咲いた月の下で #14
時は少し遡り、4月上旬。
新居での暮らしもまだイマイチ落ち着ききらない中、二人揃って実家に来い、と連絡があった。
〇:ったく、忙しいのに何の用だ。
咲:逆ホームシックとかだったりして。
〇:早すぎるだろ 笑
長年二人で歩いた道をまた歩き、家に到着。
家では両母親が待っていた。
〇母:忙しいところ悪いわね。こっちも二人揃うタイミングが無くてね。
〇:なんだよ、二人揃うタイミングって。
咲:まぁ、なんとなく想像はつくけど…
咲母:フフフ…さすが咲月…今日のテーマはこれよ!
ドン!と勢いよく机に置かれた〇クシィ。
咲:やっぱり…って、また付箋増えてるし!
〇:凄い数だな…これなんなの?
〇母:6月に空きがある結婚式場よ!片っ端から電話したわ!
咲母:やっぱりジューンブライドは目指すべきよね!
目指すものなのか?と疑問符を頭に浮かべる二人。
◯母:あなた達に任せていたら、あっという間に大学卒業しちゃいそうじゃない。
◯:それならそれで、いいんじゃないの?
咲母:儀礼はケジメをつけるためには大切よ。これは真面目な話ね。
急に真剣な顔で言われ、ちょっと怯む。
◯:…なるほど、それは確かにそうかも。
咲母:というわけで!選ぶわよ!
またコロッと顔つきが変わる。
咲:結局自分がやりたい成分強めね…
苦笑しながらも、四人で付箋の付いたページを見ながら、あーでもない、こーでもないをやること一時間。
◯母:う~ん、だいぶ方向性は決まってきたわね。
咲母:教会で式挙げて、ミニパーティーってところかしら。本当は披露宴も盛大にやりたいところだけど…
◯母:さすがに今からの準備では派手なのは難しいわねぇ。三回くらいお色直ししたかったわぁ。
咲:着せ替え人形じゃないんだから、やり過ぎよ…
なんだかんだ盛り上がって計画している女性陣。
◯母:よし!じゃあ、早速見に行くわよ!
◯:見に行くって何を?
◯母:式場に決まってるじゃない。
◯:えっ、今から!?俺らはともかく、向こうは大丈夫なの?
咲母:一本電話しとけば大丈夫よ。向こうだって空いてるところにはお客さん入れたいんだから。
咲:スゴい行動力…
二人のパワフルさに終始圧倒されつつも、出かける準備をする。
***
あの後、いくつかの式場に電話をかけたところ、本当に見学可能なところがいくつかあった。
◯:さすがに急すぎて、本当にチラッと見るだけになるところが多かったな。
◯母:まぁそれは仕方ないわよ。まずはある程度わかればいいのよ。
そして、ここは実家からそれほど遠くないある結婚式場。
?:よ、ようこそいらっしゃいました!
式場係員が迎えてくれる。
咲:急なお願いですみません。よろしくお願いします。
?:は、はい!私、プランナーの遠藤さくらと申します!!よろしくお願いいたします!
◯:よろしくお願いします。…すごく、緊張されてます…?
傍目にもわかりやすいくらい、アタフタしているさくら。
さ:あぁぁ…すみません…実は4月から働き始めたばかりの新人で…今日はお式もあって誰もいなくて…ご案内を一人でするの初めてなんです…あっ、こんなこと言っちゃ駄目でしたかね…
アタフタからオロオロへ。一人で忙しそうだが、一生懸命やろうとしてくれているのは伝わってくる。
◯母:フフ、大丈夫よ。新米夫婦に新米プランナーってのもいいコンビになりそうじゃない。
さ:あぅぅ、あ、ありがとうございます…で、では、気を取り直して、こちらへどうぞ!
気を取り直す必要があるのはさくらだけなのだが、と思いながらも、何も言わずに付いていく一同。
***
咲:うわ〜っ!すご~い!!
まずはメインとなる教会を建学する。
さ:この教会はですね!あんまり広くはないんですけど、結構天井の高さがありまして、荘厳感出てるんです!
咲母:薄暗いところに光がいい感じに差して、雰囲気出るわね~。
さ:神父様も、青年壮年・男女・日本人外人から選べます!
〇:トッピングみたいに言うな…
***
さ:次は、パーティ会場です!家族会向けのサイズから100人規模まで、いくつかあります!
〇:時間もあまりないので、こじんまりサイズにしようと思ってて。
さ:ご家族プラスご友人様10名くらいですかね?
咲母:そんな感じかしらね。
さ:お客様に対して人数多めのスタッフがしっかり盛り上げますので、寂しい感じはあまり無いと思います!
〇:サクラみたいだな…
***
さ:最後に、お衣装です!100種類以上から選べます!
咲:わ~。やっぱり綺麗だな~。
さ:お色直しは何回でもできます!5回でも、10回でも!
〇:だから着せ替え人形じゃないってば…
***
ひとしきり回って、案内室に戻ってきた一行。
さ:うぅぅ…あまり上手くご案内できずに申し訳ありませんでした…
頑張りが多少空回り、落ち込むさくら。
咲:そ、そんなに落ち込まなくても…大丈夫ですよ?
さ:わたし、まだ日は浅いんですが、頑張れば頑張るほど空回っちゃうみたいで…
〇母:たまに、いるわよねぇ、そういう人。
さ:ほ、本番はもちろん他のスタッフもおりますし!ご安心ください!
その後の案内も、一杯一杯感満載で進めつつ、今日は解散となった。
さ:ありがとうございました…是非、よろしくご検討ください…
〇:ありがとうございました。またご連絡します。
***
四人で家に帰宅。一息ついて、会議再開。今日集めてきた情報を整理する。
〇母:は~、どこも良かったわね。
咲母:さて、〇〇君、咲月、どこにする?
〇:え?俺らで決めていいの?
咲:てっきり二人が決めちゃうのかと思ってた…
〇母:何言ってるのよ。二人の式なんだから、最後は二人で決めなさい。
咲母:私たちは二人が決めたところで最大のパフォーマンスを出せるように、次の準備にかかるわ!
力こぶを見せる咲月母。
〇:わかった。今日はもう遅いから帰るけど、なるべく早く決めて連絡するよ。
咲:お義母さん、お母さん、今日はありがとう。また来るね。
挨拶して、帰路につく。
咲:急だったけど、楽しかったね!
◯:そうだなぁ。結婚式のイメージが一気に具体的になったわ。
咲:うんうん、お母さんの言ったとおり、儀礼とかけじめとかって大事だね。なんか、しっかりしなきゃって思った!
背筋を伸ばす咲月。
◯:さて、いくつか見たけど、どうしようかね。
咲:う~ん、どこもよかったんだけど、多分、ここがいいっていうのは、◯◯と同じだと思う!
◯:あ、やっぱり?じゃあ、せーのっ!
◯咲:遠藤さんのところ!笑
見事に一致。
咲:なんか、私たちのことを凄く一生懸命考えてくれてたよね。
〇:空回ってたけど、しっかり寄り添ってくれそうな気がしたわ 笑
咲:楽しく準備ができそう!楽しみ~
早速遠藤さんに電話でお伝えしたら、初めてのお客さん獲得に、涙して喜んでくれたそうな。