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咲いた月の下で #31

クリスマスも過ぎ、年末のバイトのピークも終えた大晦日。
家の大掃除などを終えた夕方、二人は年末年始を実家で過ごすべく、帰省の途についていた。

咲:帰省と言っても、近いからすぐだね。

◯:スネかじりにはこれくらいの距離感だよなぁ。


高校までは毎日歩いていた道も、随分久しぶりな気がする。程なく、二人の家の前に着く。

◯:…ん?どっちの家に帰るの?

咲:あっ…そういえば決めてなかったね。

家の前で顔を見合わせる二人。

◯:明日は例年の流れだろうけど、なんか今日もそれぞれ挨拶しといたほうがいいのかな?

咲:うーん、ま、明日でいいんじゃない?今日はそれぞれお互いの家に行こっか。

じゃあね、と手を振って、お互いの家に入る。


◯:ただいま〜。

夏に新婚旅行のお土産を届けて以来、帰ってなかった実家。それほど大きな変化があるわけではないが、なんとなく新鮮な感じもする。

◯母:お帰り。あら、咲月ちゃんは?

◯:向こうの家に行ったよ。もう夜だし、挨拶やらは明日でいいでしょ?

◯母:あら、そうなの。会えるの楽しみにしてたのに。

やっぱり娘が出来たのが嬉しいのか、ブーたれる母親。嫁姑問題とは無縁でいけそうだ。


◯:親父は仕事?

◯母:そうよ〜。明日休みもらった分、今日はシフト入っちゃったんだって。

毎年のことだが、年末まで大変だな、と改めて思う。大学生になり、次は就職となると、少しずつ仕事への見方も変わってくる。

◯母:さぁ、年越しそば食べちゃいましょ。明日の準備も含めて咲月ちゃんのお母さんと一緒に買い出し行ったから、あっちもメニュー同じね、きっと。

だったらまとまって食べればよかったなぁ、と思いつつ、紅白を見ながらまったり過ごしたのだった。


***


翌日、元旦。
毎年恒例、両家揃っての初詣に行くべく、三人で咲月の家に向かう。宴会会場は持ち回りにしており、今年は咲月の家が会場だ。

全:明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

玄関先で挨拶をするが、咲月の姿が見えない。

◯:あれ?咲月は?

咲母:部屋にいるわよ。呼んできてくれる?

毎年揃ってやるのにな、と思いながら二階の部屋に上がる。


◯:咲月〜、開けるよ?

ドアの前でノックして声を掛ける。

咲:じゃーん!明けましておめでとう!

部屋では晴れ着姿の咲月が待っていた。

◯:…お、おう、おめでとう。

咲:ふふーん、ビックリした!?

呆気に取られている◯◯。

◯:…ビックリした。めっちゃキレイだな。

咲:えへへっ!一年越しのリクエストにお応えしました〜。

そういやそんな話をしたな、とようやく思いだした◯◯。


◯:覚えててくれて嬉しいよ。ありがとな。

咲:どういたしまして!私も着たかったし〜!

◯:じゃあ、行くか。階段落ちるなよ。

咲:エスコートがいるから大丈夫!

玄関で改めて家族と挨拶。
晴れ着姿にひと盛り上がりした後、連なって神社へ参拝。昨年は合格祈願とひっそり家庭円満をお願いしていたが、今年は引き続き家族みんなが元気でいられるようにとお願いした。


***


帰宅後、恒例の宴会開始。
咲月も昨夜準備を手伝ったというおせち料理に舌鼓を打つ。

咲母:料理の手際、良くなったわねぇ。

咲:バイトの成果かな?もうすっかり賄い作りは任せてもらえるようになったんだ〜。

◯父:大したもんだ。今度一度行ってみたいな。

咲:是非来て!売上貢献!

◯:そこは俺らがごちそうするんじゃないの?笑

そんな会話をしながら和やかに宴会は進む。


咲父:どうだった?一年結婚生活送ってみて?

◯:まぁ、バタバタだったけど、いろんな人に協力してもらって、楽しくやれたかな。

咲:大きなケンカもしなかったしね〜。ある意味、私たちはこれまで通りだったかも。

咲父:そうか。何にせよ、順調なようでよかったよ。

◯◯たちは食後のコーヒーを飲みながら、咲月は洗い物をしながら話す。


◯母:そういやあんたたち子供はまだなの?

◯:ブッ!!!

ガシャン!!

コーヒー噴き出しと皿割り、再び。

◯母:なによ、二人して慌てて。…どこかで見た光景ね。

◯:ゲホッ!ゴホッ!…また何言ってんだよ!!

咲:も〜!お義母さん!!

片付けをしながらクレームの二人。

◯母:変かしら?結婚したら、次は子供をって期待しちゃうじゃない?

咲母:孫の顔、早く見たいわよねぇ。

もうおばあちゃんになっちゃうわね、なんて定番の会話で盛り上がっている。

咲:そうは言っても…

◯:さすがに…

顔を見合わせる二人。

◯父:なんだ、弱気だな◯◯。

咲父:去年の勢いはどうした?

何故かやたらと煽ってくる両親s。
半分以上はからかってるだけなのだろうが、まぁ心待ちにされているということは伝わった。


実際問題、結婚なら主に二人だけの話だが、子供ともなるとそうはいかない。
大学には行けなくなるし、バイトも難しい。親に助けてもらってなんとかなる、という話ではないことは明らかだ。

◯:今はまだ無理だけど、まぁおいおいな。

咲:来たるべき日を、楽しみにしててね。

まぁもちろん親たちもそんなことはわかっているのだが、そこから先は初孫話で盛り上がっていた。


また掻き回されてしまったが、宴会も終了。
翌日からはバイトも始まるということで、今日のうちに帰宅することに。

◯父:またちょくちょく顔を出せよ。

咲母:風邪引かないようにね。

◯:あぁ、わかった。

咲:ありがとう、また来るね~。


***


帰宅し、片付けをした後、リビングで一休み。

◯:久しぶりの帰省だったけど、リラックスできたな。

咲:そうだね。実家の安心感ってあるよね。

◯:18年間住んでた家だからなぁ。

ボンヤリと正月番組を観ていると、あっという間に夜も更けてきた。寝る準備を済ませ、布団に入る。


咲:◯◯…

◯:ん?

咲:昨日、実家で寝たとき思ったんだけど…一人のベッドで寝るの、この家で生活し始めてから、初めてだったんだよね…

◯:あー、そういやそうか…引っ越し初日以来、ずっとこうだもんな。

ずいっと◯◯の方に近づいて、抱きつく咲月。

咲:ちょっとだけ…寂しかったんだ…

◯:咲月…

優しく抱きしめ返す◯◯。

咲:えへへ…暖かい…


◯◯の胸に顔を埋め、しばらく頭を撫でられる。

咲:…孫の顔が見たいって、言われちゃったね…

◯◯を見上げる形で、いたずらっぽく微笑む咲月。

◯:…一旦、予行演習しとくか。

咲:…それ、大事だね。

もう一仕事してぐっすり寝た二人は、良い初夢が見れたそうな。

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