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映画『シン・仮面ライダー』への疑問符(2)
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庵野秀明の実写作品について、わたしに評価できるのは『ラブ&ポップ』だけだ。原作もので、脚本も他人の手を借りている。アニメの『新世紀エヴァンゲリオン』にしても、テレビシリーズでは庵野以外の人間が大半を書いている。庵野秀明は優れたアニメ演出家かも知れないが、優れた実写作品の脚本家ではないというのが今回の結論だ。アクションについては救いようがない。CGI丸出しの、ゲームのような軽いアクションは身体性を欠いていて魅力がない。クモオーグ篇はまだ赦せるが、そのあとの数体の怪人+2号ライダーは映画の絵になっていない。チョウオーグになってようやく身体性がかろうじてでてきたという感触だ。戦いと戦いとのあいだの作劇は不十分だ。登場人物同士のコミュニケーションがまるでとれてない。場つなぎ的になものに留まっている。この作品が映画らしくなるのは本郷の消滅後、残された一文字が仮面を継承して退場、エンディングを迎えるところだけで、それまでの部分、エンディングのための説明に過ぎない。
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それぞれのパートの問題点を挙げてみよう。その1、クモオーグ篇は始まりが急過ぎる。そこは萬画版を踏襲したほうがよかったのではとおもう。クモオーグが喋れば喋るほど緊張感がなくなってしまう。その2、初戦が終わってルリ子と本郷の説明のための科白。こんなものは映像で見せるべきである。その3、アンチショッカー同盟の登場。ルリ子が早口でショッカーの正体について喋くるのだが、ここで悪の神秘性が消えてしまう。まったく凡庸な惡というものが曝されていて、これもまた緊張感の持続を吹っ飛ばしてしまう。その4、コウモリオーグはなぜ仮面ではないのかとおもわずにいられない。翼のCGIがしょぼすぎて観てられない。そしてやはりコウモリも喋りすぎだ。やはり緊張感がない。コウモリの実演も箱庭的で、直接社会への脅威というものにつづかないのは失策でしかない。その5、サソリオーグは不要な存在。これは存在そのものが場つなぎに過ぎない。ただただ醜悪で、滑稽なだけで、映画に大きな損害を与えている。このパートについてはまるで意味不明で、本気でこんなものをつくるのはコミュニケーション以前の問題で、現実が見えてないということだ。その6、ハチオーグ篇でようやく一般社会への脅威が登場するも、その提示が弱すぎる。ここはひとつ数人の犠牲者でもだしてくれたほうがよかったようにおもう(不謹慎)。以前にも書いたがハチオーグのアジトの陳腐さ、そして戦闘の舞台がダメだ。CGIに頼り過ぎている。そしてまたも身体性を失い、ほとんどアニメのようなアクションが映画として垂れ流されている。ハチオーグはサソリの毒で死ぬよりも、自害したほうが理に適っているのではとおもう。その7、またしても場つなぎの場面。全体として科白の癖が強すぎるので、この作品がアニメだったら許容できただろうとおもう。その7、緑川イチローとの対峙。ここで「パリハライズ」といった語がでてくるし、またも早口演技なので劇場では困惑した。なにをいってるのかが理解できなかった。その8、一文字との戦い。これがまたしても致命的で空中戦闘もどきをやっているのだが、如何せん物理法則を無視した動きなので観ていてキツかった。その9、相変異バッタオーグ篇もCGIいっぱいで萎えてしまった。これも劇場で見せられるのはキツい。映画は実写表現を追求するべきだというのは古い考えでしかないとわかってはいるが、やはり予算も技術も乏しい日本の映画のなかで、こういった表現は薄ら寒いだけだ。その10、チョウオーグとの決戦。玉座破壊の場面以外はできてるとおもう。泥仕合もそれらしくていいとはおもう。本郷消滅時にどうしたものか、マスクがなくなっているのはスクリプターの失態か。それでも泥仕合以降は作品がようやく映画らしくなっている。そのままエンディングまでよくできている。
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ひらすら庵野秀明の作品は、アニメで上手くいった方法を実写映画に持ち込んで失敗しているように見える。劇場の大画面で観て、「これはダメだ」とおもった。Amazon prime videoに配信が入ってみるうちに「わるくない部分もある」とおもったのだが、どうにもこの作品は映画のサイズに合っていない。テレビの作劇なのだ。オリジナルの『仮面ライダー』への偏愛が強すぎて、じぶんがなにをつくっているのかを見落としているのではないか。あまりにも人物や設定の説明科白に時間がかかっていて、描写という点ではおざなり。その上、2時間もある。編集上、カットすべきところが散見された。ほかにもいろいろとツッコミどころはあるが、やめとく。ただいえるのは庵野秀明自身のコミュニケーション不足がそのまま作品に投影されていて、気分がわるかった。脚本についてはやはり庵野単独でなく、たとえばアニメ版『人造人間キカイダー』の「ギターを持った少年」のように村枝賢一に脚本協力を仰いだらと強くおもう。庵野の多方面にじぶんの色を求めるやり方は、かれ自身の性質からいっても無理がある。
Blu-rayはでたし、テレビフォーマット版がえらく好評なのでいずれ買うが、しかしそれならそれで最初からオムニバス方式の映画をめざせばよかったのにともおもう。テレビの作劇にそれほどこだわりがあるのなら、そうしたほうが傷は浅くていい。ともかく、フィギュアを買ったくらいには好きな作品であるので、もし次回『仮面の世界』があるのなら、ちゃんと外部の作家を入れてつくるべきだろう。
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