咲いた月の下で #36
盛りだくさんだった大学での一年が終わり、時は流れて早くも4回目の春を迎えた。いよいよ学生生活の最終年度。来年からは社会人という、節目の一年を迎える。
◯:思い返すと、早かったなぁ〜…
ゴールデンウィークを過ぎた頃の平日の朝。朝ご飯を食べながら、ボンヤリと呟く。
咲:うん?何が?
向かいの席に座って同じくご飯を食べている咲月が首を傾げる。
◯:あぁ、なんか、大学生活もあと一年だなぁって。
咲:急にどうしたの?笑
◯:どうしたってことはないんだけどさ。超ドタバタだった一年が終わって、少しは落ち着くかと思ったのに、結局ずっとバタバタしてたよなぁ。
咲:そうだね。二年のときは奈央ちゃんの受験もあったから、◯◯先生は大変だったよね。
バイト先の塾で受け持っていた生徒の奈央。志望校選びでは◯◯の大学と咲月の大学で悩みに悩み、何度も二人の友人含めてヒアリングを繰り返した。
結局◯◯の大学に決めたものの、そこそこレベルの高いところなだけに、なかなか成績が届かず大苦戦。怒涛の夏休みや秋の連続模試を献身的に支え、正月は休み返上で駆け抜けた頃にようやくボーダーラインを越えることができた。
そしてガチガチに緊張して臨んだ共通テストと二次試験。先輩たちの応援を後押しに、合格を掴み取ったのだった。
咲:一日模試受けて、夕方「みづき」で出来なかったって泣きながらご飯食べて、夜塾行って復習してたよね。
◯:咲月に慰めてもらったり、茉央や瑛紗も勉強法教えてくれたり、本当に助かったわ。
咲:総力戦みたいになってたね 笑
◯:合格できてよかったよ。今もチア頑張ってるみたいだし。
咲:そうだね。でもバタバタしてる中でも、何ヶ所か旅行に行ったり、いろんなことして楽しかったなぁ。
そんな話をしているうちに、朝食を食べ終えた。
咲:今日は大学?
◯:朝だけ研究室のゼミだな。午後は就活の面接がある。
咲:そっか。私は今日は授業が一つだけだから、のんびりなんだ。
◯:単位早めに目処つけられてよかったな。
真面目な◯◯に引っ張られ、咲月も順調に卒業要件を揃えていた。
朝食を終えたらめいめいの予定へ。夫婦生活も三年ですっかり馴染んだ二人だった。
***
茉:あっ、〇〇や。おーい!
〇:おう、茉央に瑛紗。久しぶりだな。
午前のゼミを終え、食堂に行くと茉央・瑛紗コンビと会った。
瑛:四年ともなると授業も少ないし、なかなか会わなくなるな。
〇:まぁ、そうだよな。一年の時はずっとつるんでたけど、だんだんそうなるよな。
席について昼ご飯を食べながら話す。
茉:スーツ着てるってことは就活?
〇:あぁ、今日は2社面接。6月がもうすぐそこだからな。
就職活動は6月解禁というルールになっているが、実態としてはもっと早くから動き始めている。三年生のうちに合同説明会に参加し、インターンなどの名目で事実上の選考を受け、6月になったらすぐ本内定を貰う、というのがパターンだ。外資系企業などはそもそもルールにとらわれないこともあり、もっと早くに内定が出ているケースもある。
茉:私も今面接ラッシュやわ~。目ぼしいところにかかるといいんやけど。
〇:瑛紗は?
瑛:私は大学院だ。夏の院試に向けて絶賛勉強中。
大学は研究機関でもある。さらに研究を深めるのもまた一つの道だろう。
茉:さっちゃんたちも同じような感じ?
〇:そうだな。咲月も就活してるし、井上は教職らしいから教育実習、一ノ瀬はアナウンサー試験受けるために自分磨きに余念がないんだと。
瑛:みんなそれぞれだな。そういうもんだといえばそうだが、少し寂しいな。
人見知りな瑛紗にとっては、6人で過ごした大学生活はよっぽど楽しかったのだろう。
〇:…まぁ、進路が決まったらまた集まってお疲れ会しようぜ。
茉:そやなぁ。落ち着いたら、卒業旅行とかも計画したいなぁ。
それぞれが進む道に向けて準備をしている。楽しかった大学生活を振り返ると寂しくはあるが、残りの期間を目いっぱい楽しもうと思う一同だった。
***
〇:ふー、ただいま~。
夕方、予定を終えて家に帰った〇〇。
咲:あっ、お帰り~。お疲れ様〜。
晩ご飯の準備をしていた咲月が廊下を覗く。
咲:ご飯もうすぐできるよ。
〇:サンキュー、着替えてくるわ。
堅苦しかったスーツを脱ぎ、部屋着に着替えた後、配膳を手伝う。
咲:よし、準備できたね!
〇:じゃあ、いただきまーす!
今日あったことを話しながら、晩ご飯を食べる。
久しぶりに茉央と瑛紗と会ったので、お疲れ様会の話、卒業旅行の話が話題の中心だった。
咲:就活はどうだった?
〇:まずまずかな~とは思うんだけど、学力試験と違ってあれでよいのかよくわからんな。
咲:そうだよね~。ご縁、みたいなところあるよね。
相変わらず会話が尽きない夕食も程なく終わった時。
咲:…〇〇。ちょっとお話がありまして。
〇:ん?改まってどうしたの?
咲:まずはこちらをご覧ください…
スマホの写真を開き、〇〇に差し出す。
〇:えっ!こ、これって…
映っていたのは、腹部のエコー写真。わずかに見える、小さな点。
咲:…今日病院行ってきたの。2ヶ月だってさ。
〇:…ってことは…
咲:…私たち、パパとママになるんだよ。
お腹に手を当てて、優しく微笑む咲月。
〇:さ、咲月~~~!!!
ガバッと咲月を抱きしめる。
咲:うぁっ!く、苦しいよ〇〇…
〇:あ、す、すまん!おめでとう!?ありがとう!?
内から溢れてくる喜びを捌ききれない〇〇。
咲:ちょっと落ち着いてよ 笑 でも、喜んでくれてよかった!
〇:そりゃ喜ぶよ!!うわ〜…俺たちが、親になるのか〜…
じわじわと、噛みしめる。
咲:大変なことも多いけど、頑張ろうね。
〇:うん、そうだな。二人で協力してやっていこうな。
超ド級のサプライズを受けて、大興奮の〇〇。
その日は子供の話題で盛り上がったのだった。
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