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咲いた月の下で #38

咲月の懐妊発表から数ヶ月経った。
必要な各所への報告を終え、体調第一の日々を送っている。


◯:…おーい、大丈夫…?

朝、出かける前に咲月に声をかける。

咲:うん…なんとかね…

両親に報告をしたすぐあとから、さっそく悪阻が始まった咲月は、今日も苦しそうにソファに横たわっていた。


◯:俺、学校と「みづき」のバイトに行ってくるけど、なんかあったらすぐ連絡してな。買ってきてほしいものとか。

咲:うん…バイト代わりに入ってくれてありがとね…

悪阻がある状態で飲食店のアルバイトはかなり厳しい。美月も事情を汲んでくれたが、◯◯も極力シフトに入るようにしていた。

◯:じゃあ、行ってきます。

咲:いってらっしゃ〜い…

弱々しく返事をする咲月を置いていくのはなんとも気が引ける。代われるものなら代わりたいとさえ思うものの、自分にやれることをやるしかないのが現実だった。


***


◯:こんにちわ~、お疲れ様です。

授業が終わったあと、咲月の代わりに「みづき」へバイトにやってきた。


美:◯◯君、お疲れ様。咲月ちゃんの様子はどう?

◯:やっぱりまだ辛そうですね。ピークは越えた気がする、なんて言ってましたけど…

美:そうよねぇ。でも悪阻が治まっても、なかなかここでの仕事はしんどいわよね。お腹も大きくなってくるし。

◯:はい、そうだと思います。ご迷惑をおかけしてすみません。

頭を下げる◯◯。

美:やめてよ。◯◯君だって忙しいのにフォロー入ってくれてるし、そもそも私にとっても凄く嬉しいことなんだから。

◯:美月さん…

周囲の思いやりが身にしみる。


美:とは言え人手不足は解消しなきゃだし、そもそも◯◯君ももうすぐ就職なわけだし、実はアルバイト増やすことにしたの。

◯:そうなんですか?

美:多分、もうすぐ来るわよ…あ、噂をすれば。

奈:こんにちわ!!!今日からよろしくお願いします!!!

ガラッと扉を開けて入ってきたのは奈央だった。

◯:奈央ちゃん!

奈:へへ〜ん!困った時の奈央ちゃん参上です!

受験を終えて◯◯の後輩になった奈央は大学二年生。二人に会いに「みづき」にも頻繁にやってきていた。
ちなみに先生と生徒の関係が解消されたので、しつこい交渉の結果、見事奈央ちゃん呼びをゲットしている。

◯:奈央ちゃんが入ってくれるなら百人力だね。ありがとう。

奈:いえいえ!私もちょうどバイト増やしたかったところだったんです!咲月センパイのためになるなら一石二鳥です!

美:ウフフ…看板娘2になってもらうわね。指導役はもちろん◯◯君、よろしくね。

◯:はい!任せてください!

奈央に業務を教えながらバイトに精を出した◯◯。客として常連だった奈央は覚えも早く、持ち前の笑顔で常連客を虜にすることに成功していたのだった。


***


◯:…というわけで、奈央ちゃんも入ってくれることになったよ。

帰宅し、咲月に「みづき」でのことを伝える。

咲:そっかぁ、それなら大丈夫そうだね。奈央ちゃんがバイトしてるの私も見たいなぁ。

◯:普通にご飯食べられるようになったら、一緒に行こうな。

咲:うん!楽しみ!

咲月の笑顔が見られて、少し安心する◯◯。


咲:今日ね、昼間に和と美空が来てくれたの。

◯:井上と一ノ瀬が?

咲:うん、もうすぐ試験だから、休んじゃった分のノートのコピーとか持ってきてくれたんだ。

大学にもなるべく行くようにしているものの、やはりどうしても難しい日もあった。

◯:そっか。そこは俺がフォローしきれないところだから、助かるな。

咲:うん。いろんな話もできて、気晴らしになったなぁ。

◯:茉央と瑛紗も落ち着いたら会いたいって言ってたよ。

咲:私も会いたいよ〜。連絡してみよっと!

体調が思わしくない日もあるが、病気というわけではない。無理のない範囲でストレス発散していくのが大事だな、と思った◯◯だった。


***


試験期間を乗り越え、大学生活最後の夏休みも終わりを迎える頃。


◯◯は6月に入って早々に内定を得、卒業単位も無事に取得を完了。下期の卒業論文を残すのみとなった。
咲月もレポート試験を中心に単位を取得し、下期はリモートでも参加可能なゼミのみとすることができた。この頃には安定期を迎え、体調的にも精神的にもある程度落ち着いた日々を過ごすことができていた。

◯◯は時間に余裕ができた分、咲月のフォロー時間以外の全てをバイトに注ぎ込んだ。塾と「みづき」の他、家庭教師やスキマバイトに登録し、4月からの初任給以上の稼ぎを出していた。


今日もバイトを終え、夜帰宅する。咲月は先に晩ご飯を済ませていた。

咲:◯◯、働きすぎじゃない?体壊さないでよ?

◯:いや、頭脳労働が多いから、それほど負担じゃないよ。生徒も受験学年は外してもらってるし。

咲:そっか、バイトも三月までだもんね。でも休みもちゃんと取ってね。



少しずつお腹も目立つようになってきた咲月が、よいしょ、と台所に向かう。

咲:そんなお疲れの◯◯に、プレゼントです!

◯:…おにぎり?

咲月が台所から運んできたのは大きなおにぎり。
夜食がプレゼント?と首をひねる◯◯。

咲:Gender reveal cakeならぬ、Gender reveal Onigiriです!

◯:Gender…って何?

咲:海外のイベントみたいなものなんだけどね、子供の性別がわかった時に、ケーキの中に入ってるクリームの色でそれを知らせるんだって。

日本ではあまり聞かないものだ。

◯:なるほど、それのおにぎり版ってことね…って、性別わかったの!?

咲:うん、今日の検診でわかったんだ〜。

そろそろだとは思っていたが、嬉しいサプライズ。


◯:え〜!めっちゃドキドキしてきた!

咲:中が梅だったら女の子、昆布だったら男の子だよ~。さぁ、どっちかなぁ〜?笑

◯:おにぎり食べるのにこんな緊張したことないわ…

おにぎりを手に取り、思いっきりかじりつく。中から現れたのは…

◯:ん!酸っぱい!!!

咲:えへへ〜!女の子でした〜!

エコー写真を見せる咲月。

◯:おぉ〜、お姫様か〜!会えるのを楽しみにしてるよ〜!

お腹を撫でながら、話しかけてみる。
この上なく幸せな空間だった。

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