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ただ、暮らしたい。それだけ。

 今朝、窓を開けると陽の光がまざったような風が部屋に入ってきて、わあっと心が動いた。こんな何気ない瞬間が、わたしの暮らしの中心にある。

 冒頭から少し暗い話になるが、主婦を始めた頃、社会の役に立てない自分というレッテルを自分に貼り付けたわたしは、その何者でもなさに、無力感に苛まれていた。好きなものを手放して、仕事に全振りしていた私は、辞めてからも前職のことを考え続けていた。

 島育ちの私の地元には大学が無かったため、18歳で家を出て一人暮らしを始めた。大学の寮ではありがたいことに食事が出たし、やりたいことが多すぎた。読書、音楽制作、ライブ、デザインクリエイティブセンターKIITOでのボランティアやゼミ、書店やギャラリーやカフェ巡り、友人と遊んだりバイトしたり。ひとり暮らし最高!と感じる瞬間もあれば、孤独に押し潰されそうになる夜もあった。食生活をおろそかにし、授業中に倒れたこともあった。

社会人になってからも退勤時間は遅く、週6勤務で激務のなか国家試験にも挑んだ。当時住んでいたマンションまでの帰り道、商店街の明かりが消えていく頃、店じまいをするたこ焼き屋さん(初対面)に「タダでええから」と声をかけられ、売れ残ったであろうたこ焼きを貰ったこともあった。相当、疲れた顔をしていたのだと思う。そのたこ焼きを頬張り、自分のなかにあるいちばん生身の弱い部分から涙がこぼれたりした。

 異動を経て結婚し、主婦になった。だけど、最初は全てが上手くいくわけではなく、自分の足りなさに打ちひしがれ、その何者でも無さに戸惑った。(今思えば、無理する必要なんてなかったんだけど)

 それでも、ただ暮らすこと。それが全てだと今では思うようになった。そんなことを考えていた時に出会った映像がある。

料理家のどいちなつさんとその夫でデザイナーの加藤さんの暮らしについて語られたその映像は、今のわたしの気持ちを大らかに受け止めてくれた気がした。

野菜や植物について

「体のね、血肉として良いというものもあれば、心に響くものもあるじゃない。香ったことによって何か作用があるのは血肉じゃなくて多分マインド的なもの。スピリットに響くのもある。香りも食べた感覚も。そういうものを育てるといったら変だけど、そこに一緒に居たいって思ってて。」(どいちなつさん)

雛形/淡路島の食卓「心に風」

 「体にいい」とか「栄養がある」とか、そういう理由だけじゃなくて、ただその存在が心に響くことってないだろうか。例えばイタリアンパセリを見ているだけで美しいなと心が動く。葉を摘むと爽やかな香りがふわっと漂う。そんな時に動くのは、心のような気がする。

生き方について

「ただ暮らしたいだけなんですけどね。ただそうやって。何かが目的とかがあってそこに行きたいわけじゃなくて、ただそうやって暮らしたいってだけで。」(加藤さん)

雛形/淡路島の食卓「心に風」

 ずっと何者かにならないといけない気がしていた気持ちをまっさらにしてくれるようなこの言葉は、わたしの日常への眼差しを静かに変え、目的ではなく、自分の心地の良い感覚のある方に居ることを、大らかに受け入れてくれた気がした。そしてきっと、自分や自分の身近なところが心地よくなれば、社会全体も良くなるはずだと、本当に思えるようになった。

おわりに
日々の何気ない瞬間や、ささやかな喜びをすくい上げるように、この場を育てていきたいと思っています。食卓から成長記録。さりげなく継続中。読んでいただき、ありがとうございました。

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