咲いた月の下で #23
新婚旅行を終えて、結婚から続いた一連のイベントもひとしきり終了した10月。
大学の後期も始まり、授業とアルバイトの日常が戻ってきていた。
奈:先生こんにちは!
〇:こんにちは。今日も頑張ろう。
〇〇の勤務先の個別指導塾では、今日も奈央が元気に登塾してきた。
塾講師のバイトを始めて半年ほど経ち、今は奈央をメインに、他の先生の欠席時のヘルプなども担当するようになっていた。
奈:せんせー…中間テストが近づいてきました…
〇:10月だし、そういう時期だね。
奈:うぅ…気が重すぎます…
〇:冨里さんなら日頃からちゃんとやってるから大丈夫だと思うけどなぁ。
奈:奈央って呼んでって言ってるのに!
〇:だから友達じゃないってば…
毎回になったやり取りをしながら、今日も授業を開始する。
***
〇:こんばんは~。
そしてバイトの後は恒例「みづき」へ。
咲:〇〇お疲れ様!今日はお先に食べてるよ~
「みづき」の仕事を終え、賄いを食べている咲月。
美:〇〇君お疲れ様。一緒に食べていってね~。
〇:いつもすいません。俺も頂いちゃっていいんですかね?
美:8月の繁忙期も臨時で手伝ってもらったし、全然OKよ!本当に助かってるんだから。
仕事終わりのビールを嗜む美月と3人で、お互いのバイトでの出来事を話しながら晩御飯を取るのがいつもの光景になっていた。
咲:そうか~、10月と言ったら中間テストだよねぇ。
〇:まだ去年のことだけど、もう懐かしいよな。大学は9月まで休みだし。
咲:私もよく〇〇に教えてもらったなぁ。
〇:毎日どっちかの家でやってたよな。
美:相変わらず見せつけてくれるわねぇ…
美月のジト目を受けつつ、昔話(といっても去年の話)に花を咲かせた二人だった。
***
奈央の中間テストまであと1週間となった日。
今日も変わらずバイトに励む〇〇。
奈:いよいよ部活も休みになって、テスト週間です~…
〇:冨里さんは何の部活やってるの?
奈:なおは、応援団でチアやってます!
〇:へー、冨里さんの笑顔で応援されたら頑張れそうだね。
奈:えへへ~!そうですかぁ!?
〇:じゃあ、今週は自分を応援して頑張ろう。
奈:うぅ…やっぱりそうなりますか~…
上手いこと励まして、やる気を出すのも講師の仕事だが、高校生ともなると、なかなか単純な方法でモチベーションを上げるというのも難しい。
奈:やっぱり数学が苦手です~…
〇:そうだね…説明したらちゃんとわかってるし、基本的な問題は出来ているから、あとは練習量だなぁ。
奈:た、タムパ重視で…
〇:そうはいかないこともあるよ。地道にやろう。
奈:う~ん、数学は頑張っておかないといけないって言われてるし…
頭を抱える奈央。
奈:先生…残業をお願いしてもよいですか…
〇:いいけど…遅くなりすぎないようにするのと、おうちの人にはちゃんと連絡してね?
奈:はい!頑張ります!
以来、奈央は授業のない日も自習室に通い、〇〇も併せてバイトの日数を増やしていった。
咲:〇〇、今週は忙しそうだね。
〇:そうだなぁ。生徒が頑張ってるのに、講師が放っておくわけにはいかないかなと思って。
咲:おぉ~、熱血先生!
〇:やめろよ 笑 ということで、今週末はあんまり何もできないけど、ごめんな。
咲:ううん、しっかり教えてあげてね!私は誰かとお出かけしてこようっと。
***
そして、テスト期間開始を明日に控えた日曜日。この日も奈央は朝から塾にこもって勉強をしていた。
もちろん〇〇も朝から付き合い、テスト対策をみっちり行う。
ひと段落した、昼休み。
奈:先生、一週間ずっと付き合ってくれてありがとうございます。
〇:まぁ、仕事だからね。
奈:何人か個別指導で先生してもらったけど、これだけみっちりやってくれた先生初めてかもしれないです。
◯:まぁ、単純に予定がなかったからだよ。
奈:先生!そこは嘘でも「奈央のためだよ」って言って欲しいです!
◯:なんでだよ 笑
冗談を言い合いつつ、早々に昼休みも切り上げて、続きにかかる。
◯:今日もお疲れ様、早めに休んで、明日から頑張ってね。
奈:ありがとうございました!また通常授業からお願いしま〜す!
そう言って、帰っていった奈央を見送った。
後片付けをしていると、塾長から声をかけられた。
教:◯◯君、お疲れ様。
◯:教室長。お疲れ様です、
教:冨里君、今回は特に頑張ってたね。何かあったの?
◯:いや…特別な事情は聞いてないですが、今回は数学を頑張りたいとは言ってましたね。
教:そろそろ具体的な進路も考え始めてるのかもしれないね。試験が落ち着いたら、聞いてみてくれる?
◯:はい、わかりました。
***
そして試験期間の一週間が過ぎ、塾のスケジュールも通常に戻った初日。
奈:〇〇先生~~~!!!
〇:こらこら!塾では静かに!
いつも以上に元気に奈央が飛び込んできた。
奈:見てください!偏差値5アップ!!
成績表をバッと開いて見せる奈央。
特に頑張った数学を中心に、全教科成績アップを達成していた。
〇:おお!すごいじゃん!頑張ったなぁ~
奈:えへへ~!先生のお陰です!!
〇:いやいや、冨里さんが頑張ったからだよ。よくやったね。
奈:そ、そんなに褒めてもらったら照れます~!!
モジモジしながらも喜びを隠せない奈央。
〇:しかし、今回は今までになく気合が入ってたね。何かあったの?
教室長に言われたことを思い出し、探りを入れてみる。
奈:そうですね~、さすがにちょっと受験を意識してきました…
〇:なるほど。どこか行きたい大学は決まってきた?
奈:う~ん…ホームページとかをちらちら見たりはしてるんですが、まだあんまりピンと来たところはないですね…
〇:そっか。これからオープンキャンパスとか文化祭もあるから、行ってみると良いかもね。塾にある情報も探しておくよ。
奈:ありがとうございます!
授業前の会話はそれくらいにしておいて、今日も滞りなく授業を進めた。
終了後、教室長へ情報共有。
教:なるほどね、まぁ、そういう時期だね。自分でちゃんと考えられてて、偉いよ。
◯:そうですね。オープンキャンパスとか、そういうイベントの情報ってありますかね?
教:今度、ウチの大学生講師の案内で、キャンバスツアーをやろうって話があるよ。◯◯君の大学もあるんだけど、◯◯君案内できる?
◯:はい、全然大丈夫です。
教:他にもこういう大学でやろうと思ってるんだけど、講師でカバーできてないところもあるから、もし知り合いで案内頼めそうな人がいたら誘ってもらえると助かるかなぁ。もちろんアルバイト代出すから。
大学のリストを受け取る。
◯:(あ、咲月の大学もあるな…聞いてみるか)
***
その夜。
◯:…というわけなんだけど。
咲:キャンパスツアーかぁ。なんか楽しそうだね!私は全然案内できるよ〜!
◯:助かるわ。大学との交渉とかは塾がやってくれるから、参加者を引率して、学生目線でちょっとした案内だけすれば良いみたい。
咲:それならあんまり難しくないね。ひと足早く後輩が出来るみたいで、楽しそう!
◯:ある意味、勧誘だよな(笑)
こうしてそれぞれの大学ツアーをすることになった二人だった。