ。
ナラティブって何なのか調べてもよくわからない。作家により提供される終わりのある物語ではなく、より個人的な、主人公である語り手が自分自身である、体験型の物語らしい。(お暇があったら「ストーリーとナラティブ 違い」などでググってみてほしい。)
具体例として「ストーリー」はホラー映画を見ることで、「ナラティブ」はお化け屋敷に入ることだという。ナラティブとは、見る本人がその現場をウォークスルーする感じだろうか。
では、Ingressはストーリーか。ナラティブか。
「バックストーリー」というだけに、古くはG+、そして今はyoutubeやIngress Forumsで語られている物語は、XM世界の背景を見せてくれる「ストーリー」と言えるだろう。
アノマリー会場にはリアルで現れるキャラクター。リアルの遺跡発掘や新技術開発のニュースに関連付けられるXMの影。だいたいオリバーのせいで巻き起こる大騒動。
順序だてて整理されるのではなく、散逸したものを一つ一つつなぎ合わせて全体像を明らかにしようとする、非常にわかりにくい形式だけれどストーリーは存在する。
エージェントは映画を見るように、youtubeで語られるキャラクターの思想、意見、活躍を見ることもできる。
ただ問題は、このストーリーに終わりはないし、自分たちの行動で行く末が変化するということ。
アノマリーの結果や、Ingress Forumsでのアンケート。それだけではなく、たまたまその灯台に近かった人がリンク一本切るか切らないか。それによって大筋が変わることだってある。
アノマリーがいい例だろう。世界から集まったエージェントとの飲み会。その絆が次のグローバルシャードで奇跡的な連携をみせて物語の流れが圧倒的に変わることがある。
突端での手に汗握る心理戦。あの手この手で話しかけて敵を足止めしてる隙に、背後で沈む日本列島。あの時ああしていれば、こう動いていれば。
エージェントが現地で流した血と汗と涙、体験は物語としてSitRepが出される。それは世界のXMの歴史にとっても大切な、それ自体がIngressの物語の一部と言える。
つまりIngressはプレイすることそれ自体が体験型(ナラティブ)なストーリーと言えるだろう。
では、エージェントとは何か。
いろんな要素と楽しみ方をしてる方、色々な特技を持った方が集まっているエージェント。だが、なかにはバックストーリーと特に相性のいい人たちが結構いらっしゃる。
芝居に関わっている(いた)人と、TRPGプレイ経験のある方だ。
イングレス はロールプレイングだ。
ロール(役割)をプレイ(演じる)するのがRPGで、僕らも昔はロトの血を引く勇者を演じたり、ポケモンを探す旅に出たり、スネークになったりしていた。
Ingressでは、エージェント名をいくら偽装しようとも、現実世界のイベントにも参加する限りアバター(自分自身)を変えることができない。〇〇太郎という人そのものが、エージェント名という「役名」を持った登場人物を演じる事になる。
厨二病の方も似たようなロールプレイの没頭が出来るのだが、一歩間違えるとただの陰謀論なのがXM世界。
大人のロールプレイが出来る人、TRPG経験のある人こそがより向いているのである。
さらにIngressは、アバターである勇者や騎士に自分を投影する普通のゲームではなく、リアルの自分自身がエージェントを演じるという、ごっこ遊びに近い。(コスプレとはある意味対極だ)
もちろん人によってアプリの攻撃操作が得意だったり、英語が堪能だったり、システム構築が得意だったり。それぞれが配られたカードで戦うしかないゲームだ。
つまり、プレイヤーが自分自身だし、IngressはPlanet Scale RPGなので、ゲームの世界と現実の世界はぴったり重なっている。私がIngressが究極のARゲームであると勝手に考えている原因はこれだ。
何年もスキャナーを開かないで、飲み会ばっかりやってるエージェント。万年レベル8で今月の活動実績がハンケにボロ負けのストーリーばっかり追ってるエージェント。絵を描いたり、漢字を決めたり、かるたしたり、海鮮食ったり、何をしていてもこのゲームの物語に参加することになる。
世界そのものがゲームなのだから、一度XMの存在を認知した人はプレイをやめることが永遠にできない。ログアウトボタンがないのだから。
Ingressはいわば現実をアインクラッドに変えてしまうという恐怖のデスゲームなのだ。
プレイヤーの死は、すなわちリアルの死なのである。
どうかご安全に。
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