咲いた月の下で #03
翌日、12月24日、クリスマスイブ。
受験生には関係のないイベントだけど、同じ毎日の繰り返しに少しアクセントがつくだけでも何かの気休めにはなるものだ。
朝から塾へ行き、瑛紗に絡まれ、家に帰る。
今日は家にいた両親と夕飯を食べた後、咲月に電話をかける。
咲T:もしもし?
◯T:遅くにごめんな。今何してた?
咲T:ううん、今日はみんないたから小パーティーしてたんだ。終わって、そろそろお風呂入ろうかなー、と思ってたところだよ。
◯T:そっか。遅くて悪いんだけどさ、今からちょっと散歩に付き合ってくんない?
咲T:散歩?うん、いいよ!
◯T:ありがとう、寒いから暖かい格好で来いよ。
咲T:うん、すぐ行くね。
家の前で合流。
昔は毎日のように遊んでいた近所の公園に向かってゆっくり歩く。
咲:散歩なんて珍しいねー。どうしたの急に?
◯:んー、まぁ、なんとなくなんだけど…
咲:んん?珍しく歯切れ悪いじゃん。さては何かやましいことだな?
◯:やましいことってなんだよ…
咲:ん〜、クリスマスだし、誰かに告白されたとか!?それで咲月ちゃんアドバイスちょうだい!みたいな!
◯:何だそれ。そんなんだったらなおさら咲月には相談できないっつーの 笑
咲:えー、なんでよー 笑
夜の公園。当然イブに人影なんかあるはずもなく、外灯がただ二人の影を長く伸ばしていた。
咲:昔はよく遊んだけど、久しぶりだね~。
◯:そうだな。鬼ごっこやらかくれんぼやら、日が暮れるまでやってたな。
咲:走るのは◯◯の方が速かったけど、隠れるのは私のほうが上手かったよね!
◯:確かに全然見つけられなかったもんな。あんまり見つかんないから、先に帰ったのかと思って一回家まで見に行ったことあったもん。
咲:そうそう。私は◯◯がいなくなっちゃったから、不安になって泣きながら帰ったよ 笑
◯:そうだった 笑。いなくなるなんてことあるわけないのにな。
咲:子供だったし 笑
ブランコに並んで腰掛けて、軽く前後に揺れる。
咲:あー、懐かしい。ずっと子供のままだったらいいのに。
◯:…
咲:ずっと子供のままだったら、ずっと◯◯と一緒にいれるのになぁ…
◯:咲月…
咲:フフッ、ごめんね。なんか最近こんなのばかりだね。
少し涙ぐんだ咲月が無理して作った笑顔で言う。
◯:…咲月、あのさ。今日の散歩はなんとなくじゃなくてさ、伝えたいことがあったんだ。
咲:うん…
予感はしてたよ、というように、少し俯く。
◯◯はブランコから立ち上がり、咲月の近くに膝をついて見つめる。
◯:咲月…
◯:俺と…
◯:結婚してください。
咲:…はい…って、結婚!!!???
◯:うん、結婚。
咲:え!?ちょ、ちょっと待って!け、結婚!?付き合って、とかじゃなくて、結婚!?
◯:だから結婚だって。
狼狽する咲月、平常運転の◯◯。
咲:えーっと、うーんと、えーっと…わ、私てっきり告白されるのかと…
◯:したよ、告白。
咲:告白じゃなくてプロポーズじゃん!
◯:あぁ、そうか。そうとも言うな。
咲:じ、順番ってものがあるんじゃないの?
◯:まぁ、普通はな。
咲:普通はな、って…なんで普通じゃないわけ?
意味わかんない!と言わんばかりに〇〇にせまる。
◯:いろいろ考えたんだけどさ。付き合ったら何するかって言うと、一緒に学校行ったり、デートしたりするわけだろ?
咲:た、たぶんそうね。付き合ったことないからわからないけど…
◯:俺達ほとんどもうやってんじゃん。
咲:そ、そういうことなの?
◯:やってないこともあるかもしれないけどさ。やってないことをこれからやったとしても、咲月と結婚したいって気持ちはブレないと思ったんだよね。
咲:えーっと、えーっと、理解が追いつかない…
文字通り、頭を抱える咲月。
◯:まぁ、わかりやすく言うと、俺は咲月と一生一緒にいたいと思ってるし、その気持ちは何があっても変わらないと思った。だから、プロポーズしたんだ。
咲:でも、私たちまだ18歳、高校生だよ?
◯:法律的には全く問題ないし、高校なんてもう卒業じゃん。
咲:まぁ、それはそうだけど…
淡々と言われると、おかしいのは自分なのか?という錯覚に陥る。
明らかに普通ではないのだが、◯◯の冷静な態度に少しずつ落ち着いてきた。
咲:でも、大学離れちゃうかもじゃん…
◯:そこは、俺頑張るよ。なんとしてでも近くの大学受かってみせる。
咲:◯◯…
咲:◯◯ぅ…
大きな瞳から涙が溢れる。
◯:だから…これからも俺の一番近くにいてくれませんか?
◯◯の決意、優しさ、これまでの何気なくも幸せな思い出。
最近少しモヤモヤしていたものが、一気に吹き飛んだ気がした。
そこに残ったのは、たった一つの気持ち。
咲:ありがとう◯◯…私も大好きだよ…これからもずっと、傍にいさせてください…
◯:咲月…
そっと、咲月を抱きしめる。
咲:◯◯…
チラチラと舞い始めた雪が、一つに重なった影を包んでいった。