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咲いた月の下で #エピローグ

春、穏やかな風が吹く、天気のいい日曜日。


子:パパー!は〜や〜く〜!

◯:おーい、そんなに走ると転ぶぞ〜!

これまでも何度もあったシーン。案の定、躓いてベチャッと転んでしまう。

咲:あら〜、痛かったねぇ。

涙ぐむ子供を起き上がらせ、擦りむいた膝を撫でる。

◯:ははっ、また転んじゃったな。元気なのはいいことだ!

追いついてきた◯◯が抱き上げて肩車。

咲:ピクニックに来ると、いつも転ぶところからスタートだよね。昔の◯◯みたい。

◯:えぇ?咲月だろ?俺の後追っかけてきてさぁ。

咲:え〜、そうだっけ?笑

二人の子供ももう4歳。
初めての子育てはその名の通り悪戦苦闘の日々だったが、二人で協力してなんとかやってきていた。時にはちょっとした喧嘩をすることもあったが、子供の寝顔を見ていると、どちらからともなく仲直りすることができた。

◯◯は大学卒業後、子育てをしながら毎日仕事に精を出していた。残業も厭わず、とにかく咲月のため、娘のためと汗を流し、その甲斐あってか、会社では若手のエースと呼ばれるまでに成果を上げていた。仕事自体、自分がやりたかったことだったので、それが結果的に家族のためにもなるともなると、苦労もそれと思わずにやっていくことができていた。

咲月は子供が一歳になるまでは子育てに専念。夜泣きに悩まされた日も、急な発熱に慌てた日も、二人で励まし合って頑張った。そして家族のために働く〇〇を常に笑顔で支えていた。

周りの助けも得ながら、一家は思いやりと笑顔を絶やさず暮らしていた。
そして今、咲月のお腹には新しい命が宿っている。幸せは、さらに積み増されていく。


茉:あ、いた~。お~い!

瑛:〇〇~!さっちゃーん!

今日は久しぶりに大学時代のイツメンで集まる日だった。

咲:茉央~!瑛紗~!久しぶりだね!元気してた?

茉:元気元気~!関西人が関西に戻ったら、いっつも元気やで~!!

茉央は地元関西の企業にUターン就職。今日はこちらで研修があるとのことで、いい機会だからみんなで集まろうということになったのだ。

瑛:私は毎日研究室に缶詰めでヘトヘトだ…この先仕事があるのかもわからんし…

瑛紗は大学院に残った後、さらに博士課程まで進んで現在3年生。そろそろ就職先を確保しなければならないが、ポストドクターの厳しさに直面しているところだった。

〇:噂には聞いてたけど、やっぱり大変なんだな…でも瑛紗なら大丈夫だよ。根拠はないけど。

咲:うんうん。なんとかなるよ!頑張れ!

瑛:うぅ…頑張るけどさぁ…ムスメちゃん癒して〜…

子供の方に駆けていく瑛紗。


和:おっ、盛り上がってるね~!

そこへ和もやってきた。

咲:和だ~!

和:久しぶり!お嬢ちゃん大きくなったね~!

少し離れたところで蝶々を追いかけまわしているチビッ子と瑛紗をみんなで微笑ましく見つめる。和は教員免許を取り、出身の高校で教鞭をとっていた。とんでもない美人教師が来たと生徒の間で大人気なんだとか。

茉:今日、美空はこれないんだっけ?

和:そうなのよね~。仕事で地方に行っちゃってるらしくて。

美空は念願叶ってテレビ局アナウンサーになり、朝の情報番組でお茶の間に笑顔を振りまいていた。噂によると、そろそろフリーへの転向を企てているとかなんとか。

咲:子供が小さい時は毎日テレビで見てたから、美空だけ全然久しぶり感ないんだよね 笑

和:わかる 笑 あっちはこちらのこと全然わからないのにね。

瑛:奈央ちゃんは?私の愛しの奈央ちゃんは?

戻ってきた瑛紗がピョコピョコ跳ねながら聞いてきた。

〇:奈央ちゃんも今日は来れなかったんだよ。仕事しながら、プロスポーツチームのチアやってるらしくて、今日も試合があるんだって。

茉:へ~、大したもんやなぁ。

全員は揃わなかったものの、久しぶりの同窓会。みんなでお弁当を広げ、子供の相手をしながら懐かしい話に花を咲かせた。


***


楽しい時間はあっという間。子供も疲れて眠ってしまったあたりで、お開きにすることになった。

茉:あ~、今日は大学時代を思い出して、楽しかったなぁ。

瑛:そうだなぁ。私はまだ大学にいるんだけど…

和:瑛紗は一生いるんでしょ?笑

瑛:うぅ…そうなるといいんだけど…

〇:卒業しても、こうやって集まれる仲間ができたってだけでも、最高の大学生活だったって言えるよな。

咲:うん、そうだね!私たちはちょっと普通じゃなかったかもだけど、これ以上ないってくらい楽しかった!

今度は全員揃っての再会を約束して、解散となった。


***


みんなと別れて家への帰り道を歩く。〇〇の背中には、気持ちよさそうに寝息を立てる愛娘。

咲:…よく眠ってるね。

〇:そうだな。お姉さんたちがいっぱい遊んでくれたから、疲れたんだろ。

おんぶしているので手はつなげないが、そっと肩を寄せる咲月。

咲:二人目も、もうすぐだね。またあの大変な日々がやってくるよ~

〇:今度は二人いるからなぁ。お姉ちゃんも赤ちゃん返りしたりするっていうしな。

咲:また毎日バタバタするんだろうね。でもそれもしばらくしたら楽しい思い出になりそう。

〇:そうだな。これからも笑顔で頑張っていこうな。

咲:うん!!

日が沈み、辺りが暗くなってきた。家族が歩く道のりを、満月が明るく照らしていた。

~FIN~


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