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咲いた月の下で #15

さ:この度は!本当に!ありがとうございます!

頭が地面につきそうなくらいのお辞儀で迎えられる。今日は最初の打ち合わせ。


◯:あ、いや、そんな。早速力込め過ぎでは…

さ:社内でも話題になっちゃいました。どんな手を使ったんだ、って!

咲:そ、そんなに大げさな事なの?

さ:なんせ私ときたらこの入社一ヶ月の間でも数々の失敗を…あ、こ、今回は大丈夫ですから!

両腕で力こぶを作る。


◯:力まれると逆に心配だけど…

咲:た、楽しく準備しましょう?

やっぱり多少の不安はありつつも、打ち合わせ開始。とはいえあちらもプロなので、ある程度はフォーマットがある。そこにこだわりや微修正を加えていけば、それなりの形は整うものだ。


さ:ざっくりは固まりましたね!これから細かい準備を進めていくわけですが、お二人にはまず最初にやっていただきたいことがあります!

ビシッと人差し指を立てるさくら。

◯:最初の準備?

さ:はい!ズバリ、結婚指輪です!

咲:おぉ~、そういえば、そうだね。

◯:給料三ヶ月分ってやつ?

さ:それは婚約指輪ですね。お二人の場合はもう結婚しちゃってるので、もらえなかった婚約指輪をどうされるかは別途お二人で協議されてください!

◯:おぉ…こういうところでも勢い先行を実感するな…ごめん、咲月…

申し訳無さそうな顔をする◯◯。

咲:ま、スイート10まで我慢してあげるわよ。

ふふん、と返す咲月。

さ:あわわ…私ってば、また余計なことを…

咲:冗談だから、真に受けないでください 笑

だんだん、さくらの弄り方がわかってきた二人。


さ:は、話を戻しまして、もうあまり時間がないので、特急がお願いできる店を探しておきました。よろしければ、参考にされてください。

◯:わかりました。なる早で準備します。

さ:では今日は以上です。次はドレス選びになりますので、なんとなくのイメージをしてきてもらえればと思います!

咲:遠藤さん、ありがとうございました!

さくらに見送られ、オフィスを後にする。


◯:ふ〜、やっぱりこのスケジュールだとなかなか大変だな。

咲:そうだね~。でも、多分遠藤さんはもっと大変だと思う。

打ち合わせの机には大量の書類がファイルされて置かれていた。物事が決まれば、事務作業も増える。時間がないので、調整ごとも多いはずだ。

◯:花選びとか、一部お任せにしているところもあるしな。

咲:うん。初めてのお客さんで力入ってるから、無理してないといいけど…

自分たちのために頑張ってくれるのはありがたいが、少し不安になる二人だった。


***


その後も怒涛のモノ決めが続く。


結婚指輪…

◯:裏側に文字の刻印出来るんだって。何て入れる?

咲:う~ん、LOVE、とか?

◯:…単純すぎない?


ウェディングドレス選び…


咲:じゃーん!

◯:はい、優勝。

咲:もー!さっきから3着連続でそれじゃん!意見言ってよ!

◯:仕方ないだろ!咲月が着たらどれもこれも全部可愛すぎるんだから!

咲:ちょ、もぅ…しょうがないんだから…

さ:(…また始まった)


フルコースの試食会…


さ:メインは、松阪牛のステーキです!

◯:おぉ、スゴい…

咲:美味しい!けど…

◯咲:(「みづき」のご飯のほうが口に合うなぁ…)

さ:(あれ?リアクション薄いなぁ…)


***


そんなこんなを繰り返し、ほとんどの決め事が完了。


さ:お疲れ様でした!

◯:ありがとうございました。後は、準備していくだけですね。

さ:はい!私の頑張りどころです!お任せください!

ドンと胸を叩くさくら。


咲:お願いしておいてなんですけど、無理しないでくださいね…顔色少し悪くないですか?

さ:いえいえ!全然大丈夫です!頑張ります!

病人と酔っ払いの大丈夫ほど信用できないものはないが、結局自分たちにできることはなく、会場を後にする。


***


そして、月日は過ぎ、いよいよ結婚式前日。
今日の夜はお互い実家に戻り、翌朝、両家族で式場に向かうことにしていた。


◯父:あ~、なんか緊張してきた…

◯:なんで親父が緊張するんだよ。

◯父:一応、主催ってことになってるからな。挨拶やらなんやら…

◯母:菅原さんちの方がよっぽど緊張してるんじゃないの?

◯父:緊張もだし、感傷もあるかもなぁ。隣の家とはいえ、娘を嫁に出すんだから。


咲月の家では…

咲:…なんか、お父さんの表情硬くない?

咲母:朝からずっとこうなのよ。昔から意外と緊張しぃなのよね。

咲父:…

ソファに座り、テレビをつけてお茶を飲んでいるが、明らかに内容は入っていない。
視点はテレビじゃないところに定まっている。


咲母:それにしても、咲月が嫁入りとはねぇ。

少し遠くを見る咲月母。


咲母:いつかは来ることだけど、早かったわね。

咲:お母さん…

咲母:まだ学生だからあまり実感ないかもしれないけど、一足先に大人の仲間入りするようなものなんだから、しっかりやんなさいよ。

咲:うん、そうだね。

咲父:…

少し、姿勢を正して二人に向き直る。

咲:お父さん、お母さん、これまで育ててくれて、本当にありがとう。まだまだお世話になるけど、これからもよろしくお願いします。

咲父:…咲月…

目頭を押さえる咲月父。

咲母:あらやだ。明日まで我慢できなかったわね。

咲:フフッ。じゃあ私もう寝るね。明日、よろしくね。


部屋に戻った咲月。
布団に入る前に、◯◯に電話をかける。

◯T:もしもし?どうした?

咲T:ううん、なんでもないんだけど、寝る前にちょっとだけお話したいなと思って。

◯T:そっか。いよいよ明日だな。

咲T:うん。楽しみだね。お父さんスゴい緊張してた 笑

◯T:うちもだよ 笑

咲:お父さんたらね、…

その後しばらくおしゃべりした後、床についた二人。いよいよ明日は本番。

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