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咲いた月の下で #08

「おめでとーーーっ!」


◯◯の家で、全員揃って二人の合格祝賀会が催された。

◯:みんな、ありがとう。みんなのお陰で合格できたよ。

咲:直前にお騒がせしちゃったけど、みんなが受け入れてくれたから安心して試験受けられたよ。ありがとう。

◯父:結果的に、何もかもいい事ずくめで終わったなぁ。

咲母:終わったどころか、これでようやく花嫁修業に本腰入れられるわ。

咲:えっ、今以上があるの…

◯父:◯◯も花婿修業しろよ。

◯:何だよそれ。何すんだよ。


いつものように、ワイワイが始まる。
大きなイベントを乗り越えて、笑顔が絶えない。

◯母:でもほんとにやることがたくさんあるわね。婚姻届出して、新居探して、結婚式して。

咲母:新婚旅行も計画しなきゃでしょ?時間が無いわ〜。

◯:式とか旅行はもうちょっと後にしたほうがいいんじゃないの?

咲:時間も、お金もないしね…

顔を見合わせる◯◯と咲月。
学生結婚の一番の障壁はやはり資金面。人生の一大イベントなだけに、仕事を始めた後にするか、質素にするかで暗黙の了解になっていた。

が、しかし。

◯父:父さんたちがやりたいんだ!

◯母:そうよ!せっかく18で結婚するのよ!まさに今しかできないことよ!

咲:えぇ~…私達より力入ってるし…

咲父:金なんか、出世払いでいい!

咲母:早くしないと全部こっちで決めちゃうわよ!

◯:なんつー親だ…

ありがたい話ではあるが、それはそれで謎のプレッシャーを感じる二人であった。


***

ひとしきり盛り上がった後、◯クシィとともに部屋に追いやられた二人。

咲:案の定、こうなったね 笑

◯:まぁ、試験前も俺らのいないところでコソコソやってたからな。

咲:心の底から喜んでくれてて、私達も嬉しいけどね。


いつものように並んで座り、◯クシィをペラペラとめくりながら、幸せを噛みしめる。

咲:婚姻届はいつ出そっか?大学の手続きに関わるから、これは早めに、って言われたよ。

◯:タイミングはいろいろあるけど、すぐ出しちゃっても良いと思うんだよね。何でもなかった日が記念日になるのも悪くないじゃん?

咲:うん、それ賛成!

◯:じゃあ、明日早速行こう。

咲:いよいよ菅原じゃなくなるのか〜。実感わかないな〜。


自分の新しい名前を何度か呼んでみる。まだ違和感はあるが、自然と笑みがこぼれる。


咲:…ねぇねぇ◯◯。

◯:ん?

咲:いつかは避けちゃったんだけどさ…

モジモジしながら◯◯を上目で見る。


咲:キス…したいな…

◯:咲月…


見つめ合う二人。
そっと、咲月の肩に腕を回して、ゆっくりと唇を重ねる。





咲:…ふふっ。

◯:…ははっ。

咲:なんだか恥ずかしいけど、幸せだね。

◯:そうだな。恥ずかしいけど、幸せだな。

時間にしてほんの数秒。
ぎこちない、初々しいキスだったが、この上なく暖かい空気が二人を包んでいた。


***

咲:わぁー、ここいいねぇ〜。

無事に役所届を済ませた二人。今日は新居探しに来ていた。

◯:築浅、日当たり良好、駅チカ。絵に書いたような好物件だな。

咲:問題は…

◯:…家賃だな。

当たり前だが好条件の部屋は家賃が高い。
親からの支援は一人暮らしの相場×2までなので、それ以上は自分で稼ぐ必要がある。

咲:アルバイトもどれくらい出来るかまだわからないしね〜…いきなり持ち出しが多いのは、ちょっと避けたいよね。

◯:家具やらなんやらも揃えないとだしな…

とはいえ、新生活シーズンでもあり、良い物件から埋まってしまうのであまり悠長にはしてられない。

◯:うーん、何を妥協するか…

咲:さっき見た駅裏のところは?

◯:いいんだけど、あそこ夜道が暗いんだよな。咲月の独り歩きが危ないだろ。

咲:◯◯…優しいんだね…

唐突に二人の世界に突入していくのを冷ややかに見守る不動産屋。
そんなこんなを数件繰り返し、少し駅からは離れるがそれなりに条件が揃った部屋に決定。


◯:無事に決まってよかったな。

咲:うん!二人の愛の巣だね!

◯:違わねぇけど、言い方が恥ずかしいよ 笑

おしゃべりしながら家路を歩く。


咲:次は家具だね~。選ばなきゃいけないものがいっぱい。

〇:結構、選ぶのって疲れるな…

咲:ホントだね。とりあえず、食べることと寝ることができればいいよね。

〇:そうだな。徐々にそろえていけば大丈夫だろ。実家も近いし。

咲:最近家に帰ると〇クシィにどんどん付箋が増えてるんだけど…

〇:マジか…多分お袋とキャイキャイやってんだろうな…

普段から仲のいい二人だけに、容易に想像がつく。

咲:〇〇は、どんな結婚式がしたいとかあるの?

〇:う~ん、宗教的なこだわりとかそういうのはないんだけど、やっぱ新婦の希望をしっかりかなえてあげたい気はするな。

咲:そうなの?

〇:投げやりな意味じゃなくてさ。晴れ姿度合いがちょっと高い気がする。

咲:晴れ姿度合い?笑

〇:もちろん俺も楽しんでやりたいけどね。咲月はどういうのがいいの?

咲:私はやっぱりウエディングドレスを着て教会でやりたいかな〜。憧れだよね。

〇:おー、いいじゃん。初詣の時のおばさん、あ、お義母さんじゃないけど、晴れ着は成人式もあるもんな。

咲:そうそう。バージンロードは歩きたいよねぇ。

〇:おじさん、あ、お義父さんは絶対無くな 笑

咲:号泣だよね 笑

〇:そして咲月も泣くな 笑

咲:…否めない!

うれしいイベントに向けての楽しい会話をしていると、長い家路もあっという間。
もうあとわずかになったそれぞれの家での生活をしっかりかみしめる二人だった。

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