咲いた月の下で #26
街の木々も徐々に赤みを帯びてきた11月。
読書の秋、芸術の秋など色々あるが、二人はまずは食欲の秋ということで、今日も「みづき」で賄いを食べていた。
◯:学祭?
咲:うん、うちの大学、今月末にあるんだ〜。
◯:そういえばこっちも今月だったな…主体的に参加する予定がなかったから、すっかり忘れてたわ。
サークル活動などを行っていると、成果の発表や模擬店出店で一大イベントになりがちだが、特に何にも参加していない◯◯にはどこ吹く風だった。
◯:みんな何かやるのかなぁ。
咲:私ね、必修授業用のクラスがあるから、その集まりで模擬店出そうってことになってるの。
美:おっ、なんの模擬店出すの?
いつものようにビールを飲んでいた美月が、料理の話題なら私よね!と言わんばかりに身を乗り出してきた。
咲:焼きそばとかフランクフルトとか、屋台っぽいもの全般って感じです。
美:いいわね〜。結局、奇をてらったものより普通ののほうが売れるのよね!
それなら原価率が…と何やらブツブツつぶやきながらスマホで計算を始めた美月。
◯:なんかスイッチ入っちゃったな。
咲:職業病かしら…
美月を尻目に、食事を食べ終え、後片付けする二人。
咲:◯◯も学祭遊びに来ない?
◯:もちろん。茉央や瑛紗も誘ってみるよ。
咲:いいね!売上アップに貢献してね〜 笑
◯:井上や一ノ瀬に会うのも久しぶりだな。アイツらも一緒にやるの?
咲:ううん。クラス違うし、和は弓道部だからそっちで何かやるって言ってたよ。美空はミスコンに出るって息巻いてた。
◯:ミスコン…話には聞いてたけど、ホントにあるんだな…
いかにもだなぁ、と思いながら洗い物を拭く◯◯。
咲:あっ、そうだ。奈央ちゃんも誘ってみようっと。
◯:えっ!?連絡先知ってんの?
塾のバイトでは、生徒と個人的なやり取りをすることはもちろん禁止されている。
咲:うん、この前の見学のときに色々話してさ〜。私、別に先生じゃないからいいかと思って。色々話してるよ。
スマホのやり取りを見せる咲月。
大学の様子を聞いたり、なんでもないガールズトークが主だったが…
◯:「◯◯先生の好きな髪型は?」って、なんだこれ!?
咲:◯◯のこと、いろいろ聞いてくるよ。まだ諦めてないんじゃない?
イヒヒ、と意地悪げに話す。
◯:咲月も答えるなよ…
咲:だって〜。妹みたいでかわいいんだもん。ついなんでも教えちゃう 笑
美:なんだか妻の余裕が出てきたわね…
突然話に戻ってきた美月。
◯:まったく…変なこと吹き込むなよ〜…
裏で情報収集されてることに多少ビクつきつつ、一方で咲月と奈央が仲良いことは嬉しいという、なんとも複雑な感情になった◯◯だった。
***
学園祭当日。
咲月は1週間くらい前から準備に走り回っていて、この日も朝早くに家を出ていた。
〇〇は正門前で一行と待ち合わせ。
茉:〇〇~!おはよ~
瑛:オッス!いい天気になってよかったな!
いつものごとく、二人でやってきた茉央と瑛紗。
〇:二人ともおはよう。
茉:今日はもう一人いるんだっけ?
〇:そうなんだよ…俺の塾の教え子なんだけどさ…
奈央のことを二人に説明していると、
奈:〇〇先生~~~!!!
奈央が、こちらもいつものように元気に走ってきた。
奈:おはようございます!今日は誘ってもらってありがとうございます!!
〇:誘ったのは咲月だけど…ともかくおはよう。
茉:この子が奈央ちゃん?初めましてやね!
奈:あっ、お二人のお友達の皆さんですね!冨里奈央です!お願いします!
ペコリと頭を下げる奈央。
瑛:〇〇…なんだこのかわいい生き物は…
人見知りを発動して茉央の後ろに隠れつつも、目を輝かせて奈央を見つめる瑛紗。
〇:茉央と瑛紗ね。どっちも俺の大学の友達だけど、まぁ色々聞いてみたら何か参考になるかもね。
茉:お〜、◯◯先生やってんな〜。
ニヤニヤと◯◯を茶化す茉央。家族を見られたような、そんな気恥ずかしさを覚える。
◯:まったく…まぁここで話しててもなんだし、行くか。
早速咲月の店に向かうべく、歩き始める一向。
時刻は昼前。
朝から始まった学園祭も、徐々に盛り上がってきており、多くの模擬店、多くの人で混雑していた。
奈:すご~い!高校の文化祭より全然賑わうんですね!
茉:私たちも初めてだけど、すごい人出だね〜。
瑛:な、奈央ちゃんはこの大学志望なのか?
まだ緊張している瑛紗が恐る恐る尋ねる。
奈:う~ん、皆さんの大学かこちらかで迷ってるんですよね〜。◯◯先生か咲月先輩か…
◯:なんだその基準…ちゃんとやりたいことで選びなさい!
茉:あはは、奈央ちゃんは◯◯夫婦が好きなんやなぁ。
ケラケラと笑う茉央。
奈:はい!!お二人とも優しくて大好きです!
瑛:ズルいぞ◯◯!こんなカワイイ子に好かれるなんて!
◯:ズルいってなんだよ…
そんな話をしているうちに咲月の店に到着。
咲:あっ、◯◯!みんな!来てくれてありがとう!
店番の咲月が大きく手を振る。
茉:さっちゃーん!
奈:センパーイ!!
茉央と奈央が一目散に駆けていく。
瑛:なんかあの二人、同系統だな…
◯:名前も似てるしな…
名前は関係ないが、どことなく同じ空気感を感じるのだった。
気を取り直して、声を掛ける。
◯:咲月、お疲れ。調子はどう?
咲:まだ始まったばっかりだけど、ボチボチだよ~。まだまだこれから頑張らなきゃ!
ガッツポーズを見せる。
奈:先生!たこ焼き食べたいです!
瑛:私はお好み焼き!
◯:なんで俺に言うんだよ。自分で買え!
茉:瑛紗はともかく、奈央ちゃんには奢ってあげたらええやん 笑
◯:まったく…
ブツブツ文句をいいつつも、しっかり奈央の分は払ってあげるあたり、人の良さが出る◯◯。
咲:毎度あり〜!たくさんお買い上げありがとう!
学園祭は腹ごしらえからスタートした一行だった。