咲いた月の下で #10
仲直りした二人は荷解き再開。
二人分なのでそれほど量も多くなく、夕方には無事終了。
咲:ふーっ、まぁこんな感じかなぁ?
◯:冷蔵庫、洗濯機、テレビ、ソファ、テーブル…これだけあれば普通に生活できるかな。
咲:うんうん、他はまた足りなかったらやる感じで進めよっか。
一仕事終えた所で、二人のお腹が同時にぐぅと鳴る。
咲:あはは、お腹すいたね。
◯:今日は食材もないし、食べに行こうぜ。近所の店を開拓したい。
咲:賛成!行きつけのお店とか憧れる!
◯:チェーン店だとつまらないよなぁ。
近所を散策する二人。駅の方に歩くと、少し寂れた感じの商店街に一軒の小料理屋を見つけた。
◯:「小料理屋 みづき」だって。ここどうだろ?
咲:小料理って何?
◯:よくわかんないけど、まぁ食い物はあるんじゃないの?
咲:居酒屋っぽくってちょっと緊張する〜…
恐る恐る暖簾をくぐる。
?:いらっしゃ~い。あら、お若いお二人さん、初めて?
◯:あ、はい。今日近くに引っ越してきたんです。飯食えますか?
?:もちろん!カウンターにどうぞ〜。
咲:わ〜、美味しそう!
いわゆるお晩菜スタイルの店らしく、カウンターには大皿の料理が並んでいた。カウンター10席、テーブル5席ほどの、コンパクトな店だ。
?:改めて、いらっしゃいませ。女将の美月です。飲み物は、ビールでいいかしら?
◯:あ、俺達まだ未成年で。
美:あら、それはごめんなさい。今日引っ越してきたって言ってたけど、大学生?
水とおしぼりを出してもらう。まだ他の客はおらず、貸切状態。
咲:はい、この春から。
美:そっか〜、いいわね〜大学生。二人は、恋人同士かな?
もしかして〜?というように聞いてくる美月。
咲:えーっと、私達、夫婦、でして…
美:結婚してるの!?
◯:えぇ、つい最近…
美:あらまぁ〜。時代は進んでるのねぇ。
時代?と思いつつ、最近は少し驚かれるのにも慣れてきた。
美:喋ってばかりでごめんなさいね。居酒屋メニューだけど、定食にでもなんでもできるから、好きに頼んでちょうだいね。
咲:早速いい感じのお店見つけちゃったね。
◯:だなぁ。あったら嬉しいお店のイメージにぴったりだ。
でてきた料理も抜群に美味しく、程よく女将とも会話して楽しい時間を過ごせた。
咲:あぁ~、美味しかったぁ。自炊できなくなる〜…
美:美味しそうに食べてくれるわねぇ 笑
◯:咲月の特技だもんな。
咲:それ何回言うのよ〜もう。
美:ウフフ…仲良しなのね。また来てね。
◯:ごちそうさまでした。また来ます。
咲:ごちそうさまでした!
空腹が満たされると、足取りも軽くなる。仲良く手をつなぎながらの帰り道。
咲:実家からそれほど遠くはないけど、やっぱり知らない街だね。発見があって楽しいかも。
◯:確かにな。ごはん処以外にもいろいろ探したいな。
咲:学校始まるまで暇だし、毎日お散歩しようよ!
◯:それいいな。
冬の寒さも薄れ、散策には良い季節だ。
新しい生活の中でも、これまでと変わらない二人の時間としても良い時間となりそうだ。
***
帰宅後、少し片付けの続きをしたり、風呂に入ったり。
◯:ふ〜、流石に風呂は実家より狭いな。
咲:それはそうだよ。でも一人暮らしよりはマシなんじゃない?
先に入った咲月が長い髪を乾かしながら答える。
◯:そうだな、セパレートだしな。
髪の毛をガシガシ拭きながら、大欠伸をする◯◯。
咲:今日は朝からバタバタで疲れたね。もう寝る?
◯:そうしよっか。布団出したっけ?
咲:あ、布団まだ開けてないかも。
◯:やっとくわ。
荷物の運び込みで寝室に置いておいた布団を確認する。
◯:あれ?一組しかないぞ?
咲:あれぇ?お母さんが準備するって言ってたけど…ちょっと聞いてみるね。
とりあえず、ある分の布団を引く◯◯。
咲月はリビングに戻って電話しているが、何やら驚きの声が。
◯◯もある違和感に気づき始めたとき、咲月が戻ってきた。
咲:◯◯…
◯:あぁ、これって…
◯咲:一緒の布団で寝ろってこと!?
広げていた布団はセミダブルサイズだった。
咲:夫婦なんだからいいでしょ?だって…
◯:いや、まぁそりゃそうだけど…
咲:小さい頃は抱きついて昼寝してたじゃない、とも言ってた…
◯:そんな昔のことを引き合いに出されても…
夫婦と言われることにもずいぶん慣れてきたが、久しぶりの気恥ずかしさがやってきた。
◯:ま、まぁお義母さんの言うことももっともだな!
気まずさを打開すべく、わざと明るく振る舞う◯◯。
咲:そ、そうよね!夫婦だもんね!
流れに乗る咲月。
◯:じゃ、じゃあ寝るか…
咲:う、うん…
おずおずと布団に入る二人。
離れるのも気まずいし、くっつき過ぎるのも恥ずかしいという、絶妙な距離を取る。
◯咲:…
◯咲:(…寝られる気がしない!)
しばし、無言で天井を見つめる。
咲:…フフッ。寝られないね。
ゴロンとこちらを向いて言う。
◯:…ハハッ、慣れてきたと思ってたけど、まだまだあるな。
咲:ホントだね。そういえばね…
結局それから長い時間おしゃべりし、気づいたら二人共寝落ちしてしまったのだった。